言葉だけじゃ足りない。
消えることの無い記憶だけじゃ足りない。
だから傷を、刻んで。
喉奥に叩き付けられた精液をごくんて喉鳴らして飲み干して、溢れて唇を伝った分を舐め取りながら、残ってる精液を吸い出すように先っぽにキスする。
「あぁ、そうだ。今日は面白い物があるんだよ、幽利」
「んン…面白い物?」
丁寧にサオ舐めて綺麗にしながら、俺は目の前に掲げられた小さな瓶を見て首を傾げた。
鬼利にとっての「面白い物」は大体俺を痛めつけたり善がらせたりするモンだって相場が決まってるんだけど、瓶の中に入ってるのは透明な薬液のようで、ローションとか媚薬の類には見えない。
「これ…薬?」
「飲めば解るよ。体に害が出るようなものじゃないから」
「…全部、いい?」
「うん」
渡された瓶を開けて、中の液体を一気に飲み干す。透明な薬液は微かに華の匂いがして、蜂蜜みたいな甘さが喉に絡みついた。
「飲んだらベッド行ってね。服は上だけ脱いで」
「っん…解った」
ベッドに行けなんて命令されたのは久しぶりで、それだけで少し体の芯が熱を持つのを感じながら俺は部屋の奥にある天蓋つきのダブルベッドの上に乗った。
言われた通りに上だけ服を脱いで、それをベッドの下―――いつも俺が寝てる薄いマットの上に置く。
鬼利が用意した双子の病死体を身代わりにして家を出た俺達の今の家は、大量の金を前払いして借りたホテルのスイート。さすがに前の家までとはいかないけど、調度品は十分高そうだしこのベッドだって十分立派だ。
鬼利に言わせれば「センスの無い安物」らしいけど。
「腕上げて」
「…縛ンの?」
「今日のは多分耐え切れないと思うからね」
鬼利が俺を拘束するのは、俺が耐えられずに暴れそうなくらい痛くて苦しいことをする時だけ。
しかも紐じゃなくて革のベルトを使ってるから、相当酷いことをされるらしい。
「さて、と…そろそろ効いてきたかな?」
恐怖よりも期待にふるり、って体震わせた俺の腰に跨って、鬼利が首筋からゆっくり指先を滑らせた。焦らすように円を描いてから、綺麗な指が軽く爪を立てて乳首を摘み上げて、
「ひっ―――ッっ!?」
焼けた火箸でも押し当てられたみたいな激痛に、鬼利が乗ってる腰が浮くくらい体が跳ね上がった。
「っは、はァッ、はァっ…!」
「びっくりした?」
仰け反ったまま目を見開く俺を楽しそうに見下ろして、鬼利は乳首から離した手でポケットから細長い茶色の筒を取り出した。
「さっきの薬ね、感度を上げるって所は媚薬とかと一緒なんだけど、ちょっとだけ効果が違うんだよね」
「っひ、ぅ…!」
「苦痛をより感じやすくする、って言うのかな。痛覚が敏感になるんだって」
薄く爪の跡がついた乳首を指先でくにくに弄りながら、鬼利はさっき出した茶色い筒を開けて、中身を灰色のシーツの上に出す。
ざらり、と音を立ててシーツの上に出されたのは、鬼利のお気に入りの玩具の1つ。
「ちょっと爪立てただけでアレだもんねぇ?針なんて通したらどうなっちゃうんだろ」
「……ッっ!」
「幽利は痛いの大好きだから、嬉しいでしょ」
鞭の痛みならなんとか快感に変えられるけど、針で刺し貫かれる痛みに耐えるのはただでさえ苦手なのに。いつも以上に痛覚を敏感にさせられて貫かれた時の痛みなんて、俺には想像もつかない。
「気絶なんかしないで、しっかり苦しんでね?」
予想のつかない痛みに怯えてベルトを握り締める俺ににっこり微笑んで、鬼利は目の前で見せつけるみたいに細長い銀色の針をくるりと回した。
止まない痛みに泣きながら見上げた先には、よく鬼利が使うピンク色のローター。口のすぐ近くにぶら下げられたそれに、俺はしゃくりあげながら舌を絡めて柔らかいシリコンの表面を濡らしていく。
「はい、もういいよ。力抜いててね」
「っぁ、…はひ、ぃ…ッっ」
半分くらい濡らしたところで取り上げられたローターの先が奥にひたりと押し当てられて、眩暈がするくらいの痛みに邪魔されながらもゆっくり息を吐いて力を抜く俺に合わせて、少しずつ埋められていく機械仕掛けの玩具。
たっぷり時間をかけて全部入りきって、鬼利に何度も弄られて覚えこまされた性感帯―――前立腺ってやつの所まで押し入れられたローターのスイッチが、いきなり最強まで捻られた。
「は、ぁあぅっ…!は、ぁ、はぁっ…いッっ!」
「あぁ、これでも痛いんだ。面白いね、あの薬」
ローターからの快感に喘いだのも一瞬だけで、刺されたままの針を軽く引っ張られる痛みにまた情けない悲鳴が漏れる。
朦朧としながら快感を追おうとして中のローターを締め付けるのが自分でも解るけど、薬の入った体にはどうしたって痛みの方が強く感じられて何の救いにもならない。
俺を救ってくれるのはいつだって鬼利だけで、その鬼利は俺を痛めつけて苦しむ姿を見ると喜んでくれる。
ここで止めてと本気で泣き叫べば、優しい鬼利は少し哀しそうに微笑んで「ごめんね」って謝りながら俺を救ってくれるんだろうけど。それじゃあ鬼利は喜ばない。
「このまま引っ張っったら取れちゃいそうだね。…そうだ、今度ここにピアスか何かつけてあげようか。ずっと刺激されるから今より敏感になるよ」
「あ゛、ぁッ、!ひぐっ、ぁあぅうぅッ…!」
「あぁ…痛そうだね、こんなに震えて。大丈夫だよ、まだまだ薬は切れないから」
優しく俺の髪を撫でて、鬼利は失神寸前でひくひく震えてる俺の頬に触れるだけのキスをした。
「大好きだよ、幽利。お前がこういう体でよかった」
苦痛が快感に感じると最初に鬼利に告白したのは俺だ。俺が泣き叫ぶ姿に鬼利が欲情する性癖だって知ったから、喜んでほしくて。
今はまだまだ苦しくて辛いほうが強くて鬼利を困らせるけど、その内に鬼利がしてくれることならどんなことでも感じられる体になれたら、…なんて。
そんな、夢。
「幽利?…飛んじゃったの?」
「…ごめんね。痛がってる幽利はすごく可愛いんだけど、泣いてるの見てると止めた方がいいかなって思って、手が緩んじゃうんだ」
「半端な痛みじゃ逆に辛いのにね。…その内、こんな薬なんて無くても十分叫ばせてあげられるようにするからね。もうちょっと…もうちょっと、我慢してね」
「大好きだよ」
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お互いの為を想うが故にエスカレートしていく行為。
このような救いようの無い手順で奴等の性癖は構成されて行きます。