04.



「悦。…えーつ」
「んぁ…?」


 ドット絵の世界の中で、怪物に怯える村人の家に不法侵入して壷を叩き割ってた―――夢を見てた俺は、夢の中では魔王設定だった傑の声に目を覚ました。
 涼んでるつもりが、いつの間にか寝てたらしい。目を擦りながらテラスのビーチチェアじゃなく、ベットの上に体を起こした俺の顔を覗きこむようにして、ベット脇に立った傑が首を傾げる。


「大丈夫か?」
「なにが…?」
「すげー汗」
「あー…」

 寝起きのぼんやりした頭で、ちょっと体が重いな、なんて考えてた俺は、傑に言われるがままシャツを引っ張って見て、着慣れない襟付きのシャツを濡らす予想以上の汗にちょっと驚いた。

「あと、こっちも」
「…あぁ!?」

 そして傑が視線で示した先を見て、完全に目が覚めた。
 傑に起こされる直前に俺が見てたのは、勇者って肩書をいいことに不法侵入や器物破損や窃盗を繰り返す、極めて健全なドット絵の世界の夢だ。そういや一回、露天風呂の女湯は覗いたけど、あんなモン見てどうこう成る程、俺自身は健全じゃない。……なのに。


「…なんだこれ」

 俺の下半身は、朝勃ちレベルじゃない活発さで、着慣れないスーツのスラックスを押し上げていた。


「寝言でスライムがどうこう、つってたけど…触手モノ?」
「ンな夢見るか!」

 神妙な顔で腕を組む傑にそう吐き捨てながら、俺は治まる気配の無いモノを隠すように膝を抱える。確かに青いスライムはたくさん出て来たけど、夢の中でもあんなのとヤるなんて論外だ。後始末大変そうだし。

「…何したんだよ」
「ベットに運んで、暇つぶしに寝顔見てただけ」
「……」
「マジだって。っつーかそれ、薬だろ」


 ミネラルウォーターの瓶を俺の額にこつりと当てながら、傑はそう言って僅かに目を細める。
 この変態の相手を毎晩毎晩勤めてんだから、当然ンなことは俺も解ってた。てっきり傑が寝てる間にでも盛ったんだと思ってたけど、俺の顔色を見ている傑の瞳は真剣だし、そういや勧められたオレンジジュースも結局飲んで無い。

「どこで盛られた?」
「んー…」

 疑ったのが後ろめたいのもあって傑から視線を反らしながら、俺はちびちびと受け取ったミネラルウォーターを飲みつつ首を捻る。
 傑じゃないとなると、散歩の時にウェイターから貰ったオレンジの輪切れか、帰りにやたらしつこく声を掛けて来た女の、キッツい香水くらいしか心当たりが無い。軍警の2人には触れられてすらねぇし、この船で傑以外で俺に媚薬盛ろうとする奴なんて、

 …1人居たんだ、そういえば。

「……あのクソ親父」


 あのムカつく顔を思い出した瞬間少し中身が残った瓶を傑に押し付けて、ベッド脇の間接照明で左手を確認した俺は、小指についた小さな小さな傷跡に思わず低く吐き捨てる。
 ガッツいてるだけだと思ってた俺が甘かった。よく見ないと解らないくらい小せぇけど、小指に残ってるのは間違いなく針傷だ。


「親父?」
「軍警に会う前に、昔の客のド変態に捕まったんだよ。……指輪に針仕込んでやがった」
「そりゃまた…筋金入りだな」

 差し出した俺の手の針傷を確認して、傑は苦笑混じりに俺の小指にキスを落とす。
 指輪を付け替えるような素振りは無かったから、あいつは常時あの危ねぇ指輪を着けて、“獲物”を狙ってるんだろう。客だった頃はただの鎖骨フェチの変態だったけど、数年の間に更に下衆方面に進化したらしい。


「ああいう馬鹿を捕まえろってンだよ…」

 見境無いってのが俺より危ねぇよ、とシャツの襟を緩めながらぼやいた俺に、傑が反対側のベットに腰を下ろしながらくすりと笑う。

「でも、良かったンじゃねぇの?“毒牙”に掛かったのがお前で」
「はぁ?」
「温室育ちのお坊ちゃんお嬢ちゃんが引っ掛かるよりはマシじゃねーか」
「…ンだよその言い方」


 確かにそうだけど、どこの馬の骨とも知れねぇ親父に薬を盛られて「良かった」なんて、普段の傑なら絶対言わない。棘のある言い方にカチンと来たのが半分、どうでも良さそうな態度にちょっと傷ついたのが半分で、振り返って軽く睨んだ俺を、藍色の瞳が一瞥した。


「…っ…」
「なにって、事実だろ」

 ぞっとするほど醒めた視線に小さく息を飲む俺に、傑が追い打ちを掛けるように冷たく笑う。

「薬盛られンのも犯されンのも慣れてるだろ。元客のド変態に、のこのこついてくくらいだもんな」
「ッ違ぇよ、他の客も居たから裏で殴ろうと思って、」
「仲よくお手て繋いでか?」
「っ……」

 あの時は面倒でされるがままだったけど、しようと思えば手は振り払えたし、その前に逃げて撒くことだって出来た。指輪に針を仕込むなんて予想外だったけど、まんまと薬を盛られたのは確かに俺の油断の所為だ。

「まぁ、中途半端に放り出した俺も悪かったけどよ。“お預け”が出来るような体じゃねぇし」
「…ごめん」

 軽く首を竦める傑に言外に「淫売」と罵られても弁解が出来ずに、俺は俯きながら呟いた。初めての豪華客船に知らねぇ内にはしゃいで油断して、あんだけ言っときながら傑に迷惑をかけたことを謝ったつもりだけど、上目遣いに覗った傑の瞳はまだ冷たい。

「謝れなんて言ってねぇよ。誰に尻尾振ろうがお前の自由だ」
「ッ…傑!」

 手の中の瓶を弄びながらどうでも良さそうに言う傑に、俺は耐え切れなくなって跳ねるようにベッドから立ち上がった。

「なに」
「違う。…そんなんじゃ無い」
「軽いな」


 深い藍色の瞳を見つめながら出来る限り真摯に言った俺に、傑は顔色一つ変えずに吐き捨てる。

「口じゃァなんとでも言えンだろ」
「…じゃあ、証明する」
「へぇ?」


 今は本当に傑以外とヤるのは嫌だ、傑だけだ、なんて。そんな俺にとっては当たり前のことを証明する方法なんて解らないのに、冷たい視線に耐え切れずそう口走った俺に、傑が微かに笑った。
 ぐい、と強引に腕を引かれて、されるがままにその足元に膝をついた俺の頬を、瓶に冷やされた傑の手が包むように撫でる。それだけで痺れるような快感が走るのを必死に隠して真っ直ぐに傑の瞳を見つめる俺に、傑は低く囁いた。


「やってみろよ」


 いつもと違って甘さの欠片も無いその声に、ざっと全身に鳥肌が立った。内心じゃあどうやったら納得して貰えるのかなんてさっぱり解らずに、射抜くような藍色の視線に怯えてるのに、今更薬の効果を思い出したように下腹が熱くなってくる。

 …幽利の気持ちが、少し解ったかもしれない。






 裸に剥かれた肌の上を、粘度の高いローションを絡めた傑の手がゆっくり撫でる。
 鎖骨から脇腹を伝って、薄く浮いた腰骨を掠めるように撫でられると、薬に浮かされた体はそれだけで芯まで痺れて、投げ出した足が強張るように震えた。

「はぁっ…ぁ、ん…っ…傑ぅ…ッ」
「……」

 もどかしさに耐え切れずに力の入らない手で傑の二の腕を掴むけど、傑はちらりと俺の顔を一瞥しただけで、表情も変えずにシーツに転がっていたローションのボトルを取った。


「お願い、だから…っもう…ひぅ…!」

 キュポン、と口を使って空けられたボトルに、この生殺しがまだ終わらないと思い知らされて泣きそうな声をだした俺の胸の上に、ひっくり返されたボトルから冷たいローションが降る。
 ずっと周りを撫でられるだけで一度も触れられないまま、散々焦らされ続けた乳首は薬の効果を差し引いても敏感で、冷たい雫が零れただけで神経をざらりと舐められたような快感が走った。触ってほしい。撫でて、引っ掻いて、押し潰して、少し痛いくらいに滅茶苦茶に弄られたい。


「さわ、って…ちくび、弄って…下さ…っぁ…!」
「自分でやれよ、そんなに触って欲しいなら」

 俺がもどかしさに気が狂いそうになってるのを知っている傑は、絶対に乳首には触れないように零したローションを塗り広げながら、その二の腕を掴んでいた俺の手を胸の上に置いた。
 追加されたローションの所為で滑りの良くなった傑の手が、またじれったい動きで皮膚の薄い脇腹をするすると撫でる。遅延性だったらしい薬の効果は薄れるどころか今がピークで、全身鳥肌が立ちっぱなしだ。ほんの少し、少しだけ手を動かせば、身を捩って泣きたくなるくらいのこの疼きが楽になる。


「っんン…は…ぁあ…ッ」
「…触りたかったんじゃねぇのかよ」

 淫乱な体が今にも手を伸ばそうとするのを残った理性を総動員して抑え込み、代わりにシーツを掴り締めた俺を、耳元に顔を寄せた傑が冷たく笑った。ただでさえ限界な所を精神面でも追い詰められて、正直もう嫌だって泣き喚いて縋りつきたいくらいだけど、我慢して首を横に振る。

 俺には傑以外に居ないってことを証明する為に、傑が触ってくれるまでは自分でも触るわけにはいかない。今の状況だって傑にお膳立てされたものだし、本当にそれで傑が納得してくれるのかは解らないけど、薬と焦らしで頭の働きが鈍った俺には、お許しが出るまでこのもどかしさに耐える以外に方法が思いつかなかった。


「傑、に…さわ、って欲しい…っ」
「……」
「自分じゃ、嫌…だ…!」
「…へぇ」


 今にも崩れそうになる根性無しな自分の理性に言い聞かせるように、ぎゅっとシーツを握った手に力を込めながら言った俺に、顔を上げた傑が軽く目を細める。

「じゃあ、根性見せて貰うか」

 嗜虐的に笑った傑の手が、内腿までローション塗れにされた俺の足を、胸に膝が着くくらいに持ち上げた。太股を抑えられているだけでざわっ、と肌が粟立って小さく息を飲んだ俺に見せつけるように、腹の上のローションを絡めたもう片方の手が、乳首以上に触って欲しくて仕方が無かった奥にひたりと触れる。


「ひっ…ぁ、あぁあ…ッ!」

 無駄だと解ってても“もしかしたら”を期待してしまう俺を嬲るように、意地悪な指が自分でも解るくらいひくついてるソコにローションを塗り込めていく。2本の指で押し広げるようにされて、少しだけ口を開けさせられた蕾の縁を爪先で引っ掻くようにされると、ずぐんと腰に響くくらいの疼きで頭の中が一杯になった。

「あっ、ぁ、あぁッ…そ、それ…や、めっ…ぁああ…ッ!」

 耐え切れずに上半身を捻ってシーツに縋りつくけど、散々そこでの快感を覚え込まされた前立腺がじくじく疼く辛さはその程度で我慢出来るほど軽く無い。爪先が入り込みそうなギリギリの所をくるくる撫でられたり、谷間を濡れた指でそっと辿られる度に爪先まで痺れるような疼きが走って、頭がおかしくなりそうだ。


「も、もぉ…許し…っッ」

 シーツをくしゃくしゃにしながら涙声を上げても傑は指を止めてくれずに、無意識に跳ねる俺の足を抑える手に力を込める。

「は、ひっぁ…ぁあぁっ…指、いれっ…ナカ、弄って、ぇ…ッ!」

 中途半端に期待を持たされてはそれを裏切られるのを延々と繰り返されて、気が違いそうなもどかしさに泣きじゃくる俺の頬に、不意に冷たいものが触れた。
 針で刺されたようにびくんと跳ねた体を強張らせながら見上げると、ベッドの下に投げ捨てられていた筈のミネラルウォーターの瓶が、傑の手の中で揺れている。

「はっ…ぁ、は…っ…」
「これなら入れてやるけど、どうする?」

 片手で変わらず奥をくにくにと嬲りながら、傑は瓶の口を俺の胸板に擦りつけた。瓶の3分の2くらいの所から口に掛けて、円錐状に細くなっている部分にローションを塗りつけながら、何か抉ってくれるモノを欲しがってひくつく奥を、指先でとんとんと叩く。

「っ…や、」
「これが嫌なら何も入れてやらねーし、他のお前が触って欲しいトコも絶対触ってやんないけど、それでも?」


 心の中じゃ入れてやる、って言われただけで跳び付きそうなくらい欲しくて欲しくて堪らなかったけど、傑じゃないただの瓶なんてダメだ、と必死に頷くのを堪えて首を横に振りかけた俺に、傑は瓶を揺らしながら軽く首を傾げた。

「いつもみたいに許して貰える、なんて思うなよ。薬が切れるまでずーっと、お前が失神するか、俺以外に手ぇ出すまでこうやって焦らし続けるぜ」
「っ……!」
「それでも要らない、ってンならイイけど」

 …このままいくら我慢して、必死に耐えても、許して貰えない。

 まだ冷静な頭のどこかが囁いた傑の言葉の意味に、じわりと涙が溢れた。最後の希望まで取りあげられて、今必死で張ってるこの意地も、結局は無駄なことだと突き離されたら。
 そしたら、もう。我慢する意味なんて。

「っぅ…く、…ひぅ…っ…」
「……」

 押し殺す気力も無く小さくしゃくり上げながら、俺はシーツを握り締め過ぎて震える手を、傑の持つ瓶に伸ばした。
 ローションを纏ってぬめる瓶をもたつきながら逆手に握って、そのまま、瓶を。

「…っ…!」

 傑の背後、無駄に豪華なバーカウンターに向かって、思いっきり投げ捨てた。

「…悦?」

 女が投げたような情けない放物線を描いてカウンターの下に当たり、ガシャンと音を立てた瓶を振り返った傑が、俺の方を見ないままに言う。
 それが最終通告だってことくらい、今の俺の頭でも解った。でもダメだ。この後のことを考えると震えるくらいに怖いけど、それでも、これを破ったら他のことまで全部崩れるから。傑だけだ、っていう俺の思いまで有耶無耶になりそうだから。


「っ…傑、が…いい、んだよ…!」

 無駄だとしても、それだけは。
 その思いだけで逃げ出しそうな体を抑え込んで、ぎゅっと目を瞑りながらこの後の責めに備えてシーツを握り直した俺のすぐ横で、ぎしりとスプリングが軋んだ。

 ぐっと近づいた気配と共にするりと晒した肌を吐息に撫でられて、思わず体を硬くした俺の首筋を唇で撫でながら、甘くて深い声が呟く。


「…そっか」

 さっきまでの冷たさを無くした、寧ろ優しげなそれに薄らと目を開きかけた俺は、ぬちゅりとローションを鳴らしながら滑った傑の指に、意思に反して大きく目を見開くハメになった。

「ひッぁ、あっぁああッ!」

 ローションをたっぷり纏った指にするりと撫でられた乳首をきゅうっと摘ままれて、予想してなかった強い刺激に体が跳ねる。欲しくて欲しくて仕方が無かった快感はお預けされてた分だけ倍増しで、これだけでドライでイけんじゃないかと思うくらい気持ちいい。


「舌のほうがイイ?」
「あぅっ、な…んで…っ?…あっ、あぁあっ!」
「すっげぇ反応イイから。指だと痛ぇかなー、って」
「そ、うじゃねっ…んぅう…!」

 惚けたコト言いやがる傑を引っ叩いてやりたいくらいだったが、ローションを塗りつけるようにくにくに撫でられたり、同じように敏感になった反対側の乳首を濡れた唇に啄ばまれたりする度に、電気みたいな快感が頭のてっぺんまで突き抜けてる状態じゃ指一本満足に動かせなかった。
 せめてもの抵抗にその美貌を思いっきり睨んでやったつもりだけど、胸から顔を上げた傑はそれを見て心底愉しそうに笑いやがる。


「きょ、うは…んっ…ゆる、さね…って、ぇ…っい、ったの、に…ッ!」
「言ったな」
「は、はぁッ…気ィ失う、まで…じらす、んじゃ…ねぇ、のかよ…っッ」
「あぁ…焦らされたかった?」
「ッ…な、わけ…ねぇだろ…!」

 ちらりと一瞥しながら指を離されて、途端に強くなってぶり返した疼きにその首に手を回して引き寄せた俺の鼻先に、傑がちゅっと音を立ててキスを落とした。

「じゃあいーじゃん」
「…よく、ない」
「そうか?」
「だ…って、…なんで、怒ってたのかも、俺、まだ…ぁっ」
「解ってねぇのかよ」

 押し潰すようにくにくにと乳首を弄ぶ指先の動きに邪魔されながら、なんとか真剣な表情を作って藍色の瞳を睨む俺に、傑はどこか呆れたように笑って、その首を抱き寄せてた俺の手を握る。


「…これがもし毒だったら、今頃どうなってた?」
「え……」
「そーいうことする奴じゃねぇから油断した、ってのは解ってるけどよ。殺しにかかってる奴以外にガードが緩いんだよ、お前」

 苦笑混じりにそう言って、傑はこつんと俺の額に自分のそれを押し当てた。

「悦にとってはそっちの方が楽でも、見えねぇ所でやられると気が気じゃねぇの。でも、ストレートにもっと自分を大切に、なんて言っても聞かねぇだろ」
「っ……」
「だから痛い目見せてやろうと思ったんだよ。…お解り?」


 最後はおどけたように言って、顔を上げた傑は小さく首を傾げた。さっきまでの傑の態度と、冷たいくらいの真剣な藍色を思うとその冗談っぽい仕草が尚更刺さって、俺は何も言えずにただ頷く。

 ただの人間の俺だって、“鴉”の後輩が無茶をする度に気が気じゃなかった。毎日何人も死んでいく中でも、慣れるなんて出来ずに心配だった。
 俺はそんな心配を傑相手にすることは無かったし、きっとこれからも無いけど、傑は違う。俺は傑から見れば十分弱い。あいつらと同じように、いつ死んでもおかしくないくらい弱くて、脆い。

 もしも俺が傑の立場で、傑が今回の俺と同じようなことをしたら。
 自分の目の届かない所で、毒だったかもしれない針を刺されたりしたら。


 …考えただけで、ぞっと背筋が寒くなった。


「傑…ごめん、俺…っ…んぁあ!」
「もうしねぇならいい。…しっかし感度イイな」

 わざとらしく感心したように言いながら、傑は俺の言葉を途切れさせた唇で赤くなった乳首を甘噛みする。軽く歯を立てたりちゅく、と音を立てて吸い上げたりしながら、俺の手を離した指先が脇腹を滑って、臍の下を戯れに擽ってから更に下へ。

「ぁ、あっ…すぐ…る…っッ」

 ちゃんと謝らなきゃ、と頭ン中では思ってても、焦らされ続けて感度の上がった淫乱な体は、内腿を撫でられるだけで油でも注がれたみてぇに下腹を熱く焦がして、さっきまでのシリアスな雰囲気なんてどこへやら。
 甘ったるく媚びた声を上げる俺をちらりと一瞥して、傑は指先を奥へと滑らせながら、ぽつりと呟いた。


「…頼むから俺以外に聞かせンなよ、そんな声」



 >>Next.




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