安っぽいシルバーのバンから一斉に降りた8名の軍警員の動きは速やかで、傑がちょっと引くくらいには的確だった。
統率された動きで周囲のクリアリングを済ませると、拘束衣姿の傑を更にストレッチャーに厳重に縛り付け、4つの銃口でその頭を狙ったまま速やかに後部ハッチからバンへと収容した。がちゃりと乱暴にストレッチャーごとバンの床に下ろされ、搬送役の2人を足した6つの銃口に傑が囲まれたのはドアが開いてからぴったり15秒後のことだ。どうやら今日この瞬間の為にそれなりの訓練をしてきたらしい。
こっちは指一本動かせない予定なのに真面目なことだ。特殊ゴーグル越しに自分を見据える6対の瞳をぐるりと見渡して、傑は静かに息を吐く。彼等が恐慌を起こさないよう努めて密やかにしてやったつもりだったが、最大級の警戒を以って化け物を取り囲む6人は、一斉に引き金に掛けた指を引き攣らせた。
「ご協力感謝します」
「契約ですから」
「……あれで、」
車外から聞こえる声が不安定に揺らぐ。多分運転席に座っていた男だろう。他の7人と同じ最新の重装備ではあったが、恐らく所属が違う。鬼利の相手をしているのがその証拠だ。
荒事慣れした特殊部隊の班長が、ILL最高幹部の話し相手に選ばれるとは思えない。何せ彼等お得意の恫喝だの威迫だのの類が最も効かないのが、あの鬼利という男なのだ。
「勿論です」
言い淀む軍警員に、一発殴られただけで20本は骨が折れそうな虚弱体質は涼しい声で答える。話し相手とは別に、車に乗っていないもう一人が横で銃口を突き付けている筈だが、あの橙色はそんなもの、きっと一瞥すらしていない。
「状況は順調です。先程も申し上げましたが、“契約”は守りますよ」
「あれで、……本当に」
「慎重ですね」
並々ならぬ緊迫によって低く押し殺された言葉に、鬼利はあからさまに苦笑した。相手の、正確には何としてもここで鬼利の言質を取ってこい、と命令しただろう相手の上司の愚かさに呆れると同時に、層の薄い会話に飽きてきている。
度を越して鍛え上げられた表情筋と精神力でそれを相手に悟らせることは無いが、あれで鬼利は結構面倒くさがりだ。これは次で終わらせるな、と枷の下で笑った傑の予想通り、“飼い主”は物憂げな溜息を吐く。
「気休めを言うのは嫌いなのですが、仕方ありません。……絶対に大丈夫です。貴方の信じる神に誓って、今のあれは“安全”ですよ」
「……解りました。失礼します」
「このような辺境までありがとうございました」
「行くぞ」
それまで黙っていたもう一人、助手席にいたこの部隊の班長の一言で、2人は車へと戻ってきた。安っぽいのは外側だけで、内側は装甲車並に改造された特別護送車の、そこだけはパンフレット通りに偽装された前部座席に乗り込む。
エンジンが掛けられ、左右のドアが閉められる。その寸前に、恐らくヘッドライトに照らし出された鬼利は、あの完璧な笑顔でもって言った。
「道中お気をつけて」
滑り込んだ最悪の嫌味に、移動式の密室の空気は一気に張り詰め―――それを振り払うように急加速して反転した車のGを感じながら、傑は必死に笑いを噛み殺す。油断して肩でも揺らしてしまった日には蜂の巣にされるので、それはもう必死にだ。
生身ならともかく、こんなものを着た状態で撃たれては、弾がどこに跳ねるか解ったものではない。
手紙に明記されていたので予想はしていたが、デート会場は本当に軍警本部だった。
傑が見える範囲の窓は全て濃いスモークで塗りつぶされていたが、方向感覚を狂わせる為に右左折を繰り返すことも、追跡を撒くための唐突な車線変更や進路変更をすることもなく、偽造バンはスムーズに“街”から車両用昇降機で“空”に昇り、皇都の西部にある目的地へと真っ直ぐに向かって行く。
6つの銃口と6対の瞳は終始傑を注視したままだ。ストレッチャーは車に固定され、その両脇には折りたたみ式の簡易シートが据え付けられている。中央区を出た辺りでそれを活用するものと思っていたが、傑の予想に反して6人の軍警員は舗装の荒いD地区を走っている時も、揺れる昇降機での移動中ですら、終始片膝をついた体勢のままで傑を狙い続けた。
まさかずっとそのままのつもりか、と思わず何度か畳まれたままの簡易シートに視線をやっていると、ゴーグル越しにも解るほど汗だくになった1人が意を決して腰の手榴弾を取り出したので、傑はバンが昇降機を降りた辺りで両目を閉じた。
その動作にまた3人ばかりが反応した気配がしたが、色々と面倒だったので無視した。3:3の交代制の方が効率が良いよ、と親切に教えてやった所で彼等がそれを聞くとは思えないし、まず喋るには口枷を内側から引き千切らなければいけない。面倒だ。まずあの目が頂けない。
あからさまに怯えています、と如実に伝えてくるあの目。これで相手が悦で、場所がベッドの上なら腰に来るシチュエーションだが、残念なことに相手は汗みずくの特殊部隊である。全く燃えない。しかも7Pだ。場合によっては9Pに発展する可能性だってある。考えただけで不能になりそうだ。これなら鬼利のバニーガール姿でも想像していた方がまだ楽しめる。
「……おい」
「ま、まさか…!」
傑が暇つぶしの為に脳内で着せ替え人形にしていた鬼利の衣装が、15着目のヒョウ柄ビキニになった頃、前部座席の2人が騒ぎ出した。現在位置は移動距離と周囲の音からして、軍警本部の裏口辺り。
裏口とは言っても門もある正式なものだ。人目につかないようにもっと奥で、それこそ資材搬入口から銃だの備品だのに紛れて運ばれるものだと思っていたのだが、傑の予想に反してバンはゆっくりと減速し、裏門の扉が完全に閉まった所で停車した。明らかに狼狽していた運転席の軍警員が慌ただしく降りて行く。
「た、隊長、何故ここに!」
「だって彼が来てるんだよ?出迎えないなんて失礼じゃないか、ポール君」
「副隊長!」
「彼はデュークだ。御苦労、お前は通常任務に戻れ」
「しかし……!」
「掃除は済んでいる。そこの馬鹿が飛びつかない内に積荷を降ろせ」
「……聞いたな」
車外から騒々しく響く3人の声を聞き取って、助手席に居た男が軽く手を降る。それを合図に、誰かに積荷と称された傑は銅像のように硬直していた6人によって、収容時と同じく迅速に車外へと連れ出された。
車はやはり、軍警本部の裏門広場の半ばで停められていた。肩と胴と足に加え、頭までベルトで固定されている所為で天然の夕日に目を細めていた傑を、搬送役2人がストレッチャーを操作して直立の姿勢にさせる。斜陽に照らされたかつての要塞は往年の威容を損なうことなく聳えていたが、傑が現軍警本部であるその荘厳さを堪能する暇は無かった。
「ああ……!」
堅牢な本部庁舎をバックに立つ3人のうち、真ん中に立っていた赤毛の男が、傑と目が合うなり感極まった声と共にばっと両手を広げ、スキップでもし始めそうな足取りで駆け寄って、来ようとした所を左隣の男に肩を引かれて思いっきり後ろにすっ転んだからだ。
「あぎゃっ」
無様な声と共に地面にひっくり返った赤毛に、傑を取り囲む7人と赤毛の右隣に居た1人が狼狽える。無理もない。痛いよクロチャン、等と喚きながら立ち上がった赤毛は、将官位のみに許された濃紫を身に纏っていた。
「不用意に近づくな。部下の前だ」
「……わかったよぅ」
ここにいる人間の中でただ1人、階級至上主義の軍警の常識をぶち破っている左隣の男に嗜められ、赤毛は子供のように口を尖らせつつ服の裾を払う。左隣りの男が着ている軍服は佐官位の紺色だ。軍警の、いや軍の常識ならこの場で撃ち殺されても不思議は無い所業だが、赤毛は部下の暴挙を気にした風もなく、改めてその場で両手を広げた。
―――ああ、これは面倒な奴だ。
直線で注がれる青灰色の視線を仕方なく受け止めながら、傑は嘆息する。彼我の距離は車2台分ほどだ。あからさまにうんざりした傑の表情が見えない筈もないのに、赤毛は目が悪いのか頭が悪いのか全く気にすることなく、高らかに詠った。
「“我が目は今この時漸く開かれた。今まで見た全てのものは前座に過ぎない。この盲いた双眸は御身を焼き付ける為だけに此処に在る。麗しの我が背、絶望を運ぶ者よ!”」
朗々と詠い上げた赤毛の男を、重装備の8人は瞠目して見つめ、紺の軍服の男は呆れた様子で目を逸らした。出来れば傑もそれに倣いたかったが、残念ながら頭はベルトで固定されているし、顔を背けるなんて大きな動きをしたら頭がスポンジになる。
鬼利に目隠しを用意させなかったことを心底後悔したが、ここまでがっちり目が合っていては逃げようが無い。仕方なく、傑はきらきらと瞳を輝かせる赤毛が望んでいる答えを―――彼が詠ったキュベリアの『獄炎』第四章七節で、ロロウスが自らの狂気の具現化である灰の使徒の存在を始めて肯定した台詞に、劇中で灰の使徒がそう答えたように、ゆっくりと三度瞬いて見せた。
最近は「そうだ、私がお前の目を開いた」と答えるのが主流だが、今の傑は口を塞がれている。声の調子からしても旧翻訳の方をお望みだろうと瞬いて見せたのだが、その解釈は正解だったようで、赤毛は瞳の輝きを三割増しにしてその場でぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「すごい、すごい!ねぇ見た、見たよねクロちゃん、答えてくれた!彼が答えてくれたよ!」
「解った、解ったから跳ぶな」
「新訳もいいけどやっぱり旧訳の使徒の方が彼にはあってるよね!『花園』の悪魔もいいかなと思ったんだけど、シェナーゾは少し湿っぽいからさ、無神論者のキュベリアの方が彼の境遇には相応しいし、悪魔ってなんだか直接的で面白くないし」
「そうだな。ところでその使徒だか悪魔だかはそこに立たせたままだが、いいのか」
「あ!」
全身で鬱陶しいほどの歓びを表現していた赤毛は、そこで漸く傑の存在を思い出したように左隣の男を揺さぶっていた手を止めた。左手を一度胸元で水平に掲げてから肩口に上げて傑に向いていた銃口を一斉に下げさせると、軍靴とは思えないほど高い踵を揃えて芝居がかったお辞儀をする。
「ようこそ軍警本部へ。歓迎するよ、純血種君。さあ入って!」
喜色満面で言い放つなりスキップで本部へと向かう赤毛の後ろ姿を、拘束衣の上にストレッチャーに縛り付けられたままの傑は無言で見送った。
別にこのままでも付いていけないことは無いが、色々と面倒だったからだ。
さっさと庁舎に入っていってしまった上官を後目にした「クロチャン」の指示によって、傑はストレッチャーを仰向けの体勢に戻され、今度は班長含めた5つの銃口に囲まれながら軍部警察本部へと運び入れられた。
機能美を追求して改装された味気も素っ気もない廊下を、誰ともすれ違わないまま、ガラガラとストレッチャーに乗せられてしばらく進む。昇降機で降りた地下2階には先程の赤毛が待ち構えており、そこで重装備のうち班長以外の6人とはお別れになった。帯刀すらしていない赤毛が、頭の後ろで腕を組みながらけろりと「運ぶ人だけでいいよ」と言ったからだ。
班長に運ばれながら進んだ廊下は資料庫のようで、上階の半分以下に落とされた照明は目に優しかったが、傑は目を閉じたままでいた。ストレッチャーの右に左に前に後ろにと、慌ただしく位置を変えながら纏わりついてくる赤毛の視線を遮るためだ。
「早く早く!もうそんなの要らないよ」
「ベルトに触るな、速度は変わらん」
「その口のも取っていいよ」
「無茶な命令をするな。いい、曹長。後で俺が外す」
「ねぇ今何分?27?あと8時間と33分しか無いの?延長って出来るかな」
「無理だ」
「この前の5344の概要でも駄目かな」
「駄目だ。俺の首が飛ぶ」
「あ、そう言えば純血種って首が飛んだら飛んだ後の首はどうなるの?」
「着いてからにしろ」
「あのとき残ってたのは血だけだったんだよね。そうだ血と言えばさ、」
「アルファ」
「だってクロちゃん」
「アルファ、少し黙れ」
ここまで来たら口枷引き千切るくらいの脅しは許されるんじゃないか、と傑が考え始めた頃に、傑の思いを代弁してくれたクロチャンが歩調を早めた。ストレッチャーを追い越して等間隔に並ぶドアのひとつの前に立ち、虹彩認証のロックを外す。
「おつかれー」
「御苦労、下がれ」
「はっ」
班長に代わってクロチャンに運ばれて入った部屋は、実に質素なものだった。
壁こそ完全防音になっているが、余裕で肩が通る換気口を閉じるのは簡素な鉄格子だけで、ドアはただの防弾製。家具は簡素な机と椅子が二脚のみで、檻も鎖も拷問器具も無く、机に乗っているのは場違いに瀟洒なティーセットだけだ。
注射器の一本も用意しないのはどうなんだとクロチャンを見るが、鋼色の軍人は傑と目を合わせることなく、椅子の脇で静かにストレッチャーを直立の姿勢にさせると、傑を固定していたベルトを外し始める。
頭から肩、足と外して椅子の位置を調整し、腰のベルトを外して傑を椅子へと座らせるその動作は終始丁寧だ。更にご丁寧なことに椅子の背を押して机との角度まで調整してくれたクロチャンは、そこで一歩下がると、始めて真正面から傑と鋼色の瞳を合わせた。
「口枷を外す。解ってると思うが、他意は無い」
「……」
実直な軍人は紺色の軍服の袖を捲くろうとしてくれたが、傑はそれを待たずにさっさと頷く。他意があろうが無かろうがどうでもいいが、さっさとしてくれないと向かいに座っている赤毛に枷を毟り取られそうだったからだ。
「大丈夫だよクロちゃん、彼は噛み付いたりしないから」
「そんな心配はしていない」
淀み無く即答して、クロチャンが傑の背後に立つ。せめて銃口のひとつでも向けといた方がいいんじゃねぇかな、保険として。と客観的な事実として化け物は思ったが、赤毛は机の上で組んだ腕を解きもせず、部下が素手で純血種の口枷を外すのを嬉しそうに見ていた。
「……随分信用してくれてンだな」
口枷をテーブルの端に置いたクロチャンが赤毛の左後ろに立つのを待ってから、取り敢えず傑はここまでの素直な感想を口にする。多少の皮肉も含ませたつもりだったが、椅子から立ち上がりながら「勿論!」と答える赤毛にそれが通じた様子は無い。ポジティブで結構なことだ。
「だって僕もクロちゃんもまだ生きてるからね!君が気まぐれを起こさないとは言い切れないけど、そんな性格なら鬼利君が契約してくれるわけないし、あ、傑君って呼んでもいい?それとも世環君の方がいいかな?」
「お好きな方でどーぞ」
「じゃあ傑君!僕はアルファ・トゥーレ・ロイリリウ・アセドナリア・ゼウ、長いからアルファでいいよ。それでこっちが、」
「皇国軍部警察特定任務専任第十四部隊副部隊長、クロム・クラールだ」
「どーも」
気のない傑の返事に、アルファは立ち上がったままで嬉しそうに頷き、「クロちゃん」ことクロムは教科書通りの目礼で答えた。子供を、それも通信簿に「落ち着きを覚えましょう」と書かれる類の子供をそのまま大きくしたような上官とは反対に、副官は名前の通りに硬そうな男だ。ヒールが8センチはある特注の軍靴と、本部詰めにはまず不要だろう正装用のゲートルに並んだ金釦の細かい傷が、それぞれの持ち主の性質を物語っている。
それにしてはクロムの態度があまりにもアレなのは、2人の関係が単なる隊長と副官ではないからだろう。クラール家ならば幼馴染兼お目付け役といった所か。嫡男のアルファが四軍師の一人になったことで多少の発言権は得たが、元々軍閥でのトゥーレ家の立場は弱い。反対に、目付役としてのクラール家の立場は絶大だ。
表立って横に立ち、その右腕となり盾となり刃となって、死の瞬間まで家が定めた主に付き従う。主の為に全てを捧げ、その主の家名を守る為なら主の首さえ躊躇いなく落とすのが、クラール家の人間だ。いくら耳を澄ましても機械の駆動音ひとつ聞こえないので、余程高性能な部品でも仕込んでいるか、仕込まれているのかと思ったが、成る程。
―――こいつが”目”か。
「あれ、クロちゃんのこと手紙に書いたっけ。ねぇねぇクロちゃん、俺書いたかな」
「知らん」
「うわぁ、忘れてたかも!ごめんね傑君、俺は2人でもいいって言ったんだけど、もしもの為に、あ、俺は思ってないよ?でもオジサン達は頭固いから、クロちゃん無しじゃ駄目って言うんだ。手紙には書いてなかったかもしれないけど、一緒でいい?」
ちらりとクロムにやった視線に気づいて騒ぎ出したアルファが、困りきった表情でへにゃりと眉を下げる。こてりと赤毛頭を傾げる仕草はやはり子供めいていて、甘えることに慣れきっていて、そして作為的だ。
軍警に於いての情報戦を取り仕切る特務十四隊隊長にして、総帥への発言権を持つ四軍師の一人。大戦以前からの古参という以外に取り柄の無かったトゥーレ家の、分不相応な最高傑作。
視線が読めたのなら傑がクラール家を知っていることにも気づいている。アルファの慌てた弁解に芝居臭さは無いが、クロムが“監視役”か、単なる予定外の“同席者”か、どちらにも取れるようになっている。頭は悪いが馬鹿ではない。人類の中に不定期に生まれる類の天才だ。早熟過ぎて色々と過程をすっ飛ばした挙句、ネジを2、3本飛ばしている。
「それも、お好きな方で」
「ありがとう!」
心底嬉しそうにアルファは握手を求めてくるが、生憎と傑の両腕は背中で組まれている。いくら手を伸ばされても応えようが無い傑の状態を思い出したのか、はっと手を引っ込め、少し頬を赤らめながらやっと椅子に座ったアルファを、傑は苦笑しつつ眺めた。
「じゃあ早速始めようか、傑君!」
いつでもその喉笛を噛み千切れる化け物の視線に怯むことなく、ぐっと机の上に身を乗り出して、アルファは言う。
ここでまた戯曲の一節でも詠われたら今度こそ天井を破って帰ってやるつもりだったが、青灰色の瞳にあるのは最早、子供じみて無邪気な喜びではなかった。
「……ずっと、君と話してみたかったんだ」
うっとりと呟いたアルファと、その傍らに無表情で立つクロムを眺めて、傑はぎしりと椅子に背を預ける。人間の目に自分がどう映るのか、人間に作られたが故に人間よりもそれを熟知している化け物は高望みをしない。
例え爛々と輝く青灰色が虚のような貪欲さを湛えていたとしても、その中に見慣れた畏怖だの崇拝だのが含まれていなければ、ひとまず話相手としては及第点だった。
>>
Next.
やっと口枷が外れました。
傑が1時間以上話相手にしていいと思える人間の条件
1.何もしてないのにビビらない
2.何もしてないのに崇めない
3.言葉が通じる