自他共に認める淫売であるはずの元男娼は、まるでこちらの正気を疑うような顔でぼそりと、思わず心の声が漏れてしまったような声音で言った。
「え……嫌だけど」
互いを互いの道連れと決めたあの夕方から丸二日眠り続けた悦は、起きるなりガラガラの声で水を持って来いと命じ、傑の部屋にあるまともな食料がレーションだけだと知ると、「干乾びる」と吐き捨てて自分の足で医局”過激派”に向かった。
カルヴァの話によれば、特別ブレンドの点滴を打たれながら個室どころか病室ですらない、診察室の片隅にある粗大ごみのような長椅子で更に半日眠っていたらしい。そしてまた自分の足で傑の部屋に戻って来ると、30分かけてシャワーを浴びて傑のベッドで勝手に眠った。
広いベッドのど真ん中で遠慮の欠片もなく眠る姿を観察した所、傷はどれも処置済みで発熱もなく、大丈夫そうだったので、傑はソファで眠った。
3日の間にろくな会話は無かった。傑は一応、しでかしたことの責任を取るつもりで悦を見守ってはいたが、悦は傑のことを気心の知れた同居人でも相手にするように、ごく自然に無視して好き勝手に活動していた。それはもう、夕方に起きるなりレーションを5つ開けてチョコレートバーとクラッカーとジャムだけを食い散らかし、シャワーを浴びて傑の服を着てふらっと出ていくくらい、好き勝手にだ。
そして当然のように朝帰りをした悦は、何やら不機嫌そうな顔で、リビングでレーションの残りをつついていた傑をまっすぐ見て言った。
「……上客が5本潰れた」
一応は食事をしている相手に、というか約3日振りに喋る内容が、いやそもそもそれを言ってる相手はお前の最期を見とるお前が欲しがってた化け物で、それに客の単位が色んな意味で酷い。
言いたいことは色々あったが、はぁあああ、と溜息を吐いた悦がソファの隣にぼすんと座ったので、傑は温めてもいないレーションをつつきながら「へぇ」と相槌を打った。
「一気にだぜ、一気に5本!有り得ねぇ……話いってねぇコミュ障のロリコンは発作起こして廃棄処分だし……あー、絶対あいつあと2週間はイケた」
「話?」
「俺がお前に囲われたって話」
「……あー」
「他の4本はそれで潰れた。粗チン共は零級がおっかなくって手ぇ出せねーってよ」
そりゃそうだ。キーボードを叩く連中を別にすれば、登録者の階級はそのまま「危険度」の差だと、本部塔に居住しているような”優秀”な犯罪者共は十分に知っている。傑はそんなことしたいとも思わないが、向こうはバレたら最後、嬲り殺しの目に合うと思っている筈だ。
その辺りの事情は傑より悦の方が余程知っているだろうに、不満そうな悦は呻きながらソファの背もたれに伸びている。後頭部は既に背もたれを超えて、そのままブリッジでも始めそうな体勢だ。
「他人事みてーな面してんじゃねーよ半分はてめーの所為だ、てめーの」
「そりゃ悪かったな」
「あ゛ー……くっそ……あと、他っつったら……あいつくらいか。あいつ雑だから絶対切れンだよなー……早漏だし…………仕方ねぇか」
一頻り唸って満足したのか、ストンとソファの上をずり上がっていた腰を戻した悦は、けろりとした顔で傑がつついていたレーションの残りに手を伸ばした。
半分ほど残っていたクラッカーを常温のシチューに突っ込み、やっぱ不味い、などと言いながらもそもそ頬張っている。何事も無かったようなその表情をしているが、そんな表情をしているということは結論は「仕方ねぇか」で決まったことになる。
冗談じゃない。
悦がどこで上客を何本咥えて来ようと構わないが、下手くそな下客相手というのはマズい。純血種の後ろ盾に怯まないような馬鹿なんて相当な馬鹿だ。加減間違えやエスカレートのし過ぎや薬の影響やらで、物の弾みで殺される確率も上がる。何より悦自身が「今までを考えりゃそんなもんだろ」とそれらを受け入れそうなのが一番マズい。
「……そんなに金に困ってンのか?」
「違ぇよ。したいことヤって、金はついで」
「ふーん……」
湿気たクラッカーを折らずにどれだけシチューの具を載せられるか、ぐだぐだと挑戦している悦の表情に嘘は無かった。壱級指定で”特技”持ちだ、登録者として生きている限りは金に苦労はしないだろう。小遣い稼ぎがついでなら、本命はプレイ内容か。
「複数じゃなきゃ燃えねぇとか?」
「いや、別に。二人までならいいけど、それ以上だと疲れるし、計算めんどいし」
成る程。それなら話は簡単だ。
「じゃあ、俺にしとけよ」
なにかしらの肉を煮込んだものをつついていたスプーンを止めて、傑は首を傾げるようにして悦を見る。
共倒れを決めた以上、それがどんな姿でもしっかり最期は見取ってやるつもりだが、それがどこぞの馬鹿の腹の下だったり上だったりするのは、出来れば回避したい。金でも本数でも無いのならどんなプレイだって対応可能だし、傑にとっても、いつどこで死ぬともしれない脆い人間にも、一石二鳥の条件だ。
客観的に見てもそうに違いない筈なのだが、きょとんとした顔をした悦は頷かなかった。
「なにを?」
「お前の相手」
「……マジで言ってんのか?」
「勿論」
殆どの人間にとって耐え難く魅力的である筈の傑の誘いを聞いて、悦は眉を顰めてソファの上を滑り、正確に一人分、傑から距離をとった。
そして、話は冒頭へと遡る。
我ながら間抜けな話だが、明確なビジョンを持っていたわけでは無かった。
ぎちぎちめりめりと軋んでいた、今は千切れ飛んだ何かが抑え付けていたものは、人間風に言うならば「飢え」だった。満たされない限りは心身を蝕み続けるが、満たすものはパンでも肉でも魚でも不味いレーションでもいい。兵器として生まれた純血種は燃費がいいので、たったひとくちだって構わなかった。
何だってよかった。
友達でも、相棒でも、恋人でも、兄弟でも。ペットや、喋って動く観葉植物的な扱いだとしても。選んで掴んだ道連れを愛せるのなら、最期の時にその死に顔を慈しむことができるなら、愛し方も慈しみ方も選り好みするつもりは無かった。
結論に至るまでの何もかもを忘れたような顔をして、ここが初めから自分の巣穴だったような遠慮の無さで、健全な寝息を立てるその姿を見ているだけでも傑は満たされた。生い立ちや立ち居振る舞いから推測するに、野生動物並みの敏感さを持っているであろう「人間」に気配を拒まれないだけで、ひとくちには十分に足りていたのだ。
ーーーあの言葉を聞くまでは。
「ん゛ぅ、う、ふ……ッんん゛ぅうう…!」
めちゃくちゃに抱き込んだ枕に思いっきり噛みつきながら、体を丸めるようにしてまたひとつ、”浅く”イった悦の体がぐたりとシーツに転がる。
経歴に相応しい底冷えのする目で「温いヤり方しやがったらタマ潰す」と宣言して仰向けに寝転がった悦は、退屈させないよう丹念に乳首を舐めたり引っ掻いたりしてやっている内にうつ伏せになり、背中を唇と舌で、臍を指で弄っている内にぶるぶる震えながら腰を上げ、モノを握り込んで指を入れた所で枕を抱えだし、そして今横倒れになったので、これで都合4回目の体位変えだ。
少しはじっとしていろと思わないでは無いが、今までの連中のようにキスだけで半分死んだようにぐったりされるよりはマシなので、傑はドライの余韻でぎちぎちと締め付けてくる中に2本目の指をねじ込みながら、悦の腹側に寄り添うように座る位置を変えた。
「ん゛ーっ、んぅうう……ッ!」
「いい加減離せよそれ。歯ァ折れるぜ」
「んンっ……んんー!」
「……離させてやろうか?」
元男娼のプライドが邪魔をして引っ込みがつかなくなっているのなら、となるべく優しく囁いてみるが、枕に顔を埋めたままぶんぶん首を振っていた悦はぴたりと動きを止める。プライドに障ったのか、無理矢理取り上げられると警戒したのか、それとも怯えたのか。人間に対する感性をオフにしていた期間が長すぎて、顔が見えないといまいち読み切れない。
取り敢えずタマを狙って来ない内は大丈夫だろうと判断して、傑はお誂え向きに触りやすくなった乳首を軽く撫でる。シーツに擦れて真っ赤になっていたので、傷まないようにそっと、羽が触れるような繊細さで。
「んっ!んんーっ!」
「あぁ、痛い?」
「ふ、ぅ、う……っ」
「分かんねェっての」
ナカと外の反応からして痛いだけの筈が無いが、いい加減枕越しの呻き声には飽きてきた。麻痺した感覚を戻すために顔も見たい。親の仇のように枕を握りしめている両手はそろそろ限界だろうし、カバーを通り越して中綿まで噛み締めていそうな口さえ開かせれば、嫌でも離すだろう。
「ちゃんと息しとけよ」
一応忠告だけはしてやって、動かさずにいた指を粘膜を押し広げるようにしてぐちりと開く。一生懸命誤魔化そうとはしていたが、どこをどのくらいの強さでどうされるのが好きなのかは、もう八割がた把握済だ。親指で会陰を押し上げながら前立腺を指の腹で揉み込むと、ぎりぎりと傑の腕を挟んでいた太腿が跳ね、足の指がぴんと伸びる。
「っふ、んぅううぅううーッ!」
指先まで痙攣した手にはもう力なんて入らないだろうに、強情にも枕を両腕で抱えて離そうとしない。くたくたになった枕の隙間から見える横顔は真っ赤だ。だから息をしろと言っているのに。
いい加減面倒だったので前立腺を揉み解す指はそのままに、つんと尖った乳首をきゅっと摘んでやると、ようやく悦は親の仇(仮)から顔を離した。
「い、っしょ、やめっ……や、ぁあっ、あぁああッ!」
「よぉ、久しぶり」
「も、イって、る、からぁあ!ひっ、ひぅっ、ぅうぅううっッ」
「知ってる」
「これ、やだっ、や、だぁ……っひ、ぎ―――!」
忙しない呼吸を不自然に途切らせた悦の体が、がくんと仰け反る。表面上はどこまでも澄んだ瑠璃色が半ば裏返り、壊れた蛇口のような有様になっていたモノが透明な潮を吹き出したのを見て、傑はぎちぎちに締め上げてくる後孔から指を抜いた。
がく、がくん、と痙攣を続ける背中を宥めるように撫でてやりながら、約30分振りに隠すものの無くなった悦の顔を覗き込む。
焦点のトんだ瑠璃色は見間違いようもないくらい快感に蕩けていて、化け物相手に遠慮無く悪態を吐く唇から漏れるのは吐息のようなか細い喘ぎ声だけだ。ひくひくと震える指先まで深い絶頂の余韻に浸りきった姿は、今まで場繋ぎの「餌」にしてきた人間達とそう変わらない。
変わらない筈なのに、今まで感じたことが無いほど飢えが満たされるのは、きっと喧しい軋みが無くなった所為だけではないだろう。
「……イイな、お前」
やっぱり、お前にして良かった。
ーーーなんて、感慨に耽りながら汗で張り付いた髪を払ってやろうとした傑の右手は、死角から横薙ぎに振るわれた拳によって強かに弾き飛ばされた。
「……は?」
なんだ、今の。
純血種の卓越した動体視力はそれが悦の左腕だと苦もなく視認していたが、それだからこそ理解が及ばず、傑は藍色の瞳を見開く。今のはかなり”深く”イかせた。快感以外の全ての感覚が薄布一枚隔てたような、指一つ自分の意志で動かすのにも難儀するような状態で、人間があんな体重の乗った拳を振るえるなんて、とても信じられない。
驚く傑に追い打ちをかけるように、さっきまで、瞬き一つする前まで、意識の大半をすっ飛ばして快感に浸りきっていた男娼は、今やあれだけ顔を紅潮させていた血液をどこにやったのかと思うほど白い顔色をしていた。白というより青白いと言えるレベルに。
「な、んで……」
それを問いたいのは心底傑の方だったが、悦は傑の視線を完全に無視して、振り抜いて空を泳ぐ自分の腕と弾かれた傑の腕とを忙しなく見ている。改めて見ると手は完全な拳ではなく、中途半端に空間の空いた、まるで何かを掴むような形をしていた。
「なんで、これじゃ、死ぬのに、今は死ぬのに、なんで」
ぶつぶつと物騒なことを呟きながら、薬中のように焦点の定まらない瞳が傑を見る。助けでも求めてくれれば解りやすかったのだが、透き通った上澄みからどろりと濁った底を覗かせた瑠璃色は、言動の当惑具合とは正反対の冷静さで傑を観察していた。
どう動く。
目的は。
どこを。
どうすれば。
殺せるか。
ーーーああ、全く。
「もう死ぬのか?」
堪えきれずにくくっと喉奥で笑って、傑はぐっと覆いかぶさるように悦に顔を寄せる。ぴく、と指先を引き攣らせた抜き手に、首を晒すように。
「まだ一週間も経ってねぇのに。もうちょっと堪能させろよ」
「ナイフ、が」
「あ?……あァ、必要ねぇからだろ。もう忘れたのか?」
泳いだままの手を引き寄せて首に、頸動脈に触れさせると、かちりとぶれていた焦点を合わせた瑠璃色が傑を見た。
マットレスの隙間に隠されているナイフの刃渡りと、腕を弾いた時の角度からして狙いは頸動脈ではなく側頭部だろうが、どちらでも同じだ。脳に柄までナイフを刺されようが、頸動脈ごと気道の半ばまで首を裂かれようが、結果は変わらない。
「お前が欲しがってたものなのに」
悦が己と引き換えに手に入れたものは、はじめから、望み通りにそういうものだ。
「あぁ……うん……」
ふっと糸が切れるように殺気を収めた瑠璃色が、緩慢に瞬く。そうだった、呟いた声はふわふわと蕩けていて、かりり、と頸動脈を爪で引っ掻きながら首を撫で上げた手が、ぐっと傑の後頭部を捉えて引き寄せる。
「……お前、インポかよ」
「あ?」
「さっさと突っ込めって。……今が一番イイ感じなんだから」
されるがままに肩口に顔を寄せた傑の耳元で、一時的な興奮状態を超えて再び熱を孕んだ声が従順さを嘲笑うように囁く。
いかにも、Z地区の男娼らしい言い草だ。この自分にも他人にも酷薄で蠱惑的な挑発に、きっと今まで何人もの”上客”達が踊らされて来たのだろう。望み通りに壊してやると、熱り立つ過去の金ヅル達の姿が容易に想像出来る。
でも、残念ながら傑にその気は無い。
「俺、まだ……動けねぇから、前でも後ろでも縦でも好きにひっくり返して、」
後頭部から首を、鎖骨を撫でて、胸を控え目に押し退けようとする手を掴み、まだ”客”を相手にしていると思っている悦の唇を自分のそれで塞ぐ。条件反射で差し出された舌をゆっくりと絡め取り、掴んだ手を、太腿を引っ張って足を開こうとしている手と纏めて握って顔の横に抑え付けた。壊すなんてとんでもない。
これは傑にとって折角手に入れた”静寂”であり、飢えを満たすための”餌”だ。あの夕方に定めた条件の通りに悦を手に入れた傑はそのつもりだし、同時に傑を手に入れた悦にも、同じように”餌”にされる必要がある。
傑と同じように、他の何にも代えられない”餌”に。
「ふぁ、…ん……ん、ぁ……っ?」
最後にちゅうっと舌先を吸って離した傑を、悦は隠すこと無く怪訝そうな顔で見上げてくる。挿れないのかと、それなら何をするつもりなんだと、いっそあどけなくすら見える表情は文句なしに男の劣情を煽るものだ。認める。キスもフェラもド下手くそだが、こういうテクは一級品だ。
「お前が好きなのは?」
「……は?」
「体位。前と後ろと縦、どれが好きなんだよ」
というか体位の縦ってなんだ。逆さ吊りにでもしろってことか。まあそれは風呂に入れる時にでも聞いてみよう。
「別に、俺は痛くなくてイけりゃどれでもいいけど」
「苦しいのは?」
「……なに?」
「さっき散々枕に埋まってただろ。息苦しいくらいの方が好き?」
「あれは……そういうんじゃねぇよ」
諦観と疲労を滲ませてぼそりと呟かれた言葉に嘘は無かった。過去と今が滅茶苦茶に混同するまでイっておいて何が気に食わないのかは知らないが、窒息プレイ好きで無いならそれでいい。あれは色々と面倒臭い。
「上に乗るのは?」
「だから……今足立たねぇんだって。腰上がんねぇ」
「さっきやたら嫌がってたけど、一人でイくの嫌いとか?」
「……」
答えない代わりに「うるさい面倒臭い黙れ死ね役立たず」と眇めた目で語って、悦は舌打ちでもしそうな表情で傑に抑え付けられたままの自分の両手首を見た。纏めて握り込んだ傑の掌に抵抗のての字も伝わって来ないのは偏に相手が化け物だからで、ただの人間だったらすぐさま悦は振り解いて裏拳の一つでも入れて来ただろう。潮時だ。
「悪い。今挿れる」
リハビリを兼ねてもう少し詰めておきたかったが、悦がどこをどのくらいの強さでどうされるのが好きなのか、これで残りの一割は解った。最後の一割はプライドも羞恥も理性もぐずぐずになった状態で吐かせようと決めて、傑はベルトのバックルを片手で外す。
この流れでこれだ、きっと悦は怒るだろうなと予想しながら、特定の人間を肉欲の対象として認識できない”純血種”の仕組みの為に、またそれを隠すという発想すら無い今までの経歴の為に、半立ち以下の状態のモノを取り出した。半ば呆れたようにその手元を見ていた悦の瞳が、予想通りにぐりんと傑の顔を睨み上げる。
蹴りくらいは入れられるだろうという傑の見込みに反して、悦の採った手段は鼻頭を狙った頭突きだった。
「てめぇ……ぐちゃぐちゃワケ解んねぇこと言っといて、ンだそれ」
咄嗟にぱしりと額を受け止めた指の隙間から、あの夕暮れに垣間見たのと同じ奈落が傑を見上げる。
「その気もねぇのに茶々入れんじゃねぇよ。なぁ、痛みは感じるんだったよな?俺がどうやって”ここ”で指名取ってンのか教えて欲しいか?」
人として必要な何もかもが抜け落ちた声で言いながら、ぐん、と掌を押し返して、底のない瑠璃色が瞬いた。
「てめぇへの用は今全部無くなった。消えろ」
ひとでなしの目が、明確な拒絶を告げる。
曲解の仕様もなく明朗で慈悲も無い。人間を創造主と仰ぎ存在を愛し慈しむことを本能とするように創られた世環傑にとっては、どんな罵声よりも効力を発揮する類の言葉だ。きっと傑でなくとも、ただの人間で、おまけに皇国語が解らないような異国の人間でも、こんな声音でこんな表情をされたら部屋どころか本部塔から出ていく。
過去に傑が正体を隠して接した人間達が、その中のほんの数人でもこんな風に解りやすい拒絶を示してくれていたのなら、或いは今代の”世環”はこんな有様にならずに済んでいたのだろうか。存在の全てに不利益の烙印を押されることなく、理想的なスペックが可能にした理論値の性能を一つたりとも損なうことなく。
しかし、傑がこんな風に拒絶されたのは初めてのことだった。残念ながらなのか幸いにもなのかは解らない。どちらにしろ時間は巻き戻らない。兵器としての最適解へ導いてくれていた箍はもう跡形もなく千切れて飛んだ後だ。もう何もない。
ーーーそれにしても、「消えろ」とは。
「そりゃこっちの台詞だ」
あんなに容赦のない拒絶を聞かされても感覚が鈍ることも無く、力が抜けたり、主導権が”他”に奪われることもない掌で悦をシーツに押し戻して、傑は心の底から非力で危うく愛しい瑠璃色を嘲笑う。
愛し方も慈しみ方も選り好みするつもりは無かった。そもそも選り好み出来るとも思っていなかった。もう箍は外れているのに、規制に慣れ過ぎて自由を自覚出来ていなかった。今、目の前に居るのは凡百の人間では無く、悦なのに。地の底でその全てを手に入れた、傑だけの道連れなのに。
邪魔が無いのだから心置きなく貪ればいいのだ。傑は聖人君子でもなければ良く躾けられた飼い犬でも無く、純血種という名の化け物なのだから。
「もう、だった、だけどな。お前は一回も聞かなかっただろうが」
肌が感知する室温は変わっていないのに、体温が上がるのが解った。危機管理と人間への共感の為だけに残されていた生き物としての回路に、初めてまともに神経が繋がる感覚が。
「お前が聞かなかったモンを、俺が素直に聞いてやる必要はねぇよな?」
「っ……!」
ずり、と品性の欠片もなく太腿に擦りつけたモノに、底無しに凪いでいた瑠璃色が波打つ。驚いたように跳ねた膝が腰に当たる感触にさえ、ぞくぞくと背筋を甘い電気が這い上がった。
ああ、今まで目の前で勝手に堕ちていった連中は、この熱に浮かされてこれを欲して狂っていったのか。確かにこれは、この疼きは癖になりそうだ。
「お望み通りにしてやるから足開けよ、淫売。動けるんだろ?」
今まで思考の中ですら規制に引っかかっていた言葉が何の閊えも無く舌に乗るのが可笑しくて、こんなに制限塗れで正気で居られた今までの自分が可笑しくて。喉を鳴らして笑いながら、傑は目を白黒させながらももぞもぞと足を開いた愛しい道連れの、吸い付くように滑らかな頬を撫でた。
「…ろ、……」
「あ?」
「ろ、ローション……」
まじまじと、今更見惚れたように傑の美貌を凝視したまま、戸惑いに掠れた声がか細く請う。そういえば痛いのは嫌いだったか。なんだかんだで結構な時間を食ってしまっているから、確かに先程までのローションは半分乾いてしまっている。
「あー……」
ローションボトルは手を伸ばせば届く距離に、半分以上の中身を残して転がっていたが、今は一時でも悦から離れるのが惜しい。己の欲望と教科書通りのお綺麗なセックスを天秤にかけて少し考え、結局傑は正当な進化を経た原始的な生き物の知恵に頼ることにした。
「へっ!?な、なに……っ」
谷間へと擦りつけた感触に驚いて顔を上げた悦が絶句する。説明を求めるように傑の顔と、尿道球腺を操作して滴る程に濡らしたモノを見比べる瑠璃色がどうしようもなく、先程までの比ではなく暴力的に可愛く見えて、思わず蜂蜜色の髪をくしゃくしゃと撫でた。
「これなら?」
「なんで、え、すげー量、どうなってんのそれ……?」
海綿体への血流を操作し続けるのに比べればずっと楽な作業だが、血液を逆流させることも出来ない人間に説明するのは難しい感覚だ。驚きに都合よく怒りも忘れてくれたようだし、取り敢えず今は流すことにして、髪をかき上げて晒した額に触れるだけのキスを落とす。
「根本まで濡れてるし、これでいいだろ?」
「ね、ねもと」
「ダメ?」
「い……いいけど……」
「良かった」
本当に良かった。これでダメなら精液を出すつもりだったが、挿れる前から出すのは流石に絵面がキツい。
「んっ……な、なんか……」
「ンだよ今度は」
許可も貰ったところで、と先端を押し当てた所でむずがるように腰を揺らされ、意図せず少し声が低くなる。悦は悪い、と謝った後、生娘のようにそろそろと傑のモノを見てから、伺うように小さく首を傾げた。
「なんか……お前の、熱くね?……前の時、よりも」
「そうか?」
意図的かそうじゃないか、或いは濡れているか否かの違いだろうか。勃起時の表面温度など流石に把握していないので傑にはよく分からないが、玄人が言うならきっとそうなのだろう。正直どうでもいい。
「……冷たいよりマシだろ。イイ子だからじっとしてろ」
「んっ……」
勝手に上がるばかりの熱を逃がすように息を吐きながら促すと、悦はぱっと手で口を押さえてこくこくと頷き、ずれていた腰を寸分の狂いなく傑の切っ先に合わせる位置に戻した。上半身と下半身がそれぞれ淑女と娼婦だ。淫魔かこいつは。
「んぁッ……ぁ、あ……っ」
「……っ」
淫魔だった。
手の下から呆気なく漏れた声の甘さも、熱く絡みついて奥へと誘う粘膜も、悦の全てが体内の熱を煽り立てる。少し時間が経っているから浅い所からゆっくり慣らして、なんて品行方正なプランは分け入った瞬間に消し飛んだ。
せめてもの意地で根本まで収めた所で腰を止め、はぁっ、と息を吐く。熱が籠もって息苦しい、なんて初めての感覚だ。息苦しいと思ったことすら数える程しか無いのに。どうにもコントロールが効かない。
楽しい。
「……お前のナカも、前より熱い」
「っ―――!……その、声、やめろっ!」
どん、と腕を弾いた時とは別人のように重さの無い拳で傑の肩を殴った悦が、ほとんど悲鳴のような声で叫ぶ。その声と言われても、腰を動かさずにいることに理性の大半を割いている傑には、自分がどんな声を出していたのかなんて解らない。
データとして残ってはいるが、純血種としての”箍”が介入していない、能動的な性交が齎す感覚の全てが傑にとっては初体験なのだ。自分の声などという余計な情報を処理するキャパシティなど、どこを探したって残っている筈がなかった。
「声?」
「その、妙な、ッ……クソが、なんなんだよお前!」
「なにが」
「さっきまで、仕事してるみてぇなつまんねぇ面してた癖に!」
声の話じゃ無かったのか。仕方ないだろう、まともに回路が繋がってなかったんだから。
「ああ、もう、……っうご、けよ、早く!」
「……やめろ」
喉を反らした悦が苛立しげに癖のない髪を掻きむしろうとするのを、両手首をシーツに押しつけるようにして止める。今の感覚では骨を折りかねないので、一緒にシーツを掴んだ。
「それも、全部、俺のだ」
何にも邪魔されずに溢れた独占欲に塗れた本音に、ひくりと悦の喉が鳴る。
ああ、そうだった。こいつは、悦は、痛いのも苦しいのも嫌いで、体の消耗を減らす為にバックが好きで、主導権を譲るのではなく奪い取られるのが好きで、少し乱暴なくらいに一方的にイかされるのが好きなんだった。イき方については陵辱への防衛本能が根本にあるんだろう。他にも細かく色々と分析していた気がするが、思い出すのが面倒だ。もうどうでもいい。
悦を形づくる根幹以外の細々とした枝葉なんて、好きなように塗り潰せばいい。
「人のモンを勝手に傷つけたらダメだろ?……なぁ」
「ひッ、ぁ、あぁあっ」
言い聞かせるように耳元で囁きながらずるりと腰を引くと、大人しく開いていた悦の太腿がぎゅっと傑の腰を挟んだ。こんなものは何の邪魔にもならないし、抜かないでと縋られているようでなかなか良いが、少し前にじっとしていろと言ったばかりだ。
これはじっとしている内には入らないだろう。入らない。今決めた。
「動くな、っつっただろうが。足開け」
「あぅ、うっ……ぁ、そ、こ…はぁっ……!」
「悦」
カリが前立腺を押し潰す位置で腰を止めたまま、今度は意図的に低くした声で名前を呼ぶ。化け物相手に一歩も退かずに啖呵を切った命知らずの人で無しが、叱られたように首を竦める仕草がまるでか弱い小動物だ。思いっきり甘やかしてやりたくなるが、それでは悦の趣向には沿わない。後回し。
「手はここ、解ったか?」
「っん……!」
「返事は」
「……わか、った、わかった、からぁッ」
「動いて欲しいならこれ止めろ」
きゅっとシーツを握った悦の手首を離して、控え目に揺れている腰を叩く。間に色々と挟みはしたが、それでも指で散々に嬲ってやってからまだ30分と経っていない。一番好きな所を一番好きな角度で抉られたままで焦らされて、その先の快感を知っている体がじっとしていられる筈が無いが、だからこそ自主的に止めさせることに意味がある。悦の性癖的に。
「ふぅ、うっ……んん、ん……!」
予想通り、痛みでも苦しみでも嫌悪でも無い涙で滲んだ瑠璃色を瞑って、悦は奥歯を噛みしめる。流石に玄人だけあってこういう時のコントロールには慣れているらしく、傑の要求通りに揺れ動いていた腰は止まった。3秒だけだったが。
未だに体内に燻った熱を1℃たりとも下げられていない自分のコントロールの無さは棚に上げて、傑は態とらしく溜息を吐く。そろそろと見上げてくる潤んだ瑠璃色が例えようもなく綺麗だ。綺麗すぎて視界が揺れる。そういえば目眩というのはこんな感覚だった。
「無理、むりだって、ぇっ、こんな、とま、らなっ……!」
「あァ、解った解った。もういい」
「ご、めん、ごめんなさ、い……っ」
「思ってもねぇのに謝るなって。ちゃんと、”待て”から俺が躾けてやるから」
「っ……ひ、ぅ……!」
今からそれをされると思ったのか、それとも単に「躾け」という単語がヒットしたのか、潤んでいた瑠璃色からじわりと涙が溢れる。表情だけなら怯えているようにしか見えないが、ぎゅうっと締め付けてくる粘膜が同じだけ期待していると教えてくれた。理性が一部機能不全を起こしている今は分かりやすくて大変有り難い。
心配しなくても、今ここからそんなことをおっ始めるつもりは傑にも無かった。というか無理だ。こんな状態でこれ以上腰を止めていたら、せっかく繋がった回路のどこかが確実に焼き切れる。
「ぁ、あっ、やだ、今は、」
「また今度、な」
悦が望むなら、「よし」と言うまで射精も排泄も出来ない体にしてやってもいい。なんならもっとエグい暗示や洗脳だって傑にとっては容易いが、それも後回しだ。悦の体や自我や矜持を慮ったわけでは断じて無く、ただ単に今はやりたくない。
「ッ、あぁ゛ああぁっ!?」
がつ、と腰骨がぶつかる勢いで根本まで突き入れると、浮かせた背で蠱惑的なアーチを描いた悦が下腹の奥に響くような嬌声を上げる。熱く泥濘んだ粘膜に根本まで舐めしゃぶられる肉体的な快感と、利己的な理由だけでしたいことをしたいように出来る心理的な開放感が合わさって、頭の奥で軋みも歪みも伴わない火花が散った。
愉しい。
張り詰めた前立腺をカリに引っ掛けるようにして小刻みに抉り、一層強く締め付けてくる狭路を捻じ伏せるように奥まで突き上げると、痙攣した内壁が一層きつくモノを包み込んだ。食まれるような感触が例えようもなく最高で、それを堪能する為に、自分の欲望の為だけに、傑はがくがくと跳ねる悦の腰を片手でシーツの上に押し付ける。
「あーっ、あ゛ーーっ!」
「……」
「ぁ゛あ、ぁはっ、はひ、ぃッ…は、なして…っ…そ、れ、だめ、だめぇえっ!」
押さえつけられている所為で、波のように押し寄せる快感の逃し場所が無くて辛いのだろう。叫びながら自由になる上半身を捻った悦が、滅茶苦茶にシーツを引っ掻きながらずり上がって逃げようと藻掻く。ここに置けと命じた場所からはかけ離れていたが、痙攣とはまた違った筋肉の動きが加わっていい具合だったので、好きなようにさせた。
「だめ、だめ、だっ……あぁああッ、ま、た、またぁっ…!」
何をしても、しなくても、傑が手を退かさない限りは悦が逃げられる可能性は皆無だ。逃してやるつもりも、もう無い。
「はー…っ…はぁあー……は、なせ…ッひぁ!」
「ほら、頑張れよ」
流石に疲れたのか、シーツを握りしめたまま抵抗も嬌声も弱々しくなってきた悦のモノを握り込んで喝を入れる。ぐちぐちと最奥を掻き回すのに合わせて白濁に濡れた先端を擦ると、甘い悲鳴と共に肝臓を狙った膝が脇腹に叩きつけられた。流石にZ地区育ち、えげつないまでの急所狙いだ。重さも申し分ないし正確さもある。
だが、今して欲しい抵抗はそういう類のものでは無かったので、傑は同じ場所を狙って蹴ってくる足を掴んで肩に担ぎ上げた。
「そうじゃなくて」
「やぁああっ!?おく、おく、ぅっや、だ、やだぁああぁ!」
「っ……あぁ、そう。そういうの」
深くなった抽挿に鮮烈な悲鳴を上げた悦の足がじたばたと背中を叩き、その動きに伴って不規則に締め付け具合の変わる内壁に、傑は息を詰めながら満足げに笑う。裏筋を扱きながら親指で会陰を押し潰されるのが余程堪らないらしく、眼球を狙ったであろう抜き手は首を傾けるだけであっさり空を切った。
「も、もう、あ゛ぁぁ……ッくせ、になる、ぅうっ」
「なれよ」
一向に構わないどころか大歓迎だ。こんなに具合よく扱かれてここまで保つ男なんてそうは居ない。脳がショートして失神するギリギリの分水嶺を正確に見極めて、そこから下げることも上げることも無く延々と宙吊りにしてやるのも、人間にはまず無理だ。飽きて放り出すことも、技術や持久力が衰えることも無い。
だから安心して、好きなだけ癖になるといい。これ以外の餌ではもう胃袋も脳髄も満足出来なくなるまで。
同じところまで。
「はッ、はっ、はぁ、っ、降り、れな……っ」
「はいはい」
「あーっ、あぁあーッ……やだ、やだぁッ!おく、おく、がいいっ」
「どっちだよ」
「ひぁッ!やぁああッ!だめ、それだめぇっ!」
あまりにも支離滅裂で、思わず笑ってしまう。仰け反ってがくがくと痙攣する体は逃れようと右手でシーツを手繰っているのに、足は背中を引き寄せてくるし、左手は傑の髪を掴んだまま離れない。滅茶苦茶だ。きっと悦自身も何がしたいか解っていない。
「ひぅ、う、ぅうッ…!…も、むり、だからっ、だ、して、出せ、よぉっ……!」
だす。出す?
「……あぁ」
とうとうしゃくり上げ始めた悦に懇願されて、漸く傑は自身の状態に気がついた。初めての邪魔のない快感を堪能するのに夢中で、そう言えば射精していなかった。どうりでさっきから視界がバチバチと弾けるわけだ。腰から下に至っては、それ以外の神経が死滅でもしたかのように快感しか拾っていない。
「悦、腕回せ」
「う、うで……っ?」
「どこでもいいから」
自覚した途端に込み上げてくる感覚を辛うじて押し留めながら促す。残った最後の一割を吐かせるつもりだったが、今の傑の精神状態と悦の貧困な語彙を考えると、確度の高い答えを言葉で得るのは無理だ。実践して反応を見る方が早い。
だから、早く。耳元に顔を寄せて囁くと、髪を握っていた左手とシーツを握っていた右手がそろそろと、躊躇いがちに首へと回る。手の置き場にも力の込め方にも明らかに迷いがある。成る程、よく解った。
「こ、これで……っあァあ!」
「あぁ。完璧」
髪やシーツを握っていたようにぎゅうっと抱きついてくる悦の頭を撫でてやって、心置きなくスパートをかける。バチバチとハレーションを起こす視界が邪魔でぐっと目を閉じた瞬間、イきっぱなしで単調な痙攣しかしなくなっていた内壁がぐねりと蠢き、咄嗟に息が止まった。背骨が溶け崩れたような感覚が骨の髄を伝って脳まで侵す。
「っ……はぁ、」
「ぁ、あ、ぁ……ッ!」
何も考えず利己的な快楽の為だけに最奥に思う様注ぎ込んで漸く、息が出来た。
ぐらぐらと煮立っていた頭と体が少し冷えて、知らず滲んでいた汗が引くのが知覚出来る。これも久しぶりの感覚だ。腰から下が妙にふわふわとしているのは、初めて意図的では無い射精をした所為だろうか。本当に何も考えていなかったからどれだけ出したのかも解らない。
とにかく腹を壊さないように掻き出すなり押し出すなりしなければ、と上体を起こしかけた傑を、しなだれるように首に回っていた腕がぐん、と力強く引き戻した。
「せきにん、とれよ」
がらがらに枯れた声と焦点の飛んだ瑠璃色には、それでも確かに意思があった。
悦という人間の根幹を成す、あの黄昏の奈落のように昏く、強く、獰猛な欲望が。
「……」
純血種の脳に備え付けられた言語は優に百を超える。比喩ではなく口ではなんとでも言えたが、敢えて傑は答えなかった。今の悦でも理解出来る、という条件がついたとしても言葉で是と伝えるのは容易かったが、どれだけ飾り立てても、或いは無駄なものを全て削ぎ落としたとしても、悦がただの言葉で満足するとは思えなかったからだ。
その気持ちはよく解る。眺めているだけで満足できないのはもう傑も同じだ。
ぐったりと力の抜けた腕から首を抜いて上体を起こし、辛うじて肩に引っかかっていた足の踵を恭しく掬い上げて、化け物は言葉の代わりにその足の甲に唇を寄せた。
隷属の意味を持つその場所に、がり、と歯を立てる。
心配しなくても、頼まれなくても、骨の髄まで啜るつもりだ。
「……ふふ」
察しの良い瑠璃色が、心底満足げに笑うのが見えた。
Fin.
(考え方によっては)初夜。
