引き締まったウエスト。
脂肪は勿論、無駄な筋肉も1つだって付いていない体は修羅場をいくつもくぐりぬけたとは思えないほど綺麗な肌に覆われていて、俺よりも傷の少ないその肌の上を水滴が流れてくのは、なんていうかもう、エロい。
「……」
来てた依頼を全部ぶっちぎって、約一週間ぶりにようやく取れた休日。もう散々ヤリまくって、腰が立たなくなっちまった俺は傑に運んで貰って一緒に風呂に入ってる。
俺たちにとっては汗よりも返り血を洗い流す、っていう意味合いが強いシャワーだから、こうやってゆっくり湯船に浸かるのなんてマジで久しぶり。せっかくだから縁にもたれてシャワー頭から浴びてる傑をじっくり眺めてると、お湯止めて濡れた髪を邪魔そうに払った傑がちらりと視線を向けてきた。
「痛ぇんだけど?」
「何がー?」
「視線」
少し苦笑しながらの言葉。
濡れた髪から滴る水が肌の上を滑って、それを下から見上げながら改めて思う。
「…イイ体」
「……はぃ?」
「いや…イイ体してんなー、って思って」
「…そうっスか」
傑を上目遣いに見上げながら、俺は湯船から手を伸ばして腰に触れた。そこから足の側面に手を滑らせると、皮膚の下に鑑賞じゃなく実用目的の筋肉がしっかり付いてるのがよく解る。
俺みたいな「人間」と、血ごと世代交代してくビックリ人間な『純血種』の実力の差は鍛えてどうなるようなレベルじゃないけど、やっぱ基礎がイイからそういう潜在能力的なモンもフルで使えるんじゃねーかなぁ、なんて思う。
「腹筋スゲー…なァ、俺に隠れてなんかやってる?」
「なんかって?」
「筋トレとか」
「射撃なら暇な時にやってっけど、他はなんもしてねーよ」
「ふーん…やっぱ基礎が違ぇのかなァ…」
これでも壱級賞金首、ただの「人間」では一番重い賞金を掛けられてるから、俺の体だってひ弱なわけじゃない。着痩せする方だから、医局行って服脱ぐと驚かれるくらいだし。
別に今の体格に不満は無いし十分使えてるからいいんだけど、やっぱりほら、男だから、さ?こういう綺麗な筋肉のつき方は憧れる。
「黄金率ってこーゆーのかもな」
「ん?」
「ほら、一番綺麗に見えるってゆー比率。傑の体すげー綺麗だし」
くた、って力抜いて縁にもたれながら呟くと、
傑が微妙な顔で濡れた髪をくしゃりと掻いた。
…うん、自分でも変なこと言ってるってのは解ってる。
でもしょーがねぇじゃん。俺はすぐに剥かれっから全裸だけど、ヤる時でも傑は精々シャツ脱いでジーンズの前くつろげるくらいだし。たまーに悪戯も兼ねて処理して貰うからそこでも俺は見られっけど、逆は絶対ありえねーし。
見慣れてねぇからちょっとはしゃいでるだけだって。ついでに言うと、ちょっと逆上せてきてるし。
「…悦」
「ん?」
「…いや、別に。俺も入れて」
なんだそりゃ。
何故か気まずそうな傑の言葉に首を傾げながら、俺は伸ばしてた足を畳んでスペースを作る。
壱級から零級は斡旋される依頼の危険度が違うから、基本給も高いし部屋もいいのが宛がわれてる。中でも傑は今いる登録者でトップの賞金と実力だから、風呂だって普通のよりはずっと広い。
縁にもたれて軽く眼を伏せてると、水位が上がって傑が入ったのが解った。ちゃぷん、て小さな水音が聞こえて、するりと傑の腕が俺の腰に回される。
「んー…あ?」
ただ抱きしめられるだけだと思って油断してた俺は、次の瞬間軽々と水の中で傑に抱き寄せられていて、その腕の中にしっかり収まってた。
「何?」
「別にー」
「…ふーん」
暖かい湯にまどろみかけてた俺は、胡散臭い傑の言葉を素直に信じて背後のその体に背中を預け、目の前にあった腕をぺたぺた触る。
やっぱ綺麗だなぁ、なんて思いながら二の腕触ってたら、不意にその手を振りほどかれた。
「あのぉ、悦?」
「んー?」
「んー、じゃなくてッ。ンな触り方されっとムラムラ来るんですケド?」
ぐいって腰を引き寄せられて耳元で囁かれるとこっちまでゾクゾク来て、思わず吐息が漏れた。
そのまま眠っちまいそーなまどろみも心地いいけど、そんな微温湯みてーな気持ちよさよりは、理性が吹き飛びそうなくらいドギツイ快感が欲しい。
…そのまま理性ごと正気も手放して、獣みてーになれれば最高なんだけど。
それはちょっと贅沢過ぎ、だよな。
「しょーがねぇなぁ、ったく…」
「お、珍しい。イイの?」
「ダメだっつってもヤるだろ、お前は」
これみよがしに溜息吐きながら体の向きを変えて、硬くなり始めてる傑のを湯の中で軽く握る。顔中に振ってくるキスを受け止めながら軽く扱いてやれば、さっきあれだけ俺の中でイかせてやったのにすぐカタチを取り戻すソレ。
…あ、そうだ。
「ん…傑」
「何?」
「…ボディーソープ使うなよ」
泡だって大変なんだよ、アレ。
Fin.