しゅぱッ、て散った赤い液体。
それが傑の血で、その血を流させたのが俺の手の中のジャックナイフだって気づくのと同時に、愛用の合金製強化ナイフは傑の手の中で砕かれた。
「が、はッ…!」
視界が反転。
床に思いっきり叩きつけられて、目の前には天井。と、傑。
「…やっちまったなァ、悦?」
上からにっこり笑いかけるその冷たい眼に、背筋が凍った。
始まりは、いつも通りの下らない事。
仕事を終えた俺を傑がからかって、ちょっとした口論になって。いつもならそこで傑が適当に俺を宥めてベッドに連れ込まれるっていうのがお決まりのパターン。
でも、今日はタイミングが悪かった。
…とても、悪かった。
俺は愛用の武器をまだ手に持ったままで、傑も血を見て興奮してたからいつもみたいな余裕が無くて、しかも俺が手違いで切りつけてしまった場所が動脈のすぐ近く。
熊でも折れねぇって評判の強化合金は呆気なく傑に破壊されて、俺は脊髄反射も追いつかないような速度で床に叩きつけられて自由を奪われた。
そして今、縛られた両腕を膝の下に回されて自分の足を持ち上げるようにしながら、大きく足を開いて全部曝した格好で床に転がされてる。
「ははッ、ドロドロ」
「あッ、ぁ、あ――ッ!」
膝を押さえられて腰を高く上げさせられて、マングリ返しの体制にさせられてる俺の奥に突っ込まれたままの小瓶を、傑が笑いながらぐりぐり回す。
掌に収まるほどのその瓶には薄桃色をしたジェル状の媚薬が入ってて、全裸に剥かれた俺の体中の性感帯にその半分を塗りつけた傑は、半分中身が残ったままの瓶を直接俺の穴に突っ込んだ。
粘度の高い薬が流れ込んできて、硬い瓶がそれを中の襞をゴリゴリ擦りながら塗り広げていく。
鬼利が作ったこの媚薬がどれだけキツいかを知ってる俺は、どんどん流れ込んでくる薬に震えた。ちょっと塗られただけでも辛いのに、こんなに流し込まれたら…ッ
「ひ、ぃイッ…ぁ゛あぁッ、ゃ、こわ…っ壊れ、ちゃ…ッあぁあ゛あっ!」
「るっせーな。黙ってろ」
無理矢理中に瓶を押し込んで、指についた媚薬を瓶に広げられた入り口に塗りつけながら、傑はぞっとするような低音で言った。
「ひッ…!」
蛇に睨まれた蛙のようにその一言で息すら止まりそうになる俺を見下ろして、蔑むみたいに軽く細められた瞳に本気でキレてるってのが解って、ズキンと胸が痛む。
「はぁっ、ぁ、あぁ゛あ…ッ…あ、ぁ…!」
「…ま、こんなもんか」
ただでさえ快感に弱く、じわじわ染み込む媚薬の所為で息も絶え絶えな俺を見下ろして、傑はぽつりと呟いて立ち上がった。すらりと長い足が俺の喉元を踏みつけて、ぐっと顔が近づけられる。
「ぐぅ、うっ…!」
「じゃ、俺ちょっと出てくっから」
「ッ…!?」
「あー、ンな顔すんなって。薬が切れる頃には戻って来てやるよ」
無慈悲に告げられた言葉と冷笑に、俺は一瞬凍りついた。
…見捨てられる。いつもの放置プレイなんて生易しいモンじゃない。
離れたくなくて、どんな苦痛にも耐えるからせめて傍にいて欲しくて、必死に縋りつこうともがくけど俺の体で自由に動く部分なんて1つも無くて。
目の前で扉が閉まる音が、やけに大きく聞こえた。
「ぁ…あ、あ…ッ…ふ、ぁぅ゛…ッっ」
体中を襲う甘い疼きに泣いて、鳴いて、啼いて、もう声なんて枯れた。
胸元がぐっしょり濡れて床にまで滴るくらいイって、出るモノなんてもう無いのに媚薬で侵された体は熱く火照るばっかりで少しも熱が下がらない。
有り得ないくらい熱くなってる中は動いてくれない瓶をがっちりくわえ込んでて、襞がひくひく蠢く度に瓶が少し前後に動くだけで意識が遠くなる。甘い疼きは何時の間にか耐え切れないような痒みに変わってて、ずっと同じ体制の体が時々ひくん、て痙攣してるのが自分でも解った。
放置プレイなら別に初めてじゃないし、今よりずっと酷い格好で放置されたことも有る。…けど。
だけど、いつも傑はどれだけ耐えてればいいのかを教えてくれた。
耐えてる時間を教えてもらえないまま、こんな風に放り出されたことなんて1度も無くて。熱に浮かされながらもおぼろげな思考は傑のことばっかり考える。
あと、どのくらいで帰ってきてくれるんだろう。
…帰って来てくれると、いいけど。
空気が動く感覚にすら感じて、俺はびくびく震えながら閉じてた眼を微かに開けた。
「…ぁ…は、ぁ…?」
見覚えの有るシルエットをぼんやり見上げながら身を捩ったらそのままごろんて床に転がって、自分の今の体制を思い出す。荒縄で縛られた上に散々暴れたから両手首は擦れて酷い傷になってるんだけど、まだ薬の残ってる体にはその痛みすら快感に感じて、イキっぱなしのモノから生温い体液が零れるのが解った。
「は…く、ぅ…っ」
「よぉ。起きてる?」
「ッ……!」
頬に冷たい床が当たるのを感じた瞬間、頭上から降って来た声に思わず眼を見開いて声のした方を見上げる。
涙とか体液でぐしゃぐしゃで酷ェ面してる俺の頬を、暖かい手が撫でた。
「あ…ぁ…っ」
「ごめん、俺も熱くなり過ぎた。…喋れなくなるくらいイって、辛かったろ?」
「ッ…ふ、ぁ…」
優しい傑の言葉にぼろぼろ涙零しながら、俺は唯一まともに動く頭を横に振った。
イキっぱなしの快感責めも確かに苦しかったけど、傑が傍にいてくれなかった辛さに比べたらそのくらい全然軽い。
そう伝えたくても声なんか出なくて、縋りついて謝りたくても縛られたままじゃ手も伸ばせなくて。ますます涙を溢れさせる俺に、傑はその涙を指先で拭いながら手首に食い込んだ荒縄を解いてくれた。
「あ…ぃっ…!」
「擦れて傷になってる。…風呂で薬流したらちゃんと手当てしてやるから、ちょっと我慢してな」
縄目の跡がくっきり残るくらいの傷になってる俺の手首に軽くキスを落として、傑の腕が力の抜けた俺の体を抱き上げる。
ズキズキ痛みだした傷を無視して傑の首に腕を回して痛いくらい抱きしめたら、傑はちょっと笑って「苦しい」と言いながら俺の背中を軽く叩いた。
その、いつも通りのやり取りが何故か無性に嬉しくて。
俺は傑の細身な肩口に顔を埋めたまま、意識を飛ばした。
「はい、昼飯」
「ん…ありがと。……え、何?」
「何って、なにが?」
「なにがじゃなくて。お前がスプーン持ってちゃ俺が食えないから」
「食えるって。はい、口開けてー」
「ちょっ…食える、自分で食えるッ!」
「あー、無理無理。俺が食わせる気ねぇから」
「ふっざけッ…痛っ」
「だーから言ってンだろ?ただでさえ治り遅ぇんだから大人しくしてろって」
「そ、れは俺が遅いんじゃなくて、1日で何でも治るお前が速すぎ…んンッ!?」
「何でもいいから大人しく食えって」
「……」
「美味い?」
「……ん…」
「治るまでは俺が食わせてやっから。無茶させたお詫び」
「…どーも」
Fin.
この後、素直に自分の手からご飯を食べ始めた悦に傑が理性崩壊の危機を感じたのは言うまでも有りません。
病人怪我人の持ってる誘惑パワーって相当だと思う。