…そんなんじゃ足りない。
鞭も縄も俺には温い。蝋燭なんか論外。傷口に直接ぶっかけられりゃァちったァ感じるけど、肌の上ならどこに掛けられたって鬱陶しいだけ。
並みの苦痛なんかじゃ満足できねェんだよ。喘いで飢えて止まらない。
なァ、こんな体にしたのは鬼利だろ?
…ぶっ壊して。
途切れる事無く叩きつけられる鞭が、何度も何度も俺の肌を抉っていく。
石畳の床に這いつくばって動かねェようにって頭踏みつけられたまま、背中を血染めにしてる傷をもっと広げるみてぇに鞭打たれてさ。2度、3度って連続で叩きつけられると激痛でさすがに意識も吹っ飛びそうで…もう、最高。
「ンぁッ!あ、ぁ゛、ぁ!…ふ、はぁんンっッ」
「…飽きた」
俺の首輪から伸びる鎖を片手に呟いて、不意に鬼利が俺の頭から足を退かした。
ひゅっ、ってぇ風を切る音が聞こえた、と思った瞬間。何度も殴られて蹴られて、肌が青痣を通り越してドス黒く染まっちまってる鳩尾に減り込む爪先。
「がッ…!ぁ、かは…ぁ゛っ」
「前戯はこれくらいにしよっか。今日はどうやって痛めつけて欲しい?」
楽しげな鬼利の声がやけに遠くに聞こえる。冷えた石畳の上に横倒れになったまま、起きようとしてンだがどーにも上手く体が動かねェ。
「何してるの?」
「ッっ…!」
不思議そうに首を傾げながら、血塗れになっちまった俺の背中に鬼利が革靴の底をゆっくり乗せる。1拍置いて、一気に掛けられる鬼利の半分近い体重。
あ、ぁ…ヤベ、飛び、そ…っ
「…ったく、しょうがないなぁ」
「ッぁ…はぁッ…!」
足は退けてもらっても、ズキンズキンて重く響く鳩尾からの激痛が邪魔して呼吸もろくに出来やしねぇ。
つくづく堪えの効かねぇてめェの体に腹ン中で舌打ちしながら、何とか腕突いて体持ち上げて鬼利を見上げたら、その綺麗な手の中にある見慣れねェ鞭が目に付いた。
いつもの1本鞭よりは短ぇみたいだけど、編んだ黒い革の中に所々キラキラしてるモンが入ってて、それが入ってる場所がゴツゴツしてる。
「っそ、れ…新し、ぃ…ヤツ…?」
「そうだよ。鞭の中に硝子玉が編み込んであってね、」
どうりでキラキラ光ってるわけだ。
…なんて鬼利の説明を聞きながら暢気に考えてた俺の思考が、赤く染まった。
「いッぎ、あ゛、ッっ…!?」
「皮膚を裂くだけじゃなくて、この硝子玉が肉を抉り取ってくれるんだって。もう十分傷だらけだから痛いでしょ?」
「ひぎッ、ぁ、あ゛ぁッ…!!」
痛い、なんてモンじゃねェって。マジで。
焼きゴテ使われた時みてェに打たれた場所が熱くなって、ぎゃり、って肉を削る感触まで残しながら脳天まで突き抜けてく激痛。耐え切れずに意識が吹っ飛んでも次の一撃で強制的に叩き起こされて、ブツっ、ブツっ、て音立てながら意識が寸刻みにされてく。
「ぎぁ、あ゛ッ!…あ゛ぁあァぁっ!」
「慣れて来た?…ほら、緩めてあげるから勃たせてご覧」
優しい優しい、残酷な声。
息すンのも辛いのに勃たせるなんざ無理だ、って。さすがにこれはキツいって、頭ではそう思ってても口には出来ねェから、少しだけ緩くなった鞭の激痛の中から必死で快感を探してさ。
あァ、惨め。
「あ、ぁ…はぁ、くぁぅっ…!」
さっきまで痛くて真っ赤だった視界が、今度はその上を行く快感で真っ白になってく。あんだけ痛ぇって鳴いてた癖に、ちょっと緩めてもらっただけで勃たせるなんざ、ホントに酷ェ体。
汚ぇな。綺麗な鬼利に触ってもらえる価値なんかねぇよ。知ってンだ。もう救いようがねぇって。だから、
…もっと汚して。
「ひぅっ、!ぁ、…ひぁあッ!」
「本当にどうしようもないね、お前は。あれだけ痛い痛いって震えてた癖に、もうこんなにして」
最後に強く鞭を打ち付けて、鬼利は勃たせるどころか先走りまで流しちまってる俺のモノを見て軽く溜め息を吐いた。血をたっぷり吸いこんだ鞭の先で背中を撫でられるとズキズキ痛んでる箇所が燃えるみてぇに熱くなって、それだけでイきそうなくらい。
「ぁッひ、あぅ、んンぅッ!」
「随分気持ち良さそうだね。そんなに気に入った?この鞭」
「ん、ふぁあっ…きも、ち…っぁ…!」
「あーあ、物欲しそうな顔しちゃって。ほら、煩いからこれでも咥えてな?」
「ふ、ぁぐッ!」
にこやかに微笑んで、鬼利は持っていた鞭をくるりと回して逆手に持ち変えると、その柄を俺の口に突っ込んだ。突っ込まれてズボズボ抜き差しされて、喉の奥の奥まで硬い柄に犯される。
ガンガン突かれて喉の奥がどっか切れちまったらしく、俺にとっては慣れた血の味がしてきた頃、鬼利はいきなり突っ込んでた鞭を引き抜いた。
突かれてちゃ呼吸なんざまともにできねぇから酸欠で目の前がぐらぐらして、耐え切れずに石畳の床に頭をつけた。それと同時に、今日はまだ何もされてねぇ奥に宛がわれる濡れた感触。
「力抜いててね。痛いよ?」
「ンぁああぁああッ!」
解されるどころか濡れてすらいねェ奥に突っ込まれる、硬い、鞭の柄。
こんくらいの太さなら切れたりしねぇけどさ、解されるどころか濡れてすらいねぇ襞巻き込みながら出し入れさっれと、もう凄ぇの。
圧迫感とか、皮膚が引き攣れる感じとか、だんだん濡れて来た中がぐちゃぐちゃいう音とか、全部ヤバい。
「ひぁ、あッ!ひぅ、あぁあぅうッ…!」
「こんなにドロドロにして、イキそうなの?」
「あぁあ゛あ!ぁ、あッ、ンぁああっッ」
俺の体なら内側も外側も俺以上に知り尽くしてる鬼利に、前立腺のすぐ近くを焦らすみてぇにガンガン抉られながら耳元で囁かれて、ガクガク体震わせながら何度も頷く。
そんな俺を見て鬼利は綺麗に笑って、鞭を握りなおすと丁度前立腺に押し当てた鞭でぐっとそこを押し上げる。
「じゃあ、精々イかないように頑張ってね?」
リング嵌められたり、尿道に棒突っ込まれたりして、どう足掻いてもてめェじゃイケねぇようにして貰える時はまだいい。こうやって、何も無いのに自我だけでイかねぇようにって堪えンのが一番辛い。
その辛いのが俺にとっちゃァ快感だからどうしようもねェんだよ、マジで。
「ひゃぁあっぁッああッ!あァ゛ぁッ、ぁ、も、壊れッ…ンぁああ!」
「気持ちよすぎてオカシくなりそう?…あぁ、違うか」
脊髄を焼くような快感と射精感に頭ン中なんて真っ白で、血みどろの背中をびくびく震わせながら舌突き出して喘ぐ俺を楽しそうに見下ろして、鬼利は綺麗に笑った。
「…最初っからオカシいんだっけ」
今日始めて鬼利の手が直に俺に触れて、皮膚を抉り取られた肉を優しく撫でられる快感にその場所が燃えるみてぇに熱くなって。
そっからは、もう、真っ白。
「んン……ぁ、れ…?俺…」
「”あれ?”じゃないよ。ったく…殴っても蹴っても起きやしないんだから。もうお昼だよ」
「あちゃぁ…昨日は久しぶりにノっちまったからなァ」
「随分気に入ってたみたいだったしね、あの鞭」
「そーそォ。あの硝子玉、アレに抉られる感触が堪ンねぇの。モロに痛めつけられてる、って感じで」
「まぁね。でも、血が染み込みすぎて駄目になっちゃったよアレ」
「マジ?」
「マジ。やっぱり既製品だと革が安物なんだよね。何回も買い換えるよりは、素材から指定して作らせた方が…」
「ん…っ…」
「お前…もしかして、想像して勃たせてる?」
「はは…ちょっとだけ」
「全く、困るくらい淫乱なんだから……ほら、蝋燭使ってあげるから服脱ぎな。下ね」
「えぇッ!」
「…何、えぇって。鞭が駄目になるくらい打ってあげたのに、蝋燭も欲しいの?そんなはしたないオネダリするように躾た覚えは無いんだけど」
「……」
「その傷が治ったらもっとイイコトしてあげるから、今日は足で我慢。いいね?」
「……はぁい…」
Fin.
最高幹部の癖に、平気で仕事をぶっちぎってこんなことしちゃう鬼利。同じく、熱が40℃あっても仕事に出る癖に、こういう時は平気で