「…悦…」
耳元で囁かれる甘い声。
「ん、んっ…?」
「…大好き」
またそうやって、お前は溢れるくらい俺に愛を注いで。
「……ん…、…傑……」
「…いいって。解ってるから」
…頷くだけで1滴も返せない俺を、甘やかす。
素直じゃないなんて、言われなくても解ってる。
愛してるとか、大好きとか、そんな言葉は素面じゃとても言えない。
だけど、やっぱり…なんていうか、好き、だから。
恥ずかしくなるということを聞かなくなる口の代わりに、思い切って態度…っていうか体で示そうと、俺なりに考えてみたわけで。
…なのに。
全身キッチリ磨き上げて、傑が前に「半渇きのがエロい」って言ってたからわざわざ髪も半分濡れたままにして、しかも無防備にも程がある素肌にバスローブの、自分で言うのも何だが「襲ってください」って言ってるような格好でいるってのに。
「傑!起きろって、すーぐーる!」
ワインボトルをアイスボックスで冷やして、ソファに腰掛けたそのままの態勢で寝こけてやがる傑に、大声を張り上げるハメになってる。
最初はちょっとうとうとしてるのかなと思って、じゃあ驚かせてやろうとこっそり近づいて「…傑?」って控え目に声かけてさ。喜ぶかと思って、膝に手ぇ置いて床に立ち膝で目線まで下げて、上目遣いで様子を伺うこと数分。全く起きない傑は揺さぶってみても、耳元で怒鳴っても全く目覚める気配無し。
「ッの、鈍感…!」
いい加減ムカついた俺は、アイスボックスから溶けかけた氷を1つ取ると無防備になってる傑の首筋に、その氷を思いっきり押し付けてやった。
いくらなんでも起きるだろって思ったんだけど、
「…大丈夫かコイツ」
持ってる俺が辛いくらいの冷たさにも、傑は全く反応しない。
「傑ー」
「……」
「起きろよ。まだ1時だろ?」
全然全く起きる気配なんて皆無な傑の膝をまたいで座って声を掛けながら、氷を首筋から胸元に滑らせてったら臍の辺りに辿り付いて、俺はそこで1度氷を離した。
…さすがに、ここに押し当てたら起きるよな。っつーか怒るか。でもここまで覚悟して来てンのに、このまま何も無しは絶対ぇ嫌だし…
そんなこと考えてたら、片手は自然と傑のジーンズに伸びてて。離してた氷が水滴を残しながら、するすると臍の下に、
「そこはダメ」
…滑り込む一歩手前で、手首を上から掴まれて止められた。
「…起きてたのかよ」
「起きたんだよ。生命の危機を感じて」
俺の指先からするっと抜き取った氷を、そっちを見もせずにボックスに投げ入れながら(ムカつくことにちゃんと入るんだこれが)、傑はふわぁと欠伸を噛み殺した。崩れてた姿勢を軽く戻して、ぺろりと舌で濡らされた唇が目の前の俺を見てヤらしく笑う。
「で?どうしたんだよ、ンな格好して」
「…どう、って…普通だろこんなの」
「”普通”の悦が自分から俺に乗っかるわけねーだろ。この格好も」
ゆっくり、いつでも俺が逃げれるようにゆっくり伸ばされた傑の手がバスローブの襟をくい、と引っ張った。確実に赤くなってる顔を反らして黙ってると、抵抗しない俺に傑が軽く首を傾げる。
「なァ、マジでどうしたんだよ。何かあった?」
「…別に、何も…」
「…ホントに?」
「本当、に」
顔をそっと正面に戻されて、本気で心配してくれてるってのが痛いくらいわかる真剣な眼にぞくりとしながら首を横に振った俺に、傑は背中をソファから浮かせながら俺のバスローブの腰紐に手をかけた。
すっと近づいた唇が頬の辺りで軽い音を立てて、バスローブの合間から入り込んだ腕で腰を抱き寄せられながら、囁かれるのはいつもの甘い言葉。
「悦、愛してる」
「…うん」
…で、いつものように俺は頷くだけ。
くちゅ、と音を立てて絡められる舌先。
俺の口ン中を好きなように犯すエロいそれに少しだけ、仕返しのつもりで歯を立てたら軽く眼を細めた傑にがくん、と体を揺さぶられて、体の奥から響いた水音と脊髄を走る快感に体が跳ねた。
「ぁああッ!ぁ、はぁッ、ん、ふぁぅッ!…はっ、ぁ、あぁああッ!」
「…ん…」
揺さぶられるような突き上げに耐え切れず、何度目かも解らない精液を吐き出した俺のナカにも熱いのが注がれて、その感覚に背筋が震える。
「ぅ、あ…はぁあッ…あつ…っ」
「ドコが?」
「、も…聞く、な…よ、そゆこと…ッ」
白々しい顔して聞いて来る傑の胸板を軽く叩いて顔を背けると、俺はダルい体を傑にくっつけたまま中途半端に絡み付いてたバスローブを床に落とした。熱いんなら傑から離れりゃいいんだけど、何か離れたくないし、でも熱い。
「はぁ…あつぃ…」
「そんなに?」
「ったり、前…だろ…お前は座って、りゃ…それで、いいけど…俺は、」
「じゃ、冷ましてやるよ」
…冷ます?
あんまりにも当たり前みたいに言われた所為で反応が遅れた。思わずキョトンとその横顔を見返すと、傑はナカから零れた精液がジーンズに着くのを無視して1度モノを抜いて、テーブルの上に置きっぱのアイスボックスを引き寄せる。
「傑?何して……ひッ!?」
氷でも食わせてくれるのかと思いきや、傑は取り出した少し大きめの氷をいきなり俺の首に押し当てやがった。
「つめ、たッ!ちょ、何すっ…ひぁ!」
「暑いんじゃねぇの?」
「ふっざけッ…うぁっ、あ、…んンっ…!」
傑の手首を抑えようとした手は逆に捕まえられて、首からつぅ、と肌を滑った氷が乳首を角で引っ掻くように濡らしていく。先っぽをつるり、と氷で撫でられるとその冷たさと押しつぶされる気持ち良さにぞくぞくっと背筋が震えて、自由なはずの手も傑の手首を掴むだけで何の役にも立たない。
「あ、やぁっ…!、冷たっ…あぁぅッっ」
「じゃあ自分でやるか?」
手に氷を押し当てられて思わず氷を握ったらそのまま自分で氷を乳首に擦りつけるみたいに動かされて首を振るけど、耳元で「…イイんだろ?」なんて囁かれたらもう、そんな形だけの拒絶なんて出来なくなる。
「あんま強く擦るなよ、切れるから。…そう、上手」
「ん、ふぅぅ…ッはぁ、あぅっ、…んぁあッ…!」
「悦、まだ暑い?」
「んぁ、あッ…あつ、ぃ…っ!」
こんなことされてちゃ冷めるわけねぇのに解りきった事を聞いて来る傑に、知らない内に自分の手で乳首を弄りながら素直に頷くと、傑はいつの間に取ったのか少し小さめの氷を2つ、手の中でカチリと鳴らして見せた。
な、んか…凄く、嫌な予感が…
「す、ぐるっ…待、それっ…ひゃッ!?」
気づいた時にはもう遅くて、ぐい、と引き寄せられて体を前かがみにされた俺の奥に宛がわれる、冷たくて硬いモノ。反射的に傑に抱きつきながら必死で嫌だって首を振るけど、鬼畜な恋人は勿論許してくれなくて。
「や、ゃめッ、そんな、の入れな…ッゃあぁぁッ!」
「嫌?…その割には全然萎えてねーけど、コッチ」
「ひぅッ!」
氷で冷やされた指でぴん、とモノの先端を弾かれ、その冷たさと刺激に思わず腰を引きかけたら奥にもう1つ氷を押し込まれて、ぐいっと奥まで押し上げられた。押し込まれた氷は刺されるような冷たさを与えながらじわじわ溶け出して、硬いくせにつるつるした欠片が中で動き回るのが嫌ってほど解る。
「冷たッ…あ、ゃだ、ってばぁ…ッ!」
「嘘吐き」
俺の言葉なんて無視で、じゅぷっ、と酷い音を立てながら押し込まれる3つ目の氷。つぅ、と溶け出した氷が伝う感触に咄嗟に締め付けたら、それだけで中の氷がぶつかり合いながら中で暴れまわって、破片が前立腺を掠める度に電気みたいな快感が走った。
「んぁッ、あっ!はぁぅっ、あッ、…っんンんッっ」
「氷気持ちイイ?」
「っもち、イイわけ…あぁ゛あぁあッ!」
「へぇ?そう」
ふざけんな、と噛み付こうとした俺に小さく笑いながら水で一杯になった中にいきなり指を突っ込まれて、ピンポイントで前立腺を突き上げるその動きに体が跳ねる。しかもその拍子に傑のジーンズにモノの先っぽが引っかかって、敏感なトコロを思いっきり擦られるから堪らない。
強弱をつけて指がピストンを繰り返し、俺の感じるところを正確にくすぐってくその動きに自然と腰が浮いて、硬いジーンズの縁に先端を擦りつけるように体を動かすと俺の耳元に顔を寄せてる傑が低く笑った。
「はぁッ!ぁ、すぐっ…もっ指、ゃめッ…あぁんンッ、はぅっ、あぅうッ…!」
「もっと締め付けろって。溢れンだろ」
「あぁあッ…!ふぁっ、嫌ぁあッ…か、き回さなっ、ぁあーっ!、ッッぁ、ひっ!?」
ぼたぼた水が床に落ちる音と傑の声に促されて反射的に中を締め付けたのに合わせて思いっきり3本指で突き上げられ、水を溢れさせながらぐちゃぐちゃに中を掻き混ぜられる快感にびくびく震えながらイキかけた俺は、熱が逆流する感覚と根本に走った痛みに傑の上で仰け反った。
何があったのか解らなくて焦点の合わない目で傑を見たら、傑は完璧に”墜ちて”る俺の表情に小さく笑うと、イク寸前で俺のを握った手はそのままに中から一気に指を引き抜く。
「あぁぅッ!」
「ちょっと冷えすぎたかもな。寒くない?」
「はっ、はっ…!ぁ、すぐ…ッっ」
「ん?」
「さむ…寒い、からっ…ぁ、はッ…傑、ので…あ、っため…っ」
「…どうしちゃったのお前」
イカせないようにしながらカリをゆるく撫でてくる意地悪な手を両手で精一杯抑えながら、傑が好きそうな、いつもは言われたって滅多に言ってやらない台詞で精一杯誘って傑の首筋に口付けると、俺の腰を抱き寄せながら傑がおどけて呟いた。
「すげェ積極的じゃね?」
「は、ぁッ…!」
嬉しそうに言いながら一気に貫かれて、ぱちゅ、とヤらしい音を立てて水が溢れてく。氷で冷やされた粘膜に熱い傑のモノはいつも以上に刺激的で、抑えられてなかったらそれだけでイってただろう。
「あぁあ…ッすぐ、も…はや、くッ…あ゛ぁぁッ!はひィっぁ、あぁッ!」
「あー…やっぱちょっと冷やしすぎたか。腹大丈夫?」
「だ、じょぶ、だからぁッ、!ひく、ぅッ!も、っと…ッ!」
「もっと、何?…深く?速く?」
「ひゃあぁッ、ぁ、も…全部っ…!」
「……」
意地悪な言葉に半分叫ぶように答えたら傑は何故か一瞬黙り込んで、ふわっと体が浮くような感覚と同時に視界がくるりと回転した。
中の熱いモノがぐり、と捻られてびくんと跳ねた背中にはソファのカバーが当たって、ソファに押し倒された俺に乗る態勢になった傑を見上げると、そっと顔を寄せた傑に触れるだけのキスをされた。
「あッあぁぁ!ひぅッあぁんンっ!」
「気持ちイイ?悦」
「はひ、ィッ、あぁッ!ぁ、っもち、ぃ…はあぁあッ、きもちっ…ッ!」
「そっか」
傑の首に縋りつきながら叫ぶように答えた俺に、傑はくすりと笑って、
ちゅく、と俺の耳朶を甘噛みしながら、甘く掠れた声で囁いた。
「…俺も、最高」
俺は素直じゃないから、
素面で好きだなんて、愛してるなんてとても言えない。
でも、すげぇ悔しいけど俺はもうお前にベタ惚れで、凄く愛してるから。
だから、こんな時くらいは、
「っ…は、ぁ…傑、…」
「ん…?」
「すぐる…」
「なに?」
「……」
「…悦?」
「……なんでもない」
「ンだよそれ」
…なかなか言えないんだよな、これが。
Fin.
傑は「愛してる」も「大好き」も常に本気でスラスラ言えるけど、純情派の恋愛に初心な悦は恥ずかしくて言えないのー、というお話
では傑は何に初心かというと、守られたり庇われる立場には初心だったりします。