明るい照明の下。喉が焼けるような度数の酒に満たされたグラスの中で、溶けかけた氷がカラリと澄んだ音を立てる。
「…それから?」
水でも飲むようにグラスの酒を飲み干した赤い唇に薄い笑みを浮かべて、傑は真っ直ぐに俺を見据えたまま軽く首を傾げて見せた。ジーンズのボタンを外されてシャツも脱いだ俺とは正反対に、傑の姿には少しの乱れも無い。
「だから…ちゃんとベッド、で…」
「その後だよ。キスは?脱がされるのと自分で脱ぐのどっちがいい?」
何気ない口調で言いながら、傑は空になったグラスを俺の背後にあるローテーブルにたん、と音を立てて置いた。氷に冷やされた手が、ラグに座り込んでる所為で自然とソファの上の傑を見上げる形になる俺の頬をするりと撫でる。
「どうせヤるなら最高に気持ちイイ方がいいだろ?この際だから言ってみろよ」
…なんでもしてやるから。
耳元で甘く囁かれたその声だけで俺が骨抜きになるのなんか十分知ってるくせに、ついでに言えば俺がキスして欲しいけどさすがに自分じゃ言えねぇのも絶対解ってる筈なのに、素っ気なく離れてソファに背中を預けた鬼畜な恋人は、呑み込まれそうに深い藍色の瞳を細めて笑った。
シて欲しいことを1から10まで自己申告なんていう、傑相手じゃなかったら脳天をブチ抜いてそうな真似をしなくちゃいけなくなったのは、例のごとく俺が傑の罠にまんまと引っ掛かったからだ。
思いっきり明かりの点いたリビングはさすがに、って渋ったらじゃあどこならイイんだって言いやがるから素直に答えてたらどんどんヤバい方に誘導されて、そっからはもう傑の言いなり。
毎度毎度あの顔と声を最大限に使って巧妙な罠を仕掛けてくるあいつも大概変態だが、それを知ってて毎度毎度きっちり引っ掛かる俺も相当な間抜けだと思う。
「いっつもすぐ剥ぎ取るじゃねぇか」
「嫌ならゆっくり脱がすけど」
「別に、嫌ってわけじゃ…」
「ボタン外すのにもじっくり時間かけて、…あぁ、服着たまま1回くらい抜いた方がイイかもな。好きだろ?」
自分でも解るくらい張りのない俺の言い訳が終わらない内に、傑はそう言って俺の目を真っ直ぐに射抜いてた藍色をゆっくり下ろす。
煩悩まみれの俺の頭はそれだけで下着の中でイかされた時の事を思い出して、敏感になったモノに纏わりつくぐしょぐしょになった薄い布ごと傑の手に扱かれたりカリを擽られたり、濡れた布ごしに先っぽをカリカリ引っ掻かれる、あの気の遠くなりそうな快感がフラッシュバックした。
イったばっかりだからって俺がいくら言っても傑は手を止めてくれない。俺の弱いトコロを知り尽くした指が、酷い時なんかそれから何度も。
「そうすると下着は使い捨てだな。ローションなんて必要ねぇくらいぐちゃぐちゃになるから、次なんて履けねぇだろ?」
「そ、れは…傑がしつこいから…ッ」
「よく言うぜ。酷ぇ時はキスで濡れる癖に」
精一杯の反抗を、傑はあっさり笑い飛ばしてぐっと身を乗り出した。唇から覗く柔らかい舌先。それがいつも呼吸を忘れるくらい激しいキスをくれるんだって思うと、じわりと頭の芯が痺れて自然と息が上がってくる。
「少し歯立てた後で舐められるの、好きだよな。思いっきり吸い上げるのも」
「そんな…っは…こと、…」
咄嗟に緩く首を振るけど全部アタリだ。少し痛いくらいに歯を立てられた後で労わるように舐められるのも、下品な音立てながら引き抜かれそうなくらい吸い上げられるのも、されると体中の力が抜けてキスに応える余裕も無くなる。
「ッ…傑」
「ん?」
キスして欲しい。だってこんな、俺か傑がもうちょっと近づいたら額が触れそうな距離でこんな話、生殺しもいいトコだ。
「脱げよ」
「え?」
煽ったのは傑だって自分に言い聞かせてキスをねだろうとした瞬間。それまでと同じ声音で言われたその一言に、俺は思わず傑を見上げた。その唇から紡がれる声でいいように踊らされてる俺を愉しげに見下ろしながら、傑はちらりと俺の下肢を一瞥する。
「キツいだろ。それもゴミ箱行きにしたいってンならそのままでもいいけど」
「ッ……!」
これでからかうような口調ならまだ救われたのに、寛げたジーンズの前を押し上げてる俺のモノを布越しに見やる傑の声は淡々としていて、バレてない筈ねぇのに改めて言われると面白いくらいに顔が熱くなるのが解った。慌てて反らした横顔に痛いほど傑の視線が突き刺さる。
「で、電気…」
沈黙に耐えられずに絞り出した言葉はどこの生娘だよってくらいに掠れた。路地裏だろうが街灯の下だろうが平気で足を開いて来てるのに、今更電気も何もあったもんじゃない。
「消していいのか?見てやれなくなるけど」
「っ…も、…傑…!」
「好きなんだろ、こういうのが」
「…は、ぁ…っ」
追い打ちをかけるように低く掠れた声で囁かれて、噛みしめてた筈の唇から熱っぽい吐息が漏れた。何も言わずにただ見下ろしてくる傑の視線を痛いくらいに感じながらのろのろと手をかけたジーンズを、下着ごと足首まで引き下ろす。
「…これで、…あっ!」
これで満足か、って憎まれ口を叩くより早く、伸びた足が俺の膝をぐい、と押しやって大きく開かせる。久しぶりの体温に期待してひくりと足を震わせた俺を目の奥で嗤いながら、傑は明るい光の下ではしたなく先走りを滲ませる俺のモノをじっくり眺めて、不意にすっと足を引いた。
「話してるだけで濡れるんじゃ、確かに俺の前戯はしつこいかもな」
「っ…ん、…」
「どんどん溢れてくるぜ。ラグまで汚さない内に蓋してやろうか?そのはしたない穴」
「ぁ、あ…ッ」
俯いてる所為で嫌でも目に入る俺のモノは、傑の言う通りどんどん溢れてくる先走りが光を照り返しててらてらと卑猥に濡れ光ってる。少し低くて甘い傑の声に頭の中を犯される度にモノが耐えきれないようにひくり、と震えて、酷い羞恥に背筋をぞくぞくと甘い痺れが駆け上がった。
電気が点いたリビングで、服すら乱れて無い傑に恥ずかしい所を曝け出して欲情してる。それを思うだけでとぷり、と溢れた先走りがゆっくりと裏筋を撫でながら伝い落ちた。
「バイブとローターどっちがいい?」
「ど、っちも…嫌…っ」
「嘘吐くなよ。好きだろ?バイブで奥までぐちゃぐちゃにされながら空イキするのも、ローターで浅い所だけ苛められて少しずつイクのも」
「は…はぁっ…」
細いバイブを尿道の奥まで捻じ込まれて、振動する棒に粘膜を掻き回されながら延々イってるみたいな気持ちよさの中で精液は一滴も出させて貰えない。一番敏感な所を滅茶苦茶に震わせられて吐き出そうとするのに、震えっぱなしの玩具を気紛れに押し付けられて勢いを殺されて、一瞬の快感を何倍にも伸ばされる。
どっちも何も考えられないくらい気持ちイイけど、良すぎて逆に辛くなるから今日は嫌だ。普段でもあんなになるのに、今、こんな状態でされたらバイブを入れられた瞬間失神するかもしれない。
「…あぁ、そこよりナカの方がいい?」
「…、…」
「ん?」
背筋をひっきりなしに震わせる甘い痺れに耐えきれず、小さく頷いた俺に傑は軽く首を傾げて見せた。見据えられると呼吸も止まりそうな嗜虐的な瞳が、そんな逃げは許さないと視線で責める。
「なかに、いれる方が…いい…」
「膝立てろ。見てやるよ」
低い声で囁かれた言葉にひくりと体が震えた。
大きく足を開かされた今の状態で、この上膝を立てたら。そしたら今度こそ恥ずかしい所を全部傑に見られることになる。
「ッ…ふ、…」
そんなことは嫌ってほど解ってるけど、すっかり堕とされた今の俺にその命令に逆らうことなんて出来なかった。苦しいくらいに上がった息を切れ切れに吐きながら言われた通りゆっくり膝を立てて、自然とそこを曝け出すように両手を後ろ手に突く。
「…ひくひくしてる」
傑の声と視線、それから卑猥な言葉で引き出された記憶で物欲しそうにヒクつく奥を見ながら、傑がからかうようにくすくすと笑った。
そんなこと見なくても解ってたんだろ。俺がどれだけ淫乱なのかも、欲しくて欲しくて気が狂いそうなのも全部知ってるクセに。もう恥ずかしいなんて言ってる余裕は俺には無い、何をすれば触ってくれるか言ってくれればどんなことでもするのに。
「それで?」
「…ぇ…?」
「入れて、それで満足出来るほど控え目な体か?」
欲情しきった目でのろのろと傑を見上げた俺を真っ直ぐに見据えながら、傑は藍色の瞳を細めて見せつけるようにゆるりと唇を舐める。
ぞくり。
「いれ、て…それから、…ぐちゃぐちゃ、に…っ」
「それじゃ解んねぇよ」
「ッ…ぜ、んりつせん…ごりごりって、して…ッ、お、奥…まで…っはぁ…!」
「浅い所で焦らされるのも好きだろ?」
「すき、好きっ…先っぽだけ、でぐちゅぐちゅされて…っ、イジメられ、るのも…ッっ」
優しく囁かれた言葉に何度も頷いた。一番欲しい所にあと一歩で届かない、目の前にあるのに満たされない泣き喚きたくなるような焦燥感が今の状況と重なって、べたべたに濡れたモノの裏筋を伝った先走りがひくつく奥まで流れこむ。
とろりとした体液に皮膚と粘膜の境目を撫でられるだけでもイきそうだった。ずぐり、ずぐり、と鼓動に合せて高まるばっかりの熱を持て余した体の疼きはどんどん酷くなる。
「それから?」
「奥、まで、…ぐちゅぐちゅされて…っ…でも、すぐはイかせてくれなくて…ッ」
「うん」
「っ…いっぱ、我慢…して、それで…」
「前は何もして貰えなくていいのか?」
「んんっ…ちくび、…赤くなるまで、弄られて…っぁ、は…先、っぽ…も、…」
体の内側から前立腺を痛いくらいに抉られながら、すぐにでもイきそうなのを辛うじて堪えてるモノを意地悪な指先に嬲られて。先走りを掻き乱しながら尿道口を擦られたり、がちがちになった会陰を押し上げられて、それで…っ
「はぁ、あ…ッあ…!」
傑にされたイイことを思い出しながらどんどんヤらしい妄想に嵌まっていく俺を、不意に伸びた傑の腕が引き戻した。
ぐいっと顎を掴まれ引き寄せられて、至近距離に迫った藍色が冷たく息も絶え絶えな俺を見つめる。
「マジでどうしようもねぇ淫乱だな。頭ン中でどんな風に俺に犯されてた?」
「ふぁあ…っ」
今までにない近さで吹き込まれる声は嘲るような口調なのにどうしようもなく甘くて、膝立ちになった足ががくがく震えた。今にも腰から崩れそうになるのを傑のシャツに縋って辛うじて堪える俺に、傑は赤い唇を意地悪く吊上げる。
「お前の想像ほど俺は優しくないぜ?…確か、焦らされてなかなかイけないまま嬲られるのが好きなんだろ」
「ぁ、あっ…すぐる、すぐる…ッ」
とんでもない方向に曲解されてる気がしたけどもうどうでもいい。限界を超えさせられて理性どころか意識も吹っ飛ぶくらいにぐちゃぐちゃにされても、このまま死ぬんじゃないかって思うほどイジメられても、気持ちイイのには代わり無い。
生殺しの今よりはずっとずっとマシだ。触ってくれるなら。
「すぐる、キス…きす、したい…」
「……」
「お願い…して、キスして…っおねが、だからぁ…!」
頭も体もぐちゃぐちゃになるくらいに追い詰められて、ガキみたいに泣きながら傑のシャツをぎゅっと握りしめる。
背筋を駆け上がる甘い甘い痺れを我慢するのも、どこもかしこも疼く体を宥めるのも限界だった。もうキスだけでもいい、息も出来ないくらい深く舌を絡められて嬲られたい。
「傑、…すぐる…ッ」
「舌出せ」
「っは…ぁ、あ…ッ」
泣きじゃくりながら何度も名前を呼ぶ俺を愉しげに眺めながら、傑は言われるがまま舌を出した俺の喉を指先で擽った。
「ぁ、あっ…はぁ…はぁっ…」
「犬みてぇだな」
言われた通りにしたのに、意地悪な傑はすぐにはご褒美をくれなかった。切なくてもどかしくて涙を零しながら、ただその情けを待つしかない俺の痴態をじっくり眺めて限界まで焦らす。
「はっ、は…ぁあぁ…ッ」
「…悦」
ギリギリ手前で延々とお預けをされる辛さに眩暈まで起こして、くらくらと揺れる視界に俺が焦点をぼやけさせた頃。
死んでしまいそうに甘く俺を呼んだ柔らかな舌が、ちゅるりと乾いた俺の舌先を舐め上げた。
「んふっ…んぅ、うぅ…ん、ンー…ッ」
あっというまに根元まで絡め取られた薄い肉をじゅく、と音を立ててキツく吸い上げられ、付け根まで痺れた舌をちゅくちゅく音立てながら弄ばれると、触れられた場所から溶けそうな快感が脳天まで突き抜ける。
「んっんッんんッ!…は、ぅ…んーッ…んぅう…!」
角度を変えて絡められる度に目の前が霞むような愉悦に神経を焼かれて、立っていられなくなった体ががくがくと震えた。必死に縋りつく俺の舌を少しの容赦もなく犯しながら、それに気付いた傑の手が添えられていた首筋からするりと離れる。
力が入らずに痙攣する腰を、支える為にそっと抱き寄せられた瞬間。電気みたいに全身を貫いた暴力的な快感が、頭の中で真っ白に弾けた。
「んンーッんーっ…!…んぅ、あ…は、…ッ」
「……」
傑の腕に抱きしめられたまま、一度も触れられないままのモノから吐き出した精液がどろりと傑の手を伝い落ちる。
完全に焦点を飛ばして半分放心状態の俺を、傑は寸前で受け止めた白濁をぐちゅりと鳴らしながら一瞥して、ひくん、と肩を跳ねさせる俺の首筋を濡れた唇で撫でた。
「薬も無しにキスでイケるなんてな」
「ぁ…あ、…ッ」
「寝るなよ、悦」
「ひぅうぅ…っ!」
くすくすと耳元で笑いながら、精液で濡れた傑の手がぐちゅり、と萎え掛けた俺のモノを握る。
裏筋を親指に押しつぶされながらゆっくり扱かれて、今日初めての直接的な快感にあっという間に勃ち上がったモノの先端をくりくりと指先で弄られると堪らなくて、強すぎる快感に泣きながら俺は傑の肩にしがみついた。
「…焦らされて、イケないまま嬲られるのがイイんだよな」
「は、ひッひぁっ…!らめ、それらめぇッ…あぁ゛ああぁっ!」
掌を使って先端をゆっくり円を描くように撫でられてがくがく震える俺を片腕で支えながら、傑は手放しで喘ぐ俺を見て薄く笑う。
「言っただろ?想像ほど、俺は優しく無いって」
「ひ、ぁっあぁッ…はぅ、うぅ…ッ!」
俺を嬲る手は止めないまま、子供に言い聞かせるみたいに優しい声でそう言って、傑は神経を直接弄り回されてるような快感に犯されて力の入らない俺の体を膝の上に座らせた。
「約束通り、全部してやるよ。気が触れる寸前までよがらせてやる」
「あぁあッ…ん、んぅう…!」
空気を貪るように突き出した舌を絡め取って、また、あのぐっしょりと根元まで絡むキスで俺の舌を嬲った唇が、ふたりにしか聞こえない声で愉しげに囁く。
「嬉しいだろ?……なァ、悦」
Fin.
バカップルで視姦&言葉責め。
久しぶりにスイッチの入った鬼畜(傑)を書けた気がする。
