新品同様の光沢を持つ黒いノート型量子パソコンの上背を、ほっそりと長く伸びる中指がコツコツと叩く。
「そうは言われましても、ビジネスですから。…義理?…御冗談でしょう?」
声音に相手を嘲弄するような響きを持たせた橙色の瞳は揺らぎもせず、酷く退屈そうに空を見つめながら、端末ごしの怒声に軽く眉を顰めた。
「さすがグレッグ氏の御子息。“私共”を敵に回すとは勇敢ですね。…次の金曜日をお楽しみに」
怒声が緊迫感を孕んだ沈黙に代わるのを聞き届け、鬼利はぷつりと通信を切ると、パソコンと同じくブランドロゴすら入っていない、黒塗りの端末をスーツの胸ポケットに滑り込ませた。
側頭部にある違和感はおそらく頭痛だろう。扉の上部にかけられた時計を見やりながら、鬼利は手元のカップに指先を絡める。
それを見計らったかのようなタイミングで開いた扉に、橙色の瞳は珍しくゆるく見開かれた。
「…幽利?」
「…つまり、」
ビビッ、と音を立てて銀色のガムテープを引き千切りながら、鬼利は抑揚に欠ける声で聞き取った情報をまとめた。
「手伝ってくれた傑が置いて行った度数の高い酒を水と間違って飲んで、酔っ払って碌に仕事が出来なくなった上、発情したから僕の所に?」
「ふぁあ…っら、って…鬼利、最近ぜんぜん…かまってくンねェからぁ…」
うつ伏せに床に転がされ、両腕を後ろ手にガムテープで固定されながら、幽利は媚を売るように甘ったるい声を出して鬼利を見上げる。
作業着の袖を腰元で縛り、上半身を露わにしたその格好こそ見慣れたものだが、その表情は泥酔を示してほの赤く染まり、普段はきっちり巻かれた目隠しも解けていた。
青いバンダナの隙間から覗く橙色は溶け、蜜のように濡れながら熱っぽく鬼利だけを見つめる。
「僕のいない所では酒を飲むな、って言っておいた筈だけど」
「ん…だからぁ、やくそくやぶったお仕置き、してもらわなきゃって」
「それでここに?」
「そォ。んンっ…鬼利ィ…お仕置き、してくらさい」
「…呆れるね」
乱暴に髪を引いて顔を上げさせても、痛がるどころかますます甘えた声で仕置きをねだる幽利を、鬼利は無表情に見下ろした。
背筋が凍りつこうかというほど冷たいその瞳を見て、さすがに双子の兄が不機嫌であることを悟ったのか、それまで卑猥に蕩けていた幽利の瞳が途端に不安げにゆらめき始める。
「き、鬼利…?」
「生憎、お前みたいな愚弟に構っている暇はないんだよ」
口元だけで微笑み、鬼利は掴み上げていた幽利の髪から手を放した。ごつ、とフローリングが鈍い音を立てたのを聞きながら幽利の脇腹に爪先をひっかけ、蹴り上げるようにして仰向けにさせると、ポケットから刃に模様が彫られた折り畳みナイフを取り出す。
「あと6分でゴシックと泪が書類を取りに来る」
「え…、ひ…ッ!」
パチン、と音を立てて開かれたナイフがいきなり作業着を切り裂き、太股を掠めた刃先に押し殺した悲鳴を上げた幽利を無視して、鬼利は淡々と今後の予定を話しながら手を動かしていく。
「その後は僕が担当している登録者の完了報告がいくつかと、Fが出した今週分の依頼料の概算の見直し。…【穏健派】の新人医師が挨拶に来るのも今日だったかな?」
「っぃ、た…痛い、鬼利…ッ」
肌を引っ掻きながら切り裂かれた作業着はすぐに1枚の布になり、薄らと滲む血に呼吸を荒くしながら、震える声で訴える幽利をちらりと見上げて、鬼利は胸ポケットからシャープペンを取り出して見せた。
「な、に…っ?」
素面の時なら簡単に推測できるようなことも、酒のせいで色々なタガと共に理性を見失った幽利には解らない。
上半身を起こし、不安そうに鬼利とその手元とを見つめる瞳はすでに涙で濡れている。それを見てさすがに憐れに思ったのか、鬼利は柔らかく微笑むと幽利の頬に伝う涙を指先で撫でた。
「ちゃんと、反省はしてるんだね?」
「っ…してる……」
「そう。…じゃあ、僕が言う約束を今度こそちゃんと守れたら、許してあげる」
許し、という言葉に瞳を輝かせた幽利にくすりと笑いながら、鬼利はその耳元に唇を寄せると、秘め事のように潜めた声を滑り込ませた。
「ッ!…そ、なの…出来なっ…」
「出来ない?」
すぐに輝きを失って絶望に沈んだ瞳を愉しげに見つめながら、鬼利は開かせた幽利の太股においた革靴にぐ、と体重を掛ける。
「勘違いしてるね。僕は“お願い”をしてるわけじゃない」
「ッ……」
息を飲む幽利の潤んだ瞳にふわりと微笑み、鬼利は幽利の前髪を引いて顔を近づけさせると、背筋も凍るような低音で囁いた。
「これは命令だ。…解るね?」
執務室内に比べて少しひんやりと感じられるクローゼット内の空気は、微かに上品な木の香りがした。
「ふ、…ッ……っ、ッ…!」
鬼利が座る執務卓の真後ろに置かれた、替えの靴やジャケット、小物などを入れる為の小さめなクローゼット。足を畳んでぎりぎり横たわれるという幅のそのクローゼットに、幽利は後ろ手に縛られて押し込められている。
口は自由だったが、幽利は漏れそうになる声を押し殺そうと必死だった。
『先程参級の馬鹿共が規約違反をしたようです』
『なにを?』
『民家のバスルームをグレネードで破壊。入浴中の男性が壁の破片で傷を』
『傷の深さは?』
『全治3日ほど』
クローゼットの薄い扉1枚隔てた向こうから聞こえてくるのは、機械のように単調な弐級担当幹部の泪と、それに応える鬼利の声だ。
執務卓のおかげでクローゼットの下半分は泪から隠れているはずだが、それでも声は十分に近い。少しでも声を立てれば泪が気づかない筈がない。
なのに。
「ッ…―、っ…~~ッっ…!」
微弱な振動を続けていた体内のローターがいきなり激しく震えだし、幽利は跳ね上がりそうになる体をなんとか抑えた。
丸い突起がいくつもついたローターは前立腺の一歩手前まで押し込まれており、アルコールのせいで感度の上がった幽利にはそれだけでイってしまいそうな刺激だったが、尿道に押し込まれた金属の棒と、その上からモノを縛り上げる目隠しの布がそれを許さない。
『制裁候補として、梁屡、ヨーク、バルディオル、清紫貴、イザヤ、ルー』
『あーあーあー泪サンそのパーティーは若干難ありだぜ』
『何故だ?』
『どうして?』
『バルディオルは制裁なんてロクに出来やしねぇタマ無しだしイザヤは作画とか抜かして制裁室血みどろにすんのが関の山だからでございますからですよ』
軽薄な口調で適当なことを言っているのは参級担当のゴシックだ。“ILL”内でも1、2を争う人格破綻者の彼にバレてしまったら、本部中に脚色された噂が乱れ飛ぶのにきっと1時間もかからない。
―――ッ…我慢、しねェと…
ぼんやりとする頭で自分に言い聞かせながら、幽利はぎちりと奥歯を噛み締めた。だが、そんな努力を嘲笑うようにローターは強弱を付けながら内壁を引っ掻き、溶けてしまいそうな快感を与えて幽利に熱っぽい吐息を吐かせる。
「ッぁ…~っ…は、…っ…ッ!」
慣れないローターからの刺激にナカは爛れたように熱く、とろとろに蕩けたそこをローターは更に容赦なく引っ掻きまわしていく。
素面の時でさえ直接的な快感に弱い幽利の体が、耐えられる筈が無かった。
『“空”からの依頼が―――』
『季節の変わり目はいつも―――』
―――気づかれたら…許して、もらえな…ッっ
「ッっ…!…ぁ、……ッは、…ぁふ…っッ――!」
ひっきりなしに襲ってくる快感の波に畳んだ足をびくりと震わせながら、耳元で鬼利に囁かれた“約束”を思い出して幽利は唇を噛み締めた。
シャープペンの部品である細い管の隙間から先走りが少しずつ溢れ、ひくひくと震える裏筋を撫でていく刺激にもどうしようもなく感じて、少しでも気を反らそうと腕に立てられた爪が肌を破ってじわりと血を滲ませる。
『では、失礼致します。…行くぞゴシック』
『へーへー』
『ご苦労様』
―――…っ、も…終わ、り…?
朧げな意識の中で聞き取ったやり取りに、幽利は出来る限りクローゼットの扉の向こうに集中した。
ローターの振動に合わせてノイズが走る“視界”は不明瞭だったが、泪の高く結いあげられた黒髪と、ゴシックの蛍光緑の髪が執務室の扉から出ていくのは何とか視える。
「ッは…き、…鬼利…ッ」
『……』
ふっとローターのスイッチが切られ、思わず縋るような声で名前を呼んだ幽利に、鬼利は椅子の背もたれ越しにクローゼットを振り返った。
鬼利から見えるのはクローゼットの扉だけなので視線は合わないが、それでも声音だけで幽利がどんな状態なのかは解るらしい。鬼利は口元だけで微笑むと、ほっそりとした人差し指を立てて自らの唇に当てて見せた。
「鬼利…きりぃ…っ…も、俺…おかしく、―――ッっ!」
はぁはぁと熱っぽい吐息をつきながら、いつもならしろと言われても滅多にしない哀願の言葉を舌に乗せていた幽利は、微かな音と共に開かれた執務室の扉から入って来た人影を見て息を飲んだ。
『ん…悪ぃ、通信中だった?』
『してないよ。…どうして?』
『話し声みてーなのが聞こえた気がしてさ。空耳かな』
―――旦那…っ!?
見開かれた幽利の目には、本来見える筈の無い扉向こうの悦の姿が映っていた。報告書が入っているであろう茶封筒を片手にして、鬼利が座る執務卓まですたすたと歩み寄ってくる。
―――ダメ、だめ…ッ…この人、は…っ
唇を噛み締めながら、幽利は近づく足音に冷や汗を滲ませた。壱級賞金首の実力は本物だ。こんなの、声は勿論、動いただけで気配で気付かれてしまうかもしれない。
『言われてたトコにチップが無くてさ、関連してそうなの適当に持って来た』
『本当に?…情報は依頼主からの提供だったんだけどね』
『裏は?』
『ちゃんと取ってあるよ、“ユダ”に』
『マジかよ。っかしいな…』
「ッ―――、…っ…~~ッ…っ」
仰向けから横向きになり、幽利は少しでも快感をやり過ごそうとそろりと膝を引き寄せる。
さっき散々掻き回された場所を、弱められたローターは撫でるように刺激していて、じくじくと染み込む甘い痺れに気が変になりそうだ。
『何か足りないのあったら言って。もっかい取りに行ってくる』
『大丈夫だよ、もし足りなくてもそれは依頼人の過失だ。…このチップの探索にかけた時間は?』
『3分ちょい』
『手間どらせて悪いね。その分は追加料金にしておくから』
『やった』
屈託のない笑みを浮かべる悦の姿がノイズに掠れながら視えて、幽利は泪とゴシックの時とはケタ違いの焦燥にドクドクと鼓動を速める。
悦にバレてしまったらどうしよう。いつも楽しい話と甘いお菓子をくれる、自分を屈託なく「友達」と呼んでくれる、初めての人に。こんな、オモチャ相手に善がり狂って、尿道に管まで差し込まれた、浅ましい姿を見られたら。
「ッは、…ひ、…ッっ~…っ!」
想像しただけで体中が熱を持ち、幽利は堪え切れずにひくりと太股を痙攣させながら、また管の隙間からとろりと先走りを滲ませた。
つぅ、と広げられた尿道口をくすぐりながら滑り落ちていく体液に、幽利は薄らと開いた瞳を虚ろに彷徨わせ、
ブゥウン゛……
「は、ぁッ…―――ッっ!?」
不意に唸りを上げたかと思うと、慈悲もなく強烈な振動を始めた体内のローターに、ぬるま湯に浸かるような刺激に溺れかけた意識を叩き起こされた。
「ッっ~~!…っ、ッ…ひ、…ぎっ…~ッ!」
―――ひぁあぁッ…がまん、しなきゃ…いけな、いのに…っ!
狭いクローゼットの中でのたうちながら唇を噛み締めるが、最大まで上げられたローターの刺激そんなもので耐えきれるほど甘くは無い。
噛み締めていた唇はすぐに解けてしまい、はッはッ、と犬のように浅い呼吸を繰り返しながらうつ伏せになった幽利の中心から、ぽたりぽたりと先走りが糸を引いた。
「…ッっ…っぅ…~っ…――ッふ、…!」
―――あぁッ…イキた、…イキたい…ッ
土下座のような体制で額を下板に擦りつけ、幽利は管と目隠しのせいで逆流して渦を巻く射精感にぼろぼろと涙を溢れさせる。
濡れた目隠しの布はますますキツく中心に絡みつき、時々ローターがわずかに前立腺を掠める度に、死んでしまいそうな快感が神経を焼いた。下半身がぐずぐずになって溶けてしまうようで、内腿が痙攣がするのを止められない。
『それじゃ、……』
『…どうかしたの?』
鬼利との他愛ない談笑が途切れ、踵を返そうとしていた悦の足が止まる。
―――声、…聞かれ…っ
訝しげにこちらに向けられる瑠璃色の視線が“視”え、幽利は咄嗟に体の下に敷かれていた自らの作業着に噛みついた。
『…鬼利、今日この部屋空けた?』
『いや、朝からずっといるよ。…どうしたの?』
『んー…そこのクローゼット、ちょっと気になる』
声音こそいつも通りだったが、そう言う悦の視線はいつもとはケタ違いの鋭さを孕んでいる。離れかけた執務卓に近寄り、片膝を乗り上げてこちらを伺いながら、まるで魔法のようにその袖からジャックナイフが滑り落ちて手のひらに収まった。勿論、全て無音だ。
「――ッ―…!…~~っ、ッ…っ…!」
―――ッっ…!、ぁ…も、無理…ッ!
ただでさえ叫び出しそうな快感を与えられているのに、僅かな吐息すら漏らせないような緊張を長く保てるはずも無い。すぐ間近に見える限界に、幽利は虚ろに蕩けた瞳をぎゅっと瞑り、
『…犬だよ』
油断なくナイフを構える悦が乱れた気配に訝しげな表情をした瞬間を図って、鬼利が何気なく呟いた言葉に、薄い闇の中で瞼を薄らと開いた。
『犬?』
『Fが拾って来た野良犬なんだけど、丁度いい家が無いからそこに入れてあるんだ。逃げ出して悪食な誰かに食べられても可哀そうだしね』
『なんだよ…誰か忍び込んだのかと思った』
鬼利の言葉に悦は軽く息を吐くと、畳んだジャックナイフを袖に戻した。乗り上げていた執務卓から降り、普段通りの瑠璃色でちらりとクローゼットを見やる。
『暗くて怖いんじゃね?あんなとこ。さっきから鳴き声聞こえてたし』
『放し飼いにして粗相でもされたら困るからしょうがないよ。…それに、多分怯えてるのは暗闇というより、』
そこで一度言葉を区切り、鬼利はちらりと幽利を振り返った。
『…君に対してじゃない?』
『俺?』
『動物は敏感だからね。きっと、中で何か悪戯でもしてて…』
ポケットの中のリモコンを操作してローターの振動数を最弱まで落としながら、鬼利は訝しげな顔をしている悦に微笑んで見せた。
『それが君に見つかったと思って、怯えてるんだと思うよ』
きぃ、と微かに金具を軋ませながら開けた扉を革靴の爪先で限界まで開きながら、鬼利は感情の浮かばない冷たい目で中の“犬”を見下ろした。
「キャンキャン煩いよ、さっきから」
「ッひ…ぃ、ぐ…!」
「“誰にも気づかれないように”って言ったはずだけどね。もう忘れた?」
「ぅあ゛ぁっ…き、り…きり…ッ」
ぎり、と乗せられた革靴に背中で縛られている手を踏みにじられて、痺れて鈍く痛むそこを苛まれる苦痛と愉悦に泣きながら、幽利はもう片方の鬼利の革靴に濡れた頬を擦りつけた。
憐憫を誘う健気なその仕草は、軽く目を細めた鬼利に煩わしそうに蹴り飛ばされてしまうが、幽利はめげずに再びすり寄ると、赤い舌先をちろちろと革靴に這わせる。
「はッ…はっ…!」
「…あんな嘘、吐かなければよかったよ」
哀願するようにちらちらと見上げてくる幽利の視線を感じて、鬼利はやれやれと溜め息を吐きながら手を踏みつけていた足を下ろすと、僅かな隙間から白濁の混じった先走りを零す幽利の中心を爪先で持ち上げた。
「ひぐッ、ぁああ…ッイき、た…鬼利ぃ…イきた、イかせて…ぇ…!」
「いっそあのまま悦に見てもらって、この端ないものを切り落として貰えば良かったね」
「ッや、嫌ぁあっ…ひ、はッ…くぅうン…ッ」
びくびくと体を震わて泣きながら、幽利は嫌々と首を振って革靴に押し当てるように腰を突き出す。いくら刺激を与えたところで解放などされないのに、必死で革靴に先端を擦りつける幽利を愛おしげに見下ろしながら、鬼利はくすりと笑った。
「そんなにイキたいの?」
「んンっ…イキた、のぉ…ッ…ひぁ、あ…!おねが、鬼利ぃっ…せ、えき…出させ、てぇ…ッ」
「……」
長時間の責めにアルコールも加わって、幽利の頭からは羞恥や理性というものは全て吹き飛んでしまったらしい。甘ったるい声でお願い、お願い、と哀願する愛しい弟に目を細め、鬼利は視線を合わせるようにその場にしゃがんだ。
「き、…ぁあ゛あぁああっ!?」
「…さっきから言ってるよ。煩い、って」
優しく頭を撫でられただけで救われたような顔をした幽利の髪を引き上げ、鬼利は低く潜めた声で囁きながら、ローターの振動を最大まで上げた。
不自由な体制でのけ反り、あまりの快感にがくがくと震える幽利の喉を押さえて強制的に声を封じながら、息苦しさとそれを上回る快感に見開かれた幽利の瞳を見据えて、にっこりと笑う。
「約束通り、仕事が終わるまで誰にも気づかれずにここに隠れていられたら、好きなだけイかせてあげるよ」
「ッ…ァ゛…、…か、……ッ!」」
「お前がもういい、って泣き叫ぶまでね。後の方はまともにイケないだろうけど」
優しく残酷な言葉を幽利の耳元に囁きながら、鬼利は幽利の中に埋めたローターを、コードを引いてぎりぎりまで引き抜いた。
気持ちイイのにイクには決定的に足りない快感しか得られない、幽利が一番苦手な場所だ。
喉から手を離し、すでに目も虚ろになっている幽利の口に作業着の端を突っ込んで噛ませながら、鬼利はしっとりと汗に濡れたその髪を優しく撫でた。
「だからイイ子にしてるんだよ?幽利」
また微かに軋んだ音を立てて扉が閉まり、クローゼットの中に薄っぺらい闇が落ちる。
ゆるく作業着の裾を咥えながら、幽利は扉の向こうで登録者と鬼利が話しているのを聞いていた。千里眼を発動するだけの精神力も集中力もすでに無く、もう幽利の目には普通に見える物しか映らない。
「ひ…ぅ、…っ…~…ッ、…っッ」
気づかれなければ鬼利は許してくれると言っていたが、それは本当だろうか。この息苦しい密室から引きずり出して、散々溜めさせられた欲をだらしなく零すことを許してくれるだろうか。
――――…ンなわきゃ、…ねェか
きっと幽利がどんなに声を上げたって、鬼利はそれを誰かに悟らせるようなことなど絶対にしないだろう。もし奇跡的にイイ子で我慢できたとしても、…いや、その時は幽利が悶えるまで振動数を上げるだけだ。千里眼など無くてもそれだけはありありと解る。
――――泣き叫んだって、…きっと、許しちゃ貰えない。
この後に待ち受ける苦しく狂いそうに気持ちがイイ「お仕置き」を想像し、たらりと中心から精液混じりの先走りが零れるのを感じながら、幽利は再び内壁を掻き混ぜ始めた振動に、力の入らない顎で作業着を噛み締めた。
Fin.
お酒が入った幽利は節操無しの淫乱ちゃんになります。
普段、言いたくても言えないこともガンガン言っちゃう。羞恥心なんて無視です。
因みに悦は犬じゃなくて幽利だろうなって事に気づいてて、後で鬼利のサド丸出しの目つきがいかにホラーだったかを傑に語りました。