人工奇跡



 ♪~♪、♪♪~♪♪♪~…

「んン……?」

 るっせェな…朝っぱらから何でこんなロック…
 ガンガン耳元で響く喧しいギターソロを俺は腕を伸ばして止めて、少し肌寒い外の空気に急いで布団の中に手を引っ込めた。
 今日は仕事も入ってないしこのまま二度寝しようと思って、目を閉じたまま爆音を全く気に掛けずに寝こけてる傑の背中にぴと、ってくっついて、

「…?」

 何か、足元と…顔の近くに、ふわふわしたのが…
 よく解らないそのふわふわしたのが足と頬に当たってくすぐったくて、俺は目を擦りながら傑の方を見て、


「――――!!!!!!!!!」










 寝起きでぼやけた瞳と、寝乱れて少し目に掛かってる髪。
 …そしてその上にある、耳。

「……コアだなこれ」

 声にならない俺の絶叫で起きた傑の、俺が突き出した鏡に映った自分の顔―――正しくは、丁度耳の辺りの髪の合間から出てるふわふわの毛を生やした犬耳を見ての第一声。
 何がどういう基準でコアなのかは解ンねーけど、確かに普通じゃない。狼ならまだしもタチに犬ってどーよ。しかもスウェットからはみ出てる尻尾が時々ぱたぱた動くのとかちょっと可愛いし。

「普通さァ、こーいうのってもっと可愛い系の奴がなるもんじゃねーの?ガッツリ野郎じゃねぇか俺」
「ここに可愛い系の奴なんていねーじゃん」
「だから何でここでこーいう真似をすンだよ。…どーせカルヴァだろうけど」
「…だろーな」

 はみ出てた尻尾を引っ張り出して試しに触ってみたら、そりゃァもうリアルっていうかまさに犬の尻尾そのもので、絶対に取ってつけたような安っぽいモンじゃない手触りだった。こんなバカみたいなことを傑相手にする猛者なんてカルヴァくらいだ。

 …つーかちゃんと無くなンのかな、コレ。

「でもさ、何か飲まされるか打たれるか切られるかしたか?昨日」
「覚えてねーけど多分されたんだろーな、こんな風になって…ッ…」

 毛が柔らかい尻尾の根本を握って遊んでたらいきなり傑が手首を押さえつけてきて、結構強いその力に思わず手を離して傑を見上げたら凄く微妙な顔をしてて軽く驚く。
 何でこんな面してンだろコイツ。俺何も変なことして無くね?


「どした?」
「…くすぐったい」
「は!?これ神経通ってンの!?」
「ッ…だから根本握ンなって!」
「スゲー…いーなー、何か俺も欲しくなってきた」
「何でだよ…どーでもいいけどいい加減手ェ離しっ…ン…ッ」

「……」

 ……。
 ………。

「…何、今の声」
「……」
「なぁ、もしかして滅茶苦茶感度イイの?これ」

 口元を手で抑えたまま答えない傑の顔を覗き込んでこれ、って言いながら手から逃げようとしてる尻尾を掴みなおして少し強めに握ってみる。
 さすがに今度は声は出さなかったけど、…俺だって伊達に何十何百と抱かれてない。俺と違って傑は勃つ前でもイク寸前でもほとんど顔には出ないから解りにくいけど、感じてる時どーいう目の色をするのかってくらいはちゃんと知ってる。

 今のは、っつーか今はその目だ。

「…感じた?」
「現在進行形で。…スゲー悔しいけど」

 隠すのを諦めたらしい傑は、気怠げな声でそう言いながら俺の肩を抱き寄せた。肩口に寄せられた唇から漏れる息が少し荒くなってるのが解って、起き抜けだってのに俺の体温まで上がってくる。
 あー…傑が最中に俺の声聞きたがる理由、今なら解る気がする。










「…ッは…」
「んぅっ…ふぁ、あッ…ん、すげ…ふわふわ、して…」

 騎乗位で傑の腰の上に跨ったまま、俺は少し震える手を伸ばして傑の頭についた犬耳に触った。ぴくん、て震えるそれを優しく掴んだら、ベッドヘッドを背中にして半分体を起こしてる傑が濡れた唇から溜息みたいな声を漏らして、とんでもなくエロいその声にゾクって背中が泡立つ。
 ヤバいって、これ。

「傑…声、エロくね…ッ?」
「お前ほどじゃねー、よ…っも、離せって…」
「…は、ぁ…」

 いや、絶対傑のがエロいと思うけど。
 軽薄な言葉はいつも通りなんだけどその口調にいつもある余裕が全然無くて、言われた通りに耳から手を離しながら見せつけるみたいに舌なめずり。
 勘のいい傑はすぐに察知して”何する気だてめェ”みたいな視線を送ってくるけど、正直全然怖く無い。胸元に手をついて体を支えながら傑の頬にちゅ、て音立てて軽くキスして、

 そのまま、俺はかぷっと耳に噛み付いた。

「ッ…ぁ…!」

 やっぱり尻尾も耳と同じで相当敏感らしい。思わず、って感じで漏れた声にパシっ、て傑が口元を手で抑えたのを見ながら、俺は普段じゃ絶対に聞けないその声が聞きたくて、意識して中に入りっぱのモノを締め付けながら柔らかく耳を噛んだ。


 何をしても崩れないポーカーフェイスじみた薄い笑みとか、エロい声とか、俺が思う以上の快感をくれる指先とか、鞭と飴を使い分けて俺を溺れさせる手口とかそういうのも全部好きだけど、やっぱり偶には弱味を見せて欲しいってのも、正直な所少しあったりする。
 いつも余裕だからちゃんと感じてくれてンのか心配になるし、俺のこといつも見て考えて(偶にそれが苛めだったりするんだけど)動いてくれてンのが解るから、偶にはただ気持ちよくなって欲しいとかも、思う。
 だからこの状況、俺は結構楽しいし嬉しいんだけど…傑はあんま楽しく無さそうっつーか、感じまくってコントロールの効かない体にちょっとムカついてる感じだ。


 だからあんま悪戯すんの止めようかなーとか思ったけど、まァいいか。
 …俺なんて抱かれる度に意地悪されてるし?



「悦、…それ、も…離せ、って…っ力抜ける…」
「んン…抜け、ば?…てか、何でそんな…力、入れて…っ、んの?」
「…うっせーよ」
「……」

 素っ気無く言ってふいって顔背けて深く息を吐く傑の横顔に、ちょっとムっとする。こいつ、せっかく人が心配してやってンのに…

「そういうこと…っはぁ…言うんなら、」
「なら?」

 動いてはいないけど入りっぱなしだから俺もちょっとキツいんだけど、それは取り敢えず我慢して。軽く目を細めて気怠げに聞き返して来る傑に、俺は悪戯っぽく笑った。

「…いつもの仕返し」
「は?…ッん、…っ」

 いつも傑がするみたいに少し腰を浮かせて耳元で囁いて、俺は傑の両手首を掴むとシーツに押さえつけた。そのまま肩口に顔を埋めて、白い肌の上から薄っすら解る動脈にそって舌を這わせる。
 いつもなら「くすぐったい」って笑われるだけなんだけど、今日は、

「ぅあ…ッ」
「…気持ちィイ?」
「…ッはぁ……っ嬉しそ、な面してンじゃねーよ…!」
「ふ、ぁんンッ!」

 調子に乗ってその場で囁いた俺に傑は軽く舌打ちして、荒い息を無理矢理整えた低い声のすぐ後に、いきなり強い突き上げが来た。浮かせてた体がガクって落ちて、抑えてた傑の手に逆に右手を取られて引き寄せられる。

「ぁッ…す、ぐる…!」
「…なぁ、飽きた」

 …飽きた?
 咄嗟に引こうとした手は逆に更に引っ張られて、見せつけるみたいに舌が絡みついた関節に軽く歯を立てられて背筋がゾクゾク震えた。
 こーいう状況で”飽きた”ってのがどういう意味か聞く間も無くまた深い突き上げが来て、あっという間に形勢逆転。さっきまでは潤んだ目とか耳とかがちょっと可愛く見えてたけど、今はどっからどう見ても狼にしか見えない。

「偶にはこーいうのも面白いかと思ったけど、もう飽きた」
「んンッ…くすぐった…!」

 反らさせてくれない深くて鋭い瞳。その瞳に連動してさっきまではシーツを撫でるだけだった尻尾までヤらしい動きで絡みついて来て、内腿をくすぐる毛先にびくっと震えた俺を傑が瞳を細めながら見上げた。

 柔らかくて素早い動きで絡みついた腕が首を引き寄せて、目の前で濡れた唇を真っ赤な舌がゆっくり舐めあげる。そのとんでもなくエロい仕草に思わずモノをぎゅっと締め付けた俺に、羊の皮を脱ぎ捨てた狼はニヤりと口角上げて笑った。


「…啼き声聞かせろよ、悦」

 …マジで喰われるかも、これ。










「はぁ、あ!…ちょ、もっ…ダメ…ッ」
「ヤダ。足ンねーもん」
「おま、いつまでっ…んンぁあッぅ、んぅうッ!」
「さァ?…枯れるまでじゃね?」

「ッ!ふざけっ…付き合って、られな…!」
「人の尻尾ぐしょぐしょにしてる癖に?…いいからほら、イケって」
「ひッ…!ッさ、っきまで…鳴いて、たクセにっ…!」
「もう慣れたよこのくらい。…そぉいやかーなーり好き勝手してくれたな、さっき」
「ふぁ…?ンゃ、ぁあッ…そ、こっ…あ、嫌っ…やぁあぁ…!」

「素面で俺にあんな真似したんだもんなァ?覚悟出来てンだろ、悦?」
「や…さっきの、は…出来心、みたいなっ…」
「へぇ…?…じゃあ、」
「…じゃ、ぁ…?」


「…仕返し」



 Fin.



 変り種X’mas記念!!
 悦と見せかけて傑を獣化で啼かせてみた所、書いてる私だけが楽しい感じに。

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