甘い蜜をあげようか
それとも優しい口づけか
可愛い舌で教えておくれ
悪魔でさえも恥じらうような
背徳を極めた本性を。
磨き上げられたフローリングを這う度に、首に巻きついた重い鉄の首輪から鎖の代わりに伸びた黒いコードが、角度を変えて熱を持った肌を撫でる。
「ッ…ふ、ぅ…う…」
「…終わったの?」
ベッドのふちに腰かけて、どォでもよさそうに言った鬼利は勿論、読んでる分厚い本から視線すら上げちゃくれなかった。
俺ン中で絶好調に動き回ってるオモチャのモーター音とか、蓋して貰ってるってのにだらしなく零れる先走りを舐めて掃除する俺の息遣いとか、さぞかし煩ェはずなンだが、鬼利の集中力はそんなもんじゃ途切れもしねェ。
「んぅ、あ…ッま、だ…」
「掃除した傍から汚してるんじゃ終わらないだろうね」
薄い紙を綺麗な指でするりと捲りながら、鬼利は何の感情も籠って無い声で言った。慌ててまたフローリングに顔を伏せた瞬間、スイッチを押し込む小さな小さな音。
バツっ。
「ッ―――、ァあ゛ぁ!」
少しの間を置いて、首の後ろを思いっきり鈍器で殴られたみてェな衝撃が走る。首から始まって頭っから爪先まで駆け抜けてく激痛の正体は、俺の首に巻きついた首輪から流された高圧の電流だ。
普通の痛みなら何回か繰り替えされりゃ慣れるンだが、どォやら電撃の痛みっつゥのは少し質が違うらしい。もう何10回って流されてンのに痛みに慣れるどころか、全身痺れたよォになって動けない時間がだんだん伸びてきてる。
「ぅあ…あ、…ッ」
「…そんなに好きなの?これが」
本を閉じた手の中で黒い小さなリモコンを弄びながら、鬼利は無様に床に這いつくばって震える俺を見て軽く溜め息を吐いた。実際こんな無機質な痛みちっともよかねェんだが、気持ちとは反対にモノは勃ちっぱなしだから、ホントこの体には嫌気がさす。
「……」
「ひっ、…すき、好きです…ッごめんなさ…!」
無言で軽く目を細めた鬼利がリモコンに指かけたのを見て、咄嗟に床に頭擦りつけて許しを請うた俺を見下ろした鬼利が、緩やかに笑った。
「そんなに好きなら3分置きに流してあげようか?」
「ッ…!」
5分置きに流されてる今でも辛いのに、2分も間隔を狭められちゃ耐えられる気がしねェ。でもやっぱり嫌だなんて口が裂けても言えねぇから、俺は鬼利の手が首輪のリモコンから、俺ン中に入れられたローターのリモコンに持ち替えンのを見てるコトしかできない。
「んンッ…!…あ、ぁッ!ふぅ、く…ッ」
「わざわざ塞いだのに、これじゃ何の意味も無い…」
中に仕込まれたローターの振動数を最弱から強まで上げられて、咄嗟に床に爪を立てた俺を面白くもなさそォに見下ろしながら、鬼利はコードを引っ張ると無理矢理俺の顔を上げさせる。
「もっと太いのにしなくちゃお前には意味が無いね。確かもう1本細いのがあったから、両方とも突っ込んであげようか?」
「い゛ッ…ひぃ、ぐ…!」
ベッドを降りて近寄った鬼利の足が何の前触れも無く俺のモノを踏みつけて、尿道に拡張用らしィ細い鉄棒をのみ込まされたそこをギリ、と踏みにじられる痛みに涙が滲んだ。
普通ならこんな真似されりゃァ即行で萎えンだろうが、敏感なトコロを内と外から責められる激痛も、狂った俺の体はすぐに快感にすり替える。
「あ、ぁ、あッ…そな、強っ…あぁあッっ」
「……」
びくりと体を震えさせた俺の顔を前髪掴んで上げさせたまま、鬼利は強弱をつけて踏まれる度に棒の隙間から浅ましく先走りを零す俺を見下ろして、綺麗な瞳を細める。
橙色ってェのは確か暖色だったはずだが、俺を見下す鬼利の瞳に暖かさなんざ皆無だ。
「はぁッ、ぁ、んンっ…あ゛ッ―――!?」
バツン、バツン、バツンッ
裏筋を押し上げるみてェに踏まれて、根元まで押し込まれた棒を咥えてる入り口がひくひく震えてンのを感じながら悦に入ってた体を、連続で流された3度の電流が叩き起こす。
理性どころか意識まで吹き飛ばすよォな激痛に目ェ見開いた俺を見下ろす鬼利の唇が、薄らと綺麗な孤を描いた。
「快感の後だと少し強く感じるみたいだね」
「ひ、…は…ぁ、…ッっ」
「まだもう2段階上げられるんだけど、」
自然と溢れてくる涙で顔をぐしゃぐしゃにしてる俺の前にリモコンぶら下げて、確かにあと2つ上げられるよォになってる摘みに指をかけながら、こんな場合じゃなけりゃァ間違いなく聞き惚れる優しい声で鬼利が囁く。
「焦らすのも可哀そうだし、一気に行こうか」
「……ッ!」
俺が悦ぶことならギリギリまで焦らして焦らして、それこそ気が触れる寸前になってよォやく与えてくれンのに、優しげに囁いた鬼利は、震えながら思わず小さく首を横に振っちまった(普段ならこんな真似すりゃ蹴り飛ばされる)俺の頭をくしゃりと撫でて、
バチッ!
「ぃあ゛ぁあッ!っ…ぅ、うぅう…っッ」
「ほら、早く綺麗にしないと本当に狂うよ」
それまでとは比べ物になんねェ衝撃に、強張った体をガクガク震わせる俺の頭をもう一度優しく撫でて、鬼利はベッドに戻るとゆったり足を組んだ。
最強まで出力を上げられた電流は一瞬で全身の筋肉を貫いて、舌まで痺れちまッた俺にはそれが痛みなのかすら解らない。無意識に鬼利の言葉に従おうとしたのか両手が床をついたが、震えるばっかりで使い物になりゃしねェ。
「はッ、はぁッ、ぅ、はぅう…っ!」
ほとんど頭を擦りつけるみてェな形で床に這って、さっき踏まれて床に零れたてめェの体液に震える舌を伸ばした。何度も体を支える腕が崩れて無様に倒れ込みながら、床を這って汚れを舐め取ってく。
“痛み”って意味じゃァ今までのどれよりキツいかもしんねェ電流には、大概狂った俺の体もさすがに感じられないらしィ。
だらだら垂れ流してた先走りが止まってる内に散った体液を全部舐め取って、最後に『千里眼』を使って床の上に水分がねェか確認してから顔を上げると、無表情に俺を見下ろす鬼利と目が合った。
「終わ、た…鬼利、…」
「遅い」
「ッ…ごめ、なさい…」
「…でもまぁ、お前にしては頑張った方かな」
…頑張った?
汚した床を掃除しろ、ッて命令されてから今まで、少なくとも愚図な俺ァ15分は鬼利を待たせてる。
そんな状況で頑張ったなんて、そんな風に褒められるなんざ有り得ない。過去の経験からサっと背筋に悪寒が走った俺に柔らかく微笑んで、鬼利は手にしたリモコンを転がした。
「ご褒美をあげなきゃね」
「ッゃめ、き、…――――ひィ゛ッ!!」
止めて、って言って鬼利が止めてくれるはずが無い。案の定、綺麗な指先はリモコンのスイッチを簡単に押しこんで、バチンって音と一緒に目の前で火花が弾ける。
全身、頭ッから爪先まで駆け抜ける激痛は一瞬何が起こったのか解んなくなっちまうほどで、てめェの体を抱くように腕を回して呆ける俺を退屈そうに眺めながら、また、指が。
「ぃぎッ!あ゛!ひぁッ!、ひぐッ、ぁあッ、っッ!」
火花が散るよォな音と痛みが何度も何度も、何度も。
痛みでガチガチに強張った体をまた同じ痛みが跳ね上げて、強張った筋肉が軋むが、容赦なく流される電流はお構いなしに俺の体を内側から壊していく。
痛い、電気が、電気が内側から、痛い、首輪から、熱い、痛、無理矢理跳ねた背中が軋む、髄まで届くような、痛い、バラバラに、痛い、痛い、痛い、、、
「―――ッ…ぁ、か…は、…ッっ」
てめェで掴んだ腕の血流を止めるほど指が食い込んで、強張った所を無理に動かされた筋肉が色ンな所でツって、火傷するほど熱をもった鉄の首輪にも反応できなくなってよォやく、絶え間なく浴びせられてた電流は止んだ。
「はッ、…!…はぁ、ッ!…ひ、ッっ…ぃ、…!」
震える喉でなんとか死にそォな呼吸を繰り返して、まだ体の至る所を痺れさせる電流の名残と、ひきつって痙攣する筋肉の痛みにぼろぼろ涙零しながら床の上で震えてたら、不意に前髪を掴まれて引っ張り上げられた。
「珍しいね。本当に痛いの?」
「ぁ、あ…ぅうぅ…ッ!」
今までの俺の反応見りゃァそんなことすぐ解るだろォに、声だけは驚いたように言って、鬼利は抵抗なんて出来なくなった俺を座らせると、ぎっちり腕に食い込んだ指を一本ずつ剥がしてくれる。
「はッ、は、……ぁッ?」
「そう言えば忘れてたよ、これのこと」
おかしな形にひきつった俺の腕を撫でて緊張を解しながら、鬼利の指先が不意にモノの先から少しだけ出た鉄棒に触れた。
少なくとも俺ァさっきのに快感なんざ微塵も感じられなかったが、体はそォじゃなかったらしく、萎えるどころか少し棒を引き出されただけで先走りが溢れてくる。
これじゃまた床を汚しちまう。綺麗にしないと、…あぁ、でも体中ガタついて動かねェや。またビリビリってされンのかな。少し、少しだけ、この体の痺れが取れるまで少し、待ってくれたら、
「き、い…ま、っれ、…今、きれぇ、す、…から、…」
「いいよ。どうせ掃除するなら全部出してからじゃないとキリが無い」
痺れた舌でなんとか言った俺の首筋を撫でながら、鬼利はずず、と中に埋まった棒を半分ほど引き抜いた。
唇に触れた指先を舐めると慣れた血の味がして、あぁ、火傷したトコに首輪が擦れて傷になったのか、って頭のスミがやけに冷静に考える。
「ひ、ぁあッ…き、…?」
「イキたいんでしょ?」
奥の奥まで入り込んでた棒が何時間かぶりに引き抜かれて、ドロドロと精液混じりの先走りが溢れてきた。普段の俺ならそれだけでイっちまうンだが、尿道の中まで痺れちまったらしく、裏筋を伝う体液に少し体が震えるだけだった。
「ちゃんと掃除できたご褒美だよ」
「ッ…!…ぁ、あぁ…っ!」
半分意識飛ばしかけて朦朧としてた意識が、柔らかい鬼利の声と、その手に握られたリモコンを見て覚醒する。
ぐったり弛緩してた体がまた強張って、泣きそォになりながら思わず鬼利を見たら、優しくてサディストな俺のご主人様は安心させるように笑って俺の頬を撫でた。
「大丈夫、イったらすぐ止めるよ」
「や、や、ッ…きり、嫌、…ゃだ…ッ」
「最初のまで弱めてあげるから。ね?」
「ひぅ、く…ッ…ほんと、っぅ…ほんとに痛い…きり…ッ」
鬼利が目の前でつまみを最初の位置まで戻してくれても体の震えは止まらなくて、しゃくり上げながら縋るように鬼利のシャツを掴む。
いやいやと首を振る俺に困ったように笑って、鬼利はシャツを掴んだ俺の手に自分の手を添えると、息遣いすら聞こえそうな至近距離で、
「少し痛いかもしれないけどちゃんとイけるよ。大丈夫」
「でも、…でもっ…!」
「幽利」
ゆうり。滅多に呼んでもらえない、今日初めて呼ばれた俺の名前。
鬼利がくれた、なまえ。
「この電気は僕がお前の為に流してる“痛み”だから、お前の体が感じない筈が無い」
鬼利が、俺のために。
その言葉を理解した瞬間、それまでただの痛みでしかなかった電流の余韻が、イッた後みてェに甘い痺れにすり替わった。
本をよく読むせいで普通よりも少し悪い鬼利の目には、俺の中身なんて“視え”てねェはずなのに、俺のコトならなんだってお見通しな鬼利はそんな俺の反応まで見透かしたように薄ら笑って、細くて綺麗な指を俺の唇に含ませる。
促されるまま俺が指を緩く食んだのを確認してから、反対の手がスイッチを軽く握り直して、
「…イイ子だね」
「ッっ―――!」
目の前が眩むような快感に合わせて頭ン中で弾けた火花みてェな音さえ、今の俺には途方も無く甘かった。
「―――で、その日の晩飯の隠し味に何入れたと思う?」
「チョコレート」
重厚な執務卓の端に腰かけ、鬼利が先程サインを入れた書類をつまみ上げて眺めながらの傑に、鬼利は書類に視線を落としたまま答えた。
「悦もさすがだね。お前に気づかれないように混ぜ込むなんて」
「そこなんだよ。ホント、毎度どーやって誤魔化してンのか、」
「…なに?」
不自然に途切れた声に思わず顔を上げた鬼利の、書類を抑えていた左手をするり、と傑の指が撫でた。
それにあぁ、と頷くと、鬼利は書類に視線を戻しながら、人差し指に巻かれた白い包帯をなぞる傑の手をぞんざいに払う。
「なんでも無いよ」
「…へぇ?」
いつも通り対応したつもりだったが、それでも傑はその言葉や仕草の中に何かを感じ取ったらしい(蛇の道は蛇だ)。
大人しく手を引いた傑の、どこかからかうような色を含んだ視線に小さく微笑み、鬼利は包帯の上からそこについた浅い噛み傷を撫でた。
「ただのキスマークだよ。変な噂が立つと面倒だから隠してるだけ」
「ふーん?ただの、キスマークね」
わざとらしく言いながら傑は執務卓からひょいと飛び降りると、キーボードを弾いていた鬼利の指に巻かれた包帯をもう一度、今度は先程よりも少し強めに撫でて、笑う。
「肉が抉れるまで吸うなんて随分情熱的だな。妬けちゃう」
いつも通りの傑の軽口を、だが鬼利はいつものように一蹴することは無かった。
指先を見つめる蜜色の瞳がいかにも愛おしげに細められ、形のいい紅唇がゆるりと微かに笑う。
「…ホント、妬けるぜ」
それ以上言葉を続ける気は無いらしく、無言で美しく微笑んで見せた鬼利に、傑は苦笑しつつそう呟いた。
Fin.
双子で電気責め。
使った電気ショック付き首輪は普通の玩具ですが、鬼利の手で特殊改造が施されております。
鬼利が幽利に指を噛ませたのは衝撃で舌を噛むといけないからです。
噛み傷どころか、指くらいなら噛みちぎられたって直ぐに治ってしまうので、傷という形が残るのがホントにちょっとうらやましい傑。