淫乱ですもの



 暗闇の中で、発光製の時計のライトだけが鈍く光る。


 デジタルの文字盤が示すのはベッドに入ってから2時間近く過ぎた頃で、ごろりと寝返りを打ちながら俺は深く深く溜息を吐いた。

「…眠れねーし」

 改めて声に出してみても状況は変わらない。
 いっそ寝酒でも呷ろうかと思ったけど、明日はちょっと面倒な仕事が入ってる。いつもならそんなこと気にしねーけどさ、酒入ったまんまで朝っぱらから警備100人超えの要塞の破壊と虐殺はさすがにマズいだろ?

 依頼主のご要望で、そこのトップのオッサン嬲り殺しにしなきゃなんねーみたいだし。その分追加料金だから文句は言えねぇんだけど、また血まみれになンだろーなあ。


 絶対盛るな、アイツ。


 俺が仕事で血染めになる度に、その匂いに反応してシャワーも浴びない内に押し倒してくる「アイツ」のことがふっと思い浮かんで、思わず口元が緩んだ。

 あぁ、こんなことアイツに知られたらまた調子に乗る。 無駄に鋭いあいつに寝不足の理由を問い正されて、吐かされた内容を聞いて調子に乗ったアイツにまたベタベタに甘やかされる。


 …いや、別に甘やかされンのが嫌なわけじゃねーけど、さ?

 やっぱり普段がアレだから、いきなりこう…簡単にイかせてもらったり、イイトコばっか抉られて鳴かされると物足りないっつーか、快感と苦痛が足りなくて、逆に焦れちゃったり?

『嫌、じゃ無くて。濡らしてンだろ?』

 あー…、そうそう、この声。


 苛められる時の傑の声は少し低いけど、耳元で言葉責めされる時はそれより低くて甘くて。


 …そりゃもう、記憶にあるその声だけで勃つくらい。










「んっ…ふ、ぅ…ぁ、あ、あぁあっ…」

 波打つシーツを右手で掴んで千切れるほど握り締めながら、左手だけを使って糸引きそうなくらいぐしょ濡れのモノを握って扱く。

「はぁッ、ぁ…」

 ただ握って根本まで扱くだけじゃ足りない。全然、足りない。
 傑の手で、舌で、声で快感を覚えこまされた体はもっと激しくて苦しい快感を知ってるから、いつも傑がそうするみたいに爪を尿道口に突っ込んで先走りが泡立つくらいぐりぐりして欲しいけど、それはまだ、我慢。

『こんなんじゃ足りねーもんな、悦は。ほら、どうして欲しい…?』
「ふぁっ、あッ…も、もっとぉ…酷くし…て…っッ」
『ふぅん?…じゃぁ、こーしちゃう?好きだろ?コレ』

ねだる俺をからかう傑の笑いすら聞こえてくるみたいで、俺は肩まで被った布団の下からサイドテーブルに載ってた銃の掃除に使う布を掴んだ。
 薄汚れたその布を根本に巻き付けて,ぎゅうって縛る。

「ひぃ、ンっ…あッ、あっ、あぁぅ…!」

 きつく縛ってイケないようにしたまま、ドロドロに濡れた指を一本後ろに宛がえばつぷんって簡単に飲み込まれて、中の熱さに思わず指を動かすのと同時に背筋を震わせる甘い痺れ。

「はぁあ、んンっ…ひぅっ、う、んあぁ…ッ」

 受け入れることに慣れた穴にはそれだけじゃ足りなくて、気づいた時には三本目。
掻き回しながらベッドの下を探り、傑が勝手に置いていく「玩具入れ」をひっくり返してバイブを引っ張り出し、舌を這わせてぴちゃぴちゃ音立てて舐めまわす。


「あぁぁッ、あっぅう…!…ひぃ、あぁンぅう…ッ」

 突っ込んだ指は見つけた前立腺をごつごつ叩いて、でも傑ほど乱暴には出来なくてもどかしい。

 耐えきれずに突っ込んだバイブでとろとろの襞をかき混ぜて、自分を追い込んでいけば目の前が霞みがかったみたいに白くなってくる。
 シーツを握ってた右手が震えながら根本縛ってる布に伸びて、…あぁ、もう、限界。


「ぁあぁぁッ、あ、ああぁ…ッ…も、ぃ、イかせ、て…ッ!」
『…イイよ』

 甘く掠れた傑の声を思い出して、あの瞳と唇と指先と体をありったけ想像して。
 震える指先が布の結び目を解いて、息苦しさが無くなるのと同時に頭のてっぺんまで脊髄を駆け上がる、快感。

「ッっ―――!」

 シーツに噛み付いて声を殺した俺の頬に、いつもより勢いのいい精液が飛び散った。
 バイブを体が反応しない内に引き抜いてぐったりシーツに体を預ければ、急激に冷めていく体温。

「はっ…はぁ、は……」


 体を満たすのなんざ簡単。

 淫乱に躾られたこの体は記憶に焼きついた甘い声を想像するだけでも濡れるから、欲を吐き出すのには自分の手と想像力があればそれで十分。

 だけど。


 イった後の、やるせないくらいの虚無感っつーか寂しさみたいなのは、1人きりじゃどう頑張ったって満たすのは無理なワケで。


「ぅあー…ヤりてー…」


 愛だとか心だとか、目に見えないモノなんてどうでもイイんだ。


 ただ、ドロドロに溶けるくらい激しい熱が欲しい。

 ……しゃーねぇじゃん、淫乱なんだから。


「…早く帰って来いよ…傑…」



 Fin.




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