異常気象につき



 午前10時、Y地区の空調機が停止。
 午前12時、EとT地区の空調機が立て続けに停止。
 午後1時、J地区の空調機が停止。
 午後4時、フル稼働してたO地区の空調機が停止。
 しかも、空では近年稀に見る猛暑を記録。

 …結果、灼熱地獄。










「…死ぬ、これ死ぬ」
「……」

 あまりの暑さに、隣で洒落になんねぇ事呟きだした傑に突っ込む気も起きない。

 空調機が全停止してから1時間。少しでも気温上昇を押さえる為に、一部医療機関を除いて"街"の全区画で現在電気の供給がストップされてる。
 つまりクーラーは勿論、扇風機だって動かねぇわけで。地下水くみ上げるポンプも電気で動いてるから水道水だって限られた量しか出なくて、シャワーすら浴びれない状態。

「傑ー、晩飯食う?…そーいや昼も何も食ってねぇよな」
「…冷蔵庫も止まってるから全部腐ってるぜ、きっと」
「不快指数90パーセントだってよ。……壊していい?この温度計」
「止めとけって。温度計だけじゃ済まなくなるから」
「…1リットルくらい出血したら寒くなんねーかな」
「あー…それイイかも。流血してみる?」


 シーツに投げ出した自分の手首見ながらこんなこと言ってる俺達は、すっかり暑さに侵されててもう末期だと思う。色んな意味で。

 俺は"街"で一番スモッグも排気ガスも酷くて冬でも気温が下がらないZ地区の出身だし、傑に至っては『純血種』だってのに、ベッドから下りる気も萎えるくらいへバってる。
 俺達でこうなんだから他の一般人は間違いなくへバってるだろう。つまり、俺達の今の状態は街のその辺を見渡せばいくらでも見られるようなありふれた状態なワケだ。


「…ムカつく」

 暑さで沸いた脳ミソで延々無駄なこと考えてたら、自分で出した結論に無性にムカついた。
 誰かの想像通りに動く、っていうのが俺は一番嫌いだ。それが人だろうが空調機だろうが気温だろうが関係無い。暑いからって普通に暑がってるだけじゃ何か出し抜かれた気がする。この街に。


「…傑」
「なーにー」
「シたい」
「…はィ?…え、今?」
「今。」

 枕から顔だけ上げて聞き返してきた傑にきっちり頷いて、俺は下半身に纏っていた邪魔なシーツを取っ払った。

 閉じてる傑の足を蹴っ飛ばして軽く開かせ、すらりと長い両足の間に這いつくばってチャック が開いたままのジーンズに舌を突っ込む。


「あのぉ…悦サン?」
「ふぁ?」
「積極的なのは大歓迎なんだけどよ、何でこのクソ暑い最中に、尚更暑くなるよーな真似をしてンのお前は」
「…悔しいから」

 舌で傑のモノを引っ張り出して指で扱きながら答えたら、上半身起こした傑が神妙な顔で首を横に振った。

「悪ィ、何言ってンのか意味不明」
「…だからぁ、思い通りになるのが悔しいから予想外のことしてやろーと思ったんだよ」
「予想外って誰の。空調機?」
「あー…まぁ、そんなトコ」
「…成る程」


 てっきりまた意味解らないって面をするかと思ったら、傑は納得したように頷いて俺の髪をくしゃ、って撫でて来た。

「暑さにオカシクなって手首切ったって別に普通だもんな。確かにコッチの方がよっぽど予想外だわ」
「だろ?」

 このクソ暑い中で盛って、尚更暑くなろうとしてるだなんてどこの誰も、それこそ空調機だって思いもつかないに違いない。


「裏切ってなんぼだしな、常識なんて」
「傑の場合、存在自体が常識外れだしな」
「確かに」

 下らない軽口たたき合って、くすくす笑いながらどちらからともなく唇を重ねる。
 これがとんでもなくイカレてて馬鹿げた行為だってことくらい、俺達は百も承知。


 型に嵌った常識より、こういうイカレた御乱行の方が気持ちイイのも、百も承知。










「…悦、腰どーよ」
「ん…ぁ?…このくらいなら余裕だけど、何で?」
「お前の中いつもより熱くてイイから、もっかいヤりてーなって思って」
「ッあ、ぁ…マジで?じゃぁ、今度風邪でも引いた時にもヤって比べてみっか。どっちの方がイイか」
「いーけど、こっちの方がよかったらどーする?」
「ん…サウナでヤる。しかもスチーム」
「ははッ、最高」



 Fin.



異常気象につき、バカップルの周囲の温度も急上昇。

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