「あーあァ…酷ェなこりゃ」
ブラインドを上げて街を見下ろしてみりゃァ、暑さの所為で道路には野良犬一匹いねェような状況で、人口太陽を消された真っ暗な街並みに思わず苦笑する。
空調機が止まって…大体2時間ちょいってトコか。
暑さの所為で”ILL”そのものが機能してねェから、雑用の俺の仕事と言やァ普段はしねぇ窓拭きくらい。
しかし暑ィ。どいつもこいつも自室で死んだみてェにダラけてっから、今働いてンのなんざ俺……くら、い……
急に目の前がぐるりって回って、俺はいきなりガクっと力が抜けた手から滑り落ちたバケツが、床を転がって耳障りな音を立てるのを聞いた。
暗転。
♪~…♪~♪…
「…はい」
『鬼利?ちょっといいかしら、大変なのよ』
「大変?」
通信端末の向こうのカルヴァの声に、僕は暇つぶしに捲っていたハードカバーを閉じた。大変、なんて言う割には随分口調がのんびりしてるみたいだけど、カルヴァがこんな時間に僕に直通の通信を繋げて来る時は、話題なんて1つしか無い。
『貴方の可愛い奴隷兼片割れを発見したわ。久しぶりに本気で倒れてたみたいでね、もう1時間もするのにまだ意識が戻らないのよ』
「また過労?」
『過労なら倒れる前に自主的に来る様に言ってるわ。熱中症と軽い脱水症状よ。あの子この環境下で働いてたみたいだから、まぁ当然でしょうね』
呆れたようなカルヴァの診断を聞きながら、僕は思わずこめかみに手をやった。
だから、今日は働かなくてもいいって言ったのに…昨日の仕事の片付けをするだけ、と言うから行かせてあげたら、これだ。
「ごめんね、毎度毎度迷惑掛けて」
『全くだわ、貸し1つよ。…そうだ、暇だったらお見舞いに来てくれない?寝顔のお守くらいしてて頂戴な』
「気が向いたらね」
自分でもそうと解るくらいに素っ気無い僕の答えに、カルヴァが端末の向こうでけらけらと笑った。
『双子だけあって、意地っ張りな所思考回路までそっくりね。本当は今すぐ来てあげたいんでしょう?なんだかんだ言って優しいものね、貴方』
「……」
からかうようなカルヴァの声に、僕は答えずにそのまま通信を切った。
一気に静かになった部屋で、思わずとっくに通信の切れた端末に向かって呟く。
「…煩いよ」
医局{過激派}の隅のベッド。
白いカーテンに仕切られたほとんど指定席になってるそのベッドの上で、幽利はいつものように寝ていた。
唯一いつもと違うのは、その両手首が包帯で巻かれて拘束されてるって事くらい。これはまぁ…どうせ、カルヴァの悪戯だろうからどうでもいい。
「幽利…幽利」
「…ンぁ…?」
ベッドに片手をついて耳元で囁けば、寝息もほとんど聞こえないくらい深く寝入ってたのが嘘みたいに起き出して、寝ぼけた声を出す。
その髪を掴み上げて引きずり起こしたくなるのを我慢しながら、僕はベッドの端に腰掛けるとその目隠しをするりと解いた。
1度軽く瞑ってから、ゆっくり開かれる瞳は鮮やかな橙色。微妙に焦点がずれてぼんやりしている、僕が一番好きな色。
「…ここ…医局…?」
「そうだよ。また倒れたんだって?あれだけやり過ぎるな、って言ったでしょ?」
「ン…ごめん、なさい…」
「もういいよ。ほら、これ。薬だって」
まだ半分寝ぼけてるのか、口調がいつもより幼く聞こえる幽利をベッドの上に起こして、僕はその唇にさっきカルヴァから手渡された薬を飲み込ませた。
造りは僕と同じ筈なのに、幽利がやると薬を飲み込む仕草だけでも妙に色っぽく見えて、ついつい苛めたくなる。まぁ、暑いから今はしないけどね。
幽利に水を飲ませながらそんなことを考えていた、矢先。
いきなりぐいってネクタイが下に引っ張られて、何するの、と言おうとした声が幽利の唇に飲み込まれた。
「…っ…幽利」
「んん…ふ、ぁ…は、ぁむ…」
少し低くした声で叱り付けてみるけど、スイッチが入っちゃったらしく聞きやしない。
仕方なく襟首を掴んで顔を上げさせ、逆に舌を絡めとって吸い上げながら、僕は後ろ手に背後のカーテンを閉めた。
「随分余裕ないね。どうしたの?」
「んッ…ふ、んンくっ…は、ぁ…!」
どうしたも何も、どうせカルヴァの仕業だろうけど。
緩んだネクタイを解きながら、僕はベッドに座ってる僕の足の間に顔を埋めて、さっきから一生懸命僕のをしゃぶってくれてる幽利の頭をぽんぽんと軽く叩く。
根本からぴちゃぴちゃ音立てながら犬みたいに舐め上げて、カリに舌を絡めて舐めまわしてから喉の奥まで飲み込んで唇でゆっくり扱き上げる。先っぽは何度か軽く甘噛みして、完全に勃ったら一気に喉の奥まで飲み込んで先端を喉の奥で刺激しながら顔を動かして何度も吸い上げて。
次に何をされるかは全部解ってるんだけど、それを知っていても幽利のフェラは気持ちいい。奥まで突っ込んで吐きそうになりながら、その喉の震えまでバイブレーションに変えてしまえるんだから本当に、フェラに関しては僕も幽利には敵わない。
「…幽利、手…解いてあげようか?」
ピストンのスピードが上がって軽く息を詰めながら、縛られた両腕で下半身に纏わりつく服を脱ごうと頑張ってる幽利に聞いたら、一瞬考えるように止まってから首を横に振った。
絡みつく作業着を下着ごと足で器用に脱ぎ捨ててそのままベッドの下に落とすと、僕のをしゃぶる内にすっかり出来上がってる自分のモノを軽く扱いて、溢れる先走りを指に擦りつける。
「ぁふっ…ん、はぁ、んンッ…ぁあ、んッっ」
…あぁ、失敗した。やっぱり鞭持ってくればよかった。
思わず内心で舌打ちして、僕は濡れた音を立てて自分で後ろを解してるらしい幽利の背中を軽く撫でた。
少し前までは荒々しい鞭の後が縦横に走っていたのに、今はもうその痕すら薄っすらとしか残っていなくて、幽利の背中はつるりとした白い肌に覆われてる。傷の残らない肌はいくら汚しても元の白さを取り戻すから、見てると早く新しい傷で染めたくて仕方ない。
「ん、ンっ…ふ、はぁ…ッ」
「…満足した?」
「んくっ…ぁ、ちょ、待って…っ今日、は…俺が…」
解れたらしい奥から指を引き抜いて、ようやく僕のから口を離した幽利にそう尋ねながら押し倒そうとしたら、逆に肩を押されてシーツに押さえつけられた。
快感でくたって力の抜けてる幽利は、その気になれば簡単に押し倒せるんだけど…
「俺が、どうしたの?」
「っはぁ…鬼利、に…シたぃ…っ」
「ちゃんと出来るの?…下手だったらお仕置きだよ」
唾液と僕の体液とで濡れた唇を扇情的に舐め上げながら、幽利は僕の言葉にこくこくと頷いた。
…こんな誘い方、どこで覚えたんだか。
「じゃあ、今日だけは上に乗っても許してあげる。…おいで」
「んンっ…ぁ、…はぁ、ぃ…」
濡れた唇から甘えた声を漏らしながら、上に乗った幽利が奥に僕のを宛がった。きゅう、と吸い付いてくる柔らかい感触に軽く眉を顰めながら、僕は微かに震えてる幽利の肩に片手を乗せて、
「ッ…ひッ、ぃあぁああぁあッ!」
無理矢理根本まで飲み込ませた。
受け入れることに慣れた淫乱な口はさすがに切れはしなかったみたいだけど、代わりに締め付けが凄い。食いちぎられるんじゃないかって思うほどで、僕はびくびくしながら舌を突き出して喘いでいる幽利の頭を軽く叩いた。
「っ馬鹿…キツい、よ…」
「はッ、はぁっ…ひ、ぁあ…ッ」
「聞いてるの?…緩めないと、抜くよ」
前髪を乱暴に掴んで耳元で囁くと、びくん、と派手に震えた幽利が慌てて呼吸を整え始めた。痛いくらいに締め付けてきた中がだんだん緩んで来て、ネクタイを解いた僕の胸元に手を着くと腰を使いはじめる。
「はぁ、ぁ、ンぅうっ…ふ、ぐッ!?」
「あんまり大きな声出すと聞こえるよ」
「んんぅ…っ!」
僕の上に乗って腰を振ってる幽利があまりにも気持ち良さそうで、ただ気持ち良さそうで、苦痛が混ざっていない喘ぎ声は聞き慣れないから丸めたネクタイを突っ込んで声を塞いだ。
聞こえるなんて嘘。権力と金を使って、カルヴァとその助手は僕と入れ替わりにこの医局を出してあるから、いくら声を上げたってそれを聞くのは僕1人だけ。
それが悲鳴でも嬌声でも。
結局、独占したいだけだっていうのは解ってる。
「ぁ…ッ!」
ぽたり、と手の中の蝋燭から赤い蝋が滴るのを眺めながら、僕は幽利の首輪から伸びる鎖を軽く引いた。
気管を息が出来るギリギリまで締め上げると、連れて帰って来て早速蝋燭責めにしてる幽利の声が忙しなくなって、赤い舌が酸素を求めるように唇からのぞくから、今度はその舌の上へと蝋を零して赤い舌先を鮮血にも似た紅に染め上げる。
羞恥責めに衆人環視が効果的だってことくらい知ってる。でも姿どころか声すら誰にも聞かせようとしないのは僕の我侭。幽利と僕の間にあるこの関係を疑うわけじゃなくて、単に勿体無いから。
本当に、馬鹿げた感情。
「美味しい?幽利」
涙目になって苦しそうにしながら震える舌を突き出して、赤い蝋燭を受け止める幽利に殊更優しい声をかけながら、僕は軽く目を細めた。
僕が教えた覚えの無い誘い方の出所が、最近仲のいい悦だったってだけ。お仕置きの名目は「誘い受けが下手だったから」だけど、実際はただそれだけの理由だ。
幽利が僕の為に悦に相談して、精一杯慣れない誘い方をしたって事くらい僕にも解ってる。その状況を知っていてもこんな真似をしちゃうのは、単なる僕の我侭と×××な嗜虐心の所為。
「あッ、ぁ゛…おい、ひ…ぇす…っ」
…まァ、そんな僕の心情を計算し尽くした上であんなことをして、「お仕置き」にセックス以上の愉悦を感じてる幽利も、相当×××だけど。
Fin.
衣雉様リク「鬼×幽で鬼利視点」
素敵リクありがとうございました!