「…チョコレート?」
「そだよぉー。姉様といっしょにねぇーつくったのー」
「あぁ、バレンタインの…ありがとう。こっちは?」
「あーそっちはぁ幽利さんのだからー食べちゃーダメだよー?こっちのぉ、ピンクのリボンのが鬼利さんのだからねぇー?」
「そう。あとで頂くよ。ありがとう、F。カルヴァにもお礼を言っておいて貰える?」
「はぁーい。…ちゃんとぜーんぶ食べてねぇ、鬼利さぁん」
仕事を終わらせて部屋に直行のエレベーターに乗り込みながら、俺は片手に提げてた紙袋を胸の前で抱え直す。
今日はバレンタイン。大戦で1回は廃れてたこの風習に菓子メーカーが目ェ付けたのは鬼利の話じゃァ5年前らしいが、今じゃすッかり普及した上に好きな人以外にも「義理チョコ」っつゥ習慣まで出来たらしく、お陰で俺みてェなモンも女の子達の恩恵が受けられるようになった。
旦那にも仕事中にホットチョコを差し入れて貰ったケド、手造りだって言ってたのもあッから早いうちに食べちまわねェと…今日は歯磨き2回しといた方がイイかな。
「鬼利ィ、ただいまァ」
「…おかえり、幽利」
…あれ?
何時も通り流される気満々でいた俺の予想を裏切って、リビングに居た鬼利はエレベーター直通の玄関を抜けてリビングの扉を開けた俺を見た。膝の上にゃァ読みかけの分厚いハードカバーが乗っかってる。
「あ、うん…ただいま」
「さっき聞いたよ。…それは?」
本読んでる時は日常会話でさえ相手にしてくんねェのが普通なのに、って驚く俺に軽く笑って(ここ凄ェ重要)、鬼利は俺が抱えてる紙袋を見て軽く首を傾げた。
「ン…医局の子達がくれた。食う?」
「いいよ、僕も貰った。そんな所に立ってないでおいで」
「…へ?」
「おいで、幽利」
ゆ、夢でも見てンのかィ俺ァ。
ハードカバーを閉じてローテーブルの上に置きながら、鬼利が視線の先で示したのはその足元のラグ。いつもは俺の方から近寄らせて貰うことがほとんどで、っつゥか鬼利から俺を近くに呼んでくれるなんてなァ“あの時”くらいだ。
「き、鬼利…?」
「ほら、早く」
「あ、…んンッ!?」
紙袋を本の隣に置きながらそろそろ近寄った俺の手を引いて無理矢理膝を付かせた鬼利の手が、腕から髪に持ち代えて俺の頭を強く引き寄せる。ふっと甘い香りがしたと頭の隅の方で思った次の瞬間、唇に触れた柔らかい感触。
柔らかく濡れた舌がちゅるりと俺の唇を這って、あンまりのコトに髪を引かれたまンまの格好でガッチリ硬直してる俺を笑いながら、いつもなら皮が破れちまうくらいの扱いをされる唇を優しく甘噛みされてぞわっと肌が粟立った。
「き…?ん、む…ッ」
「…チョコの匂いがするね」
「は、ふ…ぁあぅ…っ」
唇は離れたケド相変わらず至近距離のまま、くすくす笑う鬼利の指先に舌を絡め取られる。くちゃりと濡れた音を立てながら掻き回されて、それだけで付け根まで痺れた舌先に軽く立てられた爪に、てめェでも驚くくらいに体が跳ね上がった。
「はぁっ…何…どうして…っ」
「おかしなことを聞くね」
額が触れるよォな至近距離で鬼利は心底おかしそうに笑うと、鬼利に触れられるだけで甘い電気を流す俺の体を弄ぶよォにゆっくり作業着のチャックを下ろしながら、こくりと首を傾げて見せる。
「愛してる理由を知ってたら、あの夜に言ってるよ」
…ヤベぇ、勃った。
「ぁっ…鬼利…」
「なに?幽利」
腰辺りまで作業着のチャックをゆッくり下ろして、するりと肌を撫で上げながら上に移動した手に襟を掴まれる。でもいつもみてェに引っ張り上げられるンじゃなく、猫の首輪でも引くよォにくい、と緩く引いて俺を鬼利の膝に縋るよォな格好にさせると、怖いくらいに優しい目をした鬼利の唇が晒された俺の首筋に埋められた。
「あッ…、ふぁ…き、きり…ッ」
髪の生え際に落とされた唇が啄ばむみてェなキスを繰り返しながら筋を辿る。咄嗟に作業着を握り締めたがちゅく、ちゅく、ってェ濡れた音を立てながら口づけられたトコを舐められると、むず痒いよォな緩い快感に膝が震えた。
「ひ…ぁ、まって、きり…鬼利…っ」
「どうしたの?」
「あぁッ…!」
鬼利の言葉で反応しだしてた俺のモノはすッかり完勃ちで作業着を汚しちまうンじゃねェかって勢いだったが、服の合間から滑り込んだ鬼利の冷たい手がかり、と乳首を引っ掻いて体を跳ねさせた瞬間、そォいや仕事終わってシャワーすら浴びてねェってことに気付いて慌てて鬼利を止める。
だが、まァそこはちょッと様子がおかしくッても鬼利だ。口じゃァどうしたのって言いながらも手も唇も止めちゃァくれずに、引っ掻かれたダケだってのに浅ましく立ちだした乳首を指先できゅうと摘みあげて、思わずその膝に縋った俺をくすくす笑う。
「どうして待つの?幽利」
「し、シャワー…まだ、浴びて、な…ッんぅ…汗、かいてッか…ら…ッ」
「僕のは関係無しに咥え込むのに?…あぁ、それとも舐めて欲しいの?さっきから物欲しそうにしてるコレ、を」
「ふぁあッ…!、ぁ…違ッ…きた、ね…からァ…っ」
消毒液に突っ込んだ後だって鬼利に舐めてもらうなんざ俺ン中じゃとんでもねェことなのに、ましてや汗かいてそのまンまなんて論外だ。だから少しだけ、3分でイイから待ってッて訴える俺を愉しげに見ながら、鬼利は作業着越しに革靴の先で撫で上げてた俺のモノから足を離すとソファから立ち上がる。
縋るモンが無くなった途端、力が抜けてその場に座り込んだ俺の髪をくしゃりと撫でて、視線を合わすよォにしゃがみ込むと悪戯っぽく笑った。
「シャワーを浴びれば満足なんだね?」
「ん、…すぐ、済ませっから…」
「わかった」
立ちあがろうと俺が膝に力を込めンのを計ったよォに、すっと音も無く距離を縮めた鬼利の唇が少しだけ耳を掠めたと思ったら、吐息もダイレクトに伝わる至近距離で、
「僕が全部、キレイにしてあげる」
そう、囁いた。
―――もッぺんその場にへたりこんだ俺が、そッから自力じゃァ動けなくなっちまったのは言うまでもねェ。
某変態と色ンなプレイを経験してる(させられてる?)旦那は勿論お風呂場プレイなんざ当の昔に経験済みで、血が出たり痣作ったりっつゥプレイ以外にゃァとことん無知な俺に、どォいうモンなのかってェのを一度教えてくれたことがある。
床が冷たいからある程度シャワーで暖めとかねェと軽く萎えるとか、湯船ン中じゃァ3回が限界でそれ以上はドア開けねェと逆上せてぶっ倒れるとか、水も滴る云々って話はマジだとか(惚気だ。可愛い)。
色々と教えて貰ったが中でも旦那が一番力入れて説明してくれたのが、
ボディーソープを使っての前戯はヤバい。
―――ってェことだ。
摩擦が少なくなンのがかなりイイらしく、アレならどんな不器用でもそれなりに感じられるってェ話だった。物足りねぇんじゃねェかとも思ったが、その温い刺激の中で時々爪立てられたりすンのがもう堪ンねぇらしい。
そンなにイイなら鬼利の機嫌がイイ時におねだりしてみよォかと思ってたんだが、それがまさか、こんなに早く実現するなんざ思ってもみなかった。
「はぁあッ…ぁ、あっンん…ッ」
「…声、我慢してるの?」
足を開いて風呂場のタイルに座らされてる俺の背後から腕を回して、湯気と俺の体温でちッたぁ温まったがそれでもまだ冷たい手でするする泡まみれの俺の体を撫でながら、鬼利が後ろから耳元で囁く。
「やっぱりお風呂場は声が響くね。そんな風に頑張っても、全部聞こえるよ」
―――幽利の恥ずかしい声が。
俺にゃァ他のどんな音よりも堪ンねェ鬼利の声でンなこと言われたら、堪え性のねェ俺の頭が正気でいられるはずもねェ。その上柔らかいスポンジ使って特に念入りに洗われて赤く膨れた乳首を滑る指でこりこり嬲られて、さっきスポンジ使って抜かれたばッかりのモノから零れた先走りが泡を押し流しす。
「ほら、また汚してる。これじゃあいつまでも舐めてあげられないよ?」
「ぁ、あッ…ごめんなさ、…ひぁあっ!?」
呆れたよォに溜息を吐く鬼利を肩越しに振り返ろォとしたが、腹の辺りに溜まったボディーソープをたっぷり纏った鬼利の手にぐちゅりと先っぽを包み込まれて、鬼利の顔色を覗うよォな余裕は吹っ飛んだ。
ボディーソープにまみれた掌がカリから上の敏感な粘膜を包みこんで、そのまンま擦りつけるみてェに手を動かされるとそれだけでまたイっちまいそォになるくらいの快感に、どっと溢れた先走りがボディーソープを泡立たせる。
立たせたてめェの膝を抱えながら蕩けるよォな快感に震える俺を空いた手で抱きしめて、鬼利は零れた泡でモノが真っ白になるまでそれを続けると、不意に手を離して裏筋を伝ったボディーソープを指先で掬い上げた。
「じっとしてるんだよ、幽利。傷つくといけないからね」
「は、ぁあ…っき、り…ひゃあぁあッっ」
鼓膜が蕩けそうになるくらい優しい声で囁いた鬼利の指先が真っ赤になった先っぽをつぃ、と撫でて、さッきから先走りを垂れ流してる尿道口をくりくりと指先で抉る。
「ぃあぁぁッ…そこ、や…ゃめ…ッんン゛んん!」
「じっとしてろ、って言ったんだけどね。そんなにココがいいなら、今度電極でも入れてあげようか?」
「あぁあっぁ、あぁンんッ…ふぁっ…ひ、ひゃめ…い、ッちま…っ!」
溢れてくる先走りを指に掻き分けながら狭い入口にめり込んだ爪が中の粘膜の浅いトコを引っ掻いて、イってる時みてェな愉悦に俺は首を横に振りながら鬼利に哀願した。
「もういいの?まだ綺麗になってないよ」
「い、ぃっ…も、いい…からぁ…ッ」
「そう。…じゃあ、次はここだね」
「ふゃぁあ!?」
やっと尿道口から指が離れてホッとする暇も無く俺の先走りに濡れた指が会陰の下、さッきから期待して浅ましくひくつく奥にいきなりぬるりと入り込む。
風呂場いっぱいに響いた間抜けな悲鳴を恥ずかしいと思うよォな理性は、先走りを塗り込めるよォにして数度出し入れされた指に、いつもなら焦らされて焦らされてやっと触れて貰える前立腺をモロに押し上げられた所為で完全に吹き飛んだ。
「ひぁッ…あぁっぁ、あッ!はぁあ、ぁ゛っ…あーっ!」
「声、我慢しなくていいの?幽利」
背中にぴったり寄り添ってくれてる鬼利がくすくす笑いながら2本に増やした指で俺ン中を突き上げる。我慢しなくちゃ、って思ってンだが甘やかされた体はそんな自制なんざ聞かずにイきそォになるから、慌てててめェで根元を締めつけた。
「は、ッくぅう…んン゛んッ…!」
ぎちりと食い込む指と爪に鈍い痛みが走って、慣れた感覚に少しだけ頭が理性を取り戻す。そのままいつものクセで裏筋に爪を立てよォとした俺の手を、脇腹を這ってた鬼利の手がぺちりと軽く叩いた。
「こら。…そんな風に握ったら痛いでしょ?」
「あぁ、あッ…だ、ってこ…しねェ、と…っ」
「力抜いて。…こうするんだよ」
蕩けるよォに優しい声で言いながら鬼利は俺の指をゆっくりモノから剥がすと、3本の指で作らせた輪にモノを通す。上から鬼利の手を添えられてその輪っかをゆっくり上下させられて、前に使われたオナホールとかって言う玩具みてェな快感にびくりと体が跳ねた。
我慢できねェからイかねェようにって締めつけるつもりだったのに、こんな、更に射精を促すよォな真似をさせられちゃァ我慢なんざ出来るわけもねェ。
「ふッ、は、ぁッアッ…!ヒ、くぅううッ…ご、めんなさ…ッごめ、な…っあぁ゛ああ!」
「……」
まだ許可も貰ってねェし、このままじゃ鬼利の手まで汚しちまう。
頭じゃァそう解ってたンだが、浅ましい俺の体は呆気なく目の前の餌に食いついた。視界が白く染まッて“眼”がブラックアウトすンのと同時に来たぶットんじまいそォな快感に、びくびく鬼利の手の中で体震わせながらぶちまけた精液が風呂場の床を白く汚すのを滲む視界で見る。
「は…はぁ、…っ…ふ、ぅ…ッ」
「…気持ちよかった?」
「いぁあ、ぁッ…ぁ、…はぁあぁあっ…!」
掛かった俺の精液をぐちゅりと音立てて絡めながら囁いた鬼利の指が、射精の余韻に浸るみてェに浅ましくヒクつく奥にゆっくりと埋められて。ゆっくり背中を押されてされるがままに床に四つん這いになッた俺に上から覆い被さるよォにしながら、鬼利は焦点の合ってねェ俺の頬をちろりと舐めた。
「気持ちよかったの?」
「はあぁあッ…よ、かった…ッ、…もち、よ…った…です…!、ごめ…んなさ…ぁあッ…ごめんなさ…!」
「謝らなくてもいいよ。大丈夫。怒ってないから」
イった直後で酷く敏感になっちまってる中の柔肉をゆったり掻き回しながら、鬼利は調子に乗って色ンな粗相をしてる気がして「ごめんなさい」を繰り返す俺を宥めるよォに優しい声で言う。
はしたねェ喘ぎ声を止めよォと唇を噛もうとした口は舌を指に絡め取られて止められ、タイルを引っ掻こうとした爪は労わるよォにやさしくなぞられてきゅ、と握られた。自我を保つ為の自虐行為は全部鬼利の優しい手にやんわり止められて、残るのはただ、雑音の1つも無い蕩けそうな快感。
「お前はもう少し自分を愛さないといけないよ、幽利」
一昨日の夜、上等のシーツを引き千切るくらいならとてめェで引っ掻いた俺の腕の傷を撫でながら、囁く鬼利の指が中から抜ける。
「ぁ、あっ…は、…ん、ぅッ…ぁ、あぁあああッっ」
「…気持ちよくなる為ならイイけど、お前は他の何かの代わりに自分を傷つけるクセがあるからね」
喪失感に鳴いた俺を慰めるよォに熱いモノをゆっくり埋めてくれながら、鬼利の指が腕を立てていられずに床に沈んだ俺の頭を優しく撫でる。
…自分で自分を愛するなんて。そんなの無理だ。
だって俺はこんなに汚くて穢くて、どこもかしこも綺麗な鬼利に、本当だったら指一本触れられねェ鬼利にこんなに深く息が出来ねェくらいに愛して貰ってるのに、その上もっとなんて。
「幽利、お前は僕のものだね?」
「あ、ぁッあぁあ!っん、ぅ…れ、はぁッ…きり、の…っ!」
「僕には幽利が他の何より大切なんだ。僕の下らない命なんかよりも、ずっと」
下らないなんて、そんな寂しいコトを言わないで。
だって鬼利は俺のものだ。
穢い俺なんかの命よりずっと大切な、俺の、
「ひ、ぃあぁ、あッぁッ…!ぁ、あーッっぁ゛、ア!」
「…ッ、…だから、僕の大切なものを、いくらでも代えの効く他の何かと引き換えに傷つけるなんてこと、しちゃダメだよ。…幽利」
「ぁうッ、ン、んんッ…っふ、ぁ…鬼利、きり…ッ!」
「…お前を殺すのは、僕なんだから」
頬を寄せながら甘えるような声で唇に流し込まれた声に、堪え切れずに涙が溢れた。
ここにいるのは鬼利と俺だけで、世界で唯一必要な人が心の底から愛してると大切だといつかその手で殺してくれると、そんな、この身に余りある情けを注いでくれている。
「幽利…っ、ん…」
「ふ、ぁあ…ん、ぅむ…んんンッー!」
脳を犯す鬼利の声を、俺は咄嗟に唇で塞いだ。
やめて。それ以上言わないで。
これ以上幸せにされてしまったら。
「幽利…っゆうり、愛してる」
「はぁ、あぁッ!ぁ、あッ…きり、鬼利っ…鬼利…!」
―――泣いてしまうほど幸せな今この瞬間に、その手に息を止められたいと願ってしまう。
「姉様ぁーただいまぁー」
「おかえりなさい、F」
「ちゃんとー2人にチョコー渡してきたよぉー」
「ありがとう。間違えずに渡せたかしら?」
「だいじょーぶだよぉー。鬼利さんがぁ、ピンクのリボンでぇー、幽利さんのがぁ赤いリボンでしょー?」
「あら、逆よ」
「えぇー?」
「鬼利が赤で幽利がピンク、って貴女が決めたんでしょう?包装紙を買うのも包むのも貴女がしたんじゃなくって?」
「そーだっけぇ?間違えちゃったー」
「仕方のない子ね、あのチョコは―――」
「ねぇねぇ姉様ぁー、あのチョコねぇー?お薬いれたのってぇー、幽利さんに渡すはずの方だったよねぇー?」
「…ええ、そうよ。見ていたの?」
「うん、見てたのぉー」
「F、貴女…わざとやったわね?」
「あははー」
「仕方のない子ね…すっかり悪い子になって。行く末が心配だわ」
「あたしも姉様みたいなー、イイ女になれるぅー?」
「…ええ、私が保証するわ」
Fin.
バレンタインデーにばっちり乗り遅れましたがチョコネタ。
チョコに入ってたのは若干の酩酊作用のある媚薬で、カルヴァは幽利に食べさせるつもりでしたが、Fの悪戯によって鬼利が服用してしまいました。