現在進行系



 鼓膜から脳を侵食する卑猥な水音。


 ぐちゅ、くちゅ、とわざと厭らしい音を立てるようにしてしゃぶり付いて。意地悪な飼い主が気まぐれに「お預け」だなんて言い出さないように、必死に咥え込む。

 喉の奥、っていうかそこは既に喉じゃねぇって場所まで自分から突っ込んで、えづきながら一生懸命奉仕してゆらゆら揺れる頭を、ぽんぽんって優しい手つきで叩かれて耳元で囁かれたりした日には、もう上も下も浄も不浄も関係無い。


 そんな状態だ、理性なんて簡単に吹っ飛ぶ。










 コイツの声は媚薬だと思う。しかも中毒性とかあるそーとー質の悪ィやつ。


「んんふっ…ぐ、…は、ふぅう…!」
「…腰、揺れてる」

 笑みを含んだ甘くて少し低い声。
 相手がコイツじゃなかったら腰なんて知るかって吐き捨ててるけど、相手がコイツだからそんな真似は死んでも出来ない。

 そんな事をしたら即座に与えられる「仕置き」という名の拷問で快感地獄に突き落とされるのが怖いし、コイツ限定で素直な俺の体にはそもそもそんな余裕なんて無いから。

「もっと入ンだろ?奥まで」
「んぐぅッ…!」


 冗談じゃない、これ以上なんて入るか。
なんて思ってみても実際にそれを言う事なんて出来ないわけで。
 出来る限り自分で頭を上下に動かして擬似的なピストンを繰り返し、モノですら無い、無機質なプラグで喉奥を突かれる苦しさと痛みにぼろぼろ涙を零しながら見上げてみると、恐ろしいほど綺麗な顔の男の残酷な笑みと目が合った。

 嗜虐的で冷たい眼。ぞくり、と背筋が寒くなるのと同時に背筋にゾクゾクした快感が走って、しゃぶらされる前に中に突っ込まれたローターを無意識に締め付けてしまう俺に、俺の飼い主―――傑は、弦弾きみたいに細くて長い指でそのローターのリモコンを弄びながら、軽く首を傾げて見せた。


「しっかし下手だよな。俺が毎回毎回こーやって教えてやってんのに」
「ふ、はぁ…ッ?」

 これ見よがしに、呆れたように呟きながら振動数の目盛りを引き上げる指先。一気に「強」まで引き上げるんじゃなくて、じわじわと時間を掛けて強くなっていく快感に、背中で腕を組まされて床に正座した体がびくびく跳ねる。


「ふぅうッ、ん、はぁっ…ぁ、あ、あァ゛ッ!」
「…ほら、すぐ口離すし」

 前立腺にがっつり当たるように押し込まれたローターが中で暴れまわり、硬くしこったそこをぐりぐり嬲られる快感に体が震えた。いつもならとっくの昔にイってるような快感だけど、根本にリングを嵌められた俺はどれだけ感じても絶対にイケ無い。


 床を汚されたら面倒だ、という理由で2日前に着けられてそのままのリングは、用を足せないほどじゃないけど射精は出来ない絶妙な加減で締められていて、これの所為で俺は2日前から強制的に禁欲生活をさせられてる。

 さすがに辛くなって仕事終わりに外してくれと傑にねだったら、上手にしゃぶれたらイイよ、って言われたから頑張ってたんだけど、よく考えれば傑がその程度で許してくれるはず無かった。


 「フェラの練習用」らしい大きく張ったプラグのカリで喉をゴリゴリ擦られて、その苦しさと吐き気に涙が溢れる。


「苦しい?悦」
「ふぅうッ…ふ、んふぅ…ッ!」

 くすくす笑いながら尋ねてくる傑に、プラグをしゃぶりながらガクガク頭振って頷く。
 呼吸をまともにさせて貰えない苦しさと、締め付けられてイケない苦しさで、もう俺の頭は発狂寸前。鈴口からどぷどぷ吐き出されてる蜜にも白濁が混じり始めてて、太腿から垂れたそれがフローリングの上で水溜りを作ってた。
 気持ちよすぎて辛くて、イケない苦しさに泣きが入り始めた俺を楽しそうに見下ろしながら、傑が片手で弄んでいたバイブのリモコンのボタンを押した。


 瞬間、足の先から頭のてっぺんまで貫くような、電撃。


「ん、んぅううぅーッ!ふっ、ん、んンぅうっっ…が、ぁ、はぁアぁッ!」


 それまでの動きが嘘みたいに中でぐねぐね動き始めたバイブに前立腺を思いっきり責められて、イったみたいに蜜を吐き出しながら俺は床の上でのたうち回った。

 でも実際にはイケなくて、吐き出せない熱に身悶えながらプラグも吐き出して電流でも流されてるような快感にひたすら耐えさせられる。


「ひぁアあッ…ぁっ、あーッッ…ぃあァぁ…っっ!」
「悦ー?ほら、ちゃんと舐めねぇとイカせてやんねーよ?」
「ぁっ、はっ、あァ゛ぅうッっ…ひぃッ…ひぁあッ…!」

 濡れたプラグを頬に押し当てられて必死に咥えようとするけど、まともに息も出来ない俺に「しゃぶれ」なんてのは最初から無理な話。

 酸欠と激しすぎる責めで、もう目の前なんか真っ暗。


「あぁひっぃ…ッゆ、ゆる許し…っっあぁアッ、ゆる…て、ぇ…!ひっ、ィい…もっ…も、イキた…ッぁ…!」
「ったく……んじゃ、舐めるだけでいーから」



 ほら、とプラグを唇に押し当てられて、俺は必死に震える舌を差し出してそれを舐めた。付け根まで痺れて上手く動かない舌先を無理矢理動かして輪郭をなぞって、自分の唾液で濡れたプラグの先端にチュゥって吸い付く。

 その、泣きながら焦点のぶっ飛んだ眼でプラグを舐める俺の姿が気に入ったらしく、傑はプラグを置くと俺の頭をくしゃくしゃって撫でて、限界まで焦らされたモノに食い込むリングに手をかけた。

外してくれる、っていうのは解るんだけど、意識が半分飛んだ俺はそれを外すために少し触れられるだけでもうダメで。
 しかもそれが傑の手だって意識してるもんだから、尚更蜜が吹き出す。

「ヒぃッ、あぁんンっ…!すぐ…ッす、ぐる…っっも、ぁあッゥう!」
「今外してやっから。…っと、ほら」


 パチン、て音がして、外されたリングが床に転がるのと同時に散々溜めさせられた精液がどろりと溢れてくる。

 その気持ちよさって言ったらもう、ホントに死にそうなくらい。
「あッあぁぁっっ!ひィイ…ッすご、…あーッ、あーッ!!」


 ブツンっ、て何かが切れた音がして、俺の意識はそこでふっ飛んだ。










「…んん…?」
「あ、起きた」

 息苦しさに眼を開けた俺の首筋に顔を埋めて、傑があの甘い声で呟く。
 しかも耳元。思わずぞくり、って背筋が震えて、これ以上はさすがにマズいと直感で感じ取った俺はダルい体を捻って傑のキスから抜け出した。


「…傑…」
「んァ?」
「…今日、何か入ってンの?お前」
「二十六に空で消去が二つ。…っつーかお前、声ヤバくね?」
「誰の所為だ馬鹿」


 まっぱの下半身を覆い隠すシーツを胸元まで引き上げて包まりながら、俺はからかうような傑の言葉に眉を顰めた。
 でも、頭の中では聞き出した『仕事』の予定を自分のものと照らし合わせて、広いベッドの横にある時計を見ながらもう"次"の事を考えていたりして。
 時間を即答した傑も同じだったと思うから、ホントに俺達はどうしようもないと思う。



「あーいうのが好きなクセに」
「それは傑だろ」
「俺が好きなことは悦も好きじゃん」
「っ…お前、煩い」 


 …まぁ、今に始まったことじゃないんだけど。







こーゆーのが好きな人は、私です。

100216加筆修正済。

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