下剋上



―――ピンポンパンポーン♪

『お呼び出しを申し上げまぁす。登録№01111の悦様、№01111の悦様。医局【過激派】で相棒様が爆睡しており、大変迷惑しております。至急、お引取り下さい』

 …ピンポンパンポーン♪


 あの馬鹿…。










 アルコールの匂いが染み付いて真っ白なはずの医局のベッドは、4つ並んでいるうちの1つだけ所々が赤く染まって血臭がしていた。
 歩き回ってるナース達が傍を通るたびに振り返って、最低でも5秒は見つめていくそのベッドの中にいるのは、腹と右腕に包帯巻かれて上半身裸のまま寝てる俺の恋人。

 必要最低限の筋肉しかつけていない体は均整が取れてて、そりゃもう顔なんて詐欺だろってくらいイイわけだから、ナースが見惚れるのも正直仕方が無い。


 なーんて思うのは俺の惚気なんだろうな、きっと。


「あら。早かったわね、悦。せっかくだから血でも貰おうと思ってたのに」
「そういう真似するだろうと思ったから早く来たんだよ」
「勘のいいことね。出来れば早くベッドを開けてくれないかしら?今、骨折患者を捕獲して連れて来るのよ」
「いや…っていうか、別にわざわざ俺呼ばなくても…」

 片手のメスを輝かせて黒い笑みを浮かべるカルウ゛ァに、俺は半分呆れながらベッドに歩み寄った。勘のいい傑なら、床の振動と気配を感じ取って起きるはず。


「……すぅ」


 …起きない。


「あぁ、ダメよ。この子寝不足だって言って勝手に寝るものだから、起きられないように縫合してから麻酔をかけてあるの」
「あぁ、それで。…どのくらい?」
「そうねぇ…普通なら半日は起きない筈だけど…」

 じゃぁ、持ってあと2~1時間てトコかな。基本的に傑には薬って効かねぇし。


「解った。じゃ、持ってくわ。ありがとな」
「いいのよ。サンプルとして筋組織を少し貰ったから」
「……」










 俺と傑の部屋は居住区の同じフロアにあるけど、何せそのフロアが馬鹿みたいに広いもんだから、同じって言っても俺の部屋から傑の部屋までは徒歩10分はかかる。

 こんなデカイ荷物を抱えたまま10分も無駄に歩くつもりなんてさらさら無い俺は、直通のエレベーターから近い俺の部屋に熟睡してる傑を運び込んでベッドに転がした。


「おーい、傑ー」
「……」
「…襲うぞー」
「……」


 …よし、起きない。


 傑が無抵抗なのをいいことに俺は無駄に広いベッドに乗り上げて傑の上、腰の位置に跨り、ついでにサイドスタンドの上でこの前使われた手錠を見つけて、鎖の部分をベッドヘッドの装飾に引っ掛けて固定してやった。

 据え膳ってこんな感じなのか、って思って見下ろしてたらなんだかいつもと違う状況にムラムラ来ちゃったりして。マジでどーしよーもねぇ自分の体に呆れながらキスして唇をぺろって舐めたら、無意識に反応した傑から小さく声が出て、唇が薄く開く。


 あ…ぁ、ぞくぞくする。

「……ん…」
「は、ぁ…んン…ッ」

 舌を差し込んでゆっくり歯列をこじ開けて、無反応な傑の舌先を絡めとってくちゅって音立てながら吸う。いつもなら俺が飲まされる2人分の唾液も、今日は傑が下だから自然とそっちに流れていって、眠ったままの傑がこくんて喉鳴らして飲み込むそれに一気に体の熱が上がった。

「あ、はぁっ…傑…」
「……」
「すぐ…んむッ!?」


 甘ったるい声で囁きながら唇を甘噛みしてたらいきなり舌を絡め取られて、何が何だか解らない内に中を侵略された。
 口ン中をいいように這って舐め回していく慣れた舌技に、頭はパニクってても体はキチンと反応して、やっと解放された時には目の前がうるうるしてる。

「っは…すぐ、る…」
「人が寝てるからってなーにしちゃってンの、お前」

 寝起きのくせにしっかりした発音でそう言って、傑はベッドに繋いだ手錠をガシャンて鳴らした。こんなことでお仕置きなんて言われたら堪ったもんじゃないから、俺は慌てて手錠の鍵を探し出す。


「ごめ、今外す…」
「ん…や、いいわ」
「は?」

 ゆるく首を振った傑に、俺は思わず鍵を引き抜いた。


「いーよ、解かなくて。今日はこのまんまでイイ」
「…頭打った?」


 耳を疑うような傑の言葉に、俺は自分の鼓膜よりも傑の頭の中身を疑った。
 鬼畜の見本みたいな性癖のコイツは俺には首輪まで掛けるけど、自分は拘束とか束縛とかいうのが大ッ嫌いだったはずだから。

「違ぇっての。いっつも俺が好き勝手してっから、偶には悦にもその良さを味わってもらおーと思って」
「マジ?」
「うん」
「じゃ、あ…キス」

 試しに、と思って顔を近づけて言ってみたら、傑はニヤって感じで笑って自分の唇を舌で舐めた。  
 艶やかなその唇が紡ぐのは、いつもと正反対の言葉。

「キス…させて…?」

 甘く掠れた声でねだられて思わずふらふらって唇を近づけると、うっとりした表情で舌を絡められた。
 …普段は眼なんか絶対閉じないくせに。

 息苦しくて唇を離せば、いつもは押さえつけてまで続きをするのに大人しく舌先を引いて、じっと俺の瞳を見据えながら唇が小さく動く。


「…もっと…」


 こんな犯罪的にエロい顔と声でねだられて、拒否できる奴がいるなら見てみたい。










「ぁ、あッ…ぁあぅうっ、あぅう…!んぅ、あ…もっ、もぉ…ゃ、ぃやぁあ…!」
「もう、ダメ?」
「ぅうっ、ん、んんッ…ダメっ…も、だめ、ぇ…ッ」
「あと1回でイイから、ダメ?」
「は、ぁ…ふ、ぁあぅ…!」
「なぁ、悦?…お願い」
「…っ…ぁ、あと…1回、だけ…なら…」
「1回なら、イイ?」
「ぅ、ん…」
「…ありがと。…じゃぁ1回だけ、な?」
「んん、…ふ、ぁ…っ…あッ!あ、あーッ!ぁああぁッ…!」
(まぁ、1回で終わらせる気なんて無いけどな)



 Fin.



上だろうが下だろうが、主導権は傑持ち。
もうちょっと甘えさせようと思ったんですが、私にへタレな攻めは書けないです…!

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