世界なんて関係無い。
この「眼」の視野すら届かない、大多数になんか最初から興味なんて無い。
俺には始めっからお前しかいらない。
「明日の0.3時に、空での仕事なんだけど…今回は面倒な注文はついて無いから。………いや、内臓を引きずり出せば満足らしいよ」
カタカタと片手で量子パソコンのキーボードを叩きながら、もう片方の手には内部限定の通信機。その声は相変わらず綺麗で、とても殺人の予約を取り付けてるとは思えねェさわやかさ。
机の下に潜ってる俺が尺してるモノを舐めても吸ってもその声は一瞬だって揺らぎゃしねェんだからホント、凄ぇ。
「それじゃ、よろしくね」
「……」
「…それ、まだ着けてたの?」
幹部らしく立派な椅子に座ってる鬼利の足元に跪いて、その綺麗な手が通信機を置くのを見つめる俺の方を今日始めてまともに見て、鬼利はくすくす笑った。
その白くて綺麗な指が伸びてきて、俺の目隠しを外す。焦らすみてェに、ゆぅっくり。
「僕の前では外せ、って言ったでしょ?」
「……」
「…返事は?」
「ッぁ、あっあぁああッ!」
目隠しを外される瞬間少しだけ鬼利の手が髪に触れて、そのことに陶酔しきって返事が遅れた俺のモノを、鬼利が容赦なく踏みにじる。
あの、滅多に触れさせてもらえない綺麗な足で。
双子の俺達は外見こそウリ2つってヤツだが、俺と鬼利では環境が違う。
名家の長男として産まれた鬼利は生まれた瞬間から尊ばれて崇められてたが、宗教の所為でその家では双子ってェ存在が許されて無かったから、その事実を隠す為に弟の俺は生まれた瞬間から人間じゃねェモンとして育てられた。
言っちまえば家畜みてェなモンかな。生まれたときから対等じゃねェわけ。
革靴で薄い作業着ごしにそこを踏みにじられて、潰れるんじゃねェかってくらい痛ェのにモノはガン勃ち。
「こんなに硬くして。痛いのが気持ちイイなんてホント、気持ち悪いねお前は」
「はッぁ…ひ、ぃい…ッ」
「ほらほら、お口が留守だよ?幽利」
滅多に呼んでもらえねェ名前を、耳元で囁かれて。
踵でカリをゴリゴリされながら舌伸ばして舐めようとした俺に鬼利は笑って、腰を引きながら代わりに俺の舌の上にコーヒーをぶっ掛ける。
湯気の立つようなヤツを、サーバーごと。
「ひッぐ…い゛ぁ、あ゛あ! 」
「…ほら、零しちゃダメだよ」
飛沫が顔に触れるだけで飛び上がるような熱湯を、鬼利は楽しそうに俺の喉に直接注いでく。
熱すぎる湯に粘膜みてェな皮膚がただれてくのが解るが、俺には拒否権なんざねェから与えられる「餌」をただ甘受するだけ。
俺は生まれたその瞬間から鬼利の奴隷。
馬鹿な親族に囲まれて堅苦しく育っちまった所為で、頭のいい鬼利の性格は目に見えて歪んだ。そのサドっぷりを発揮したのは10歳にもなってねェガキの頃で、その相手は勿論、俺。
犬みてェに床に這いつくばって飯食わされてた俺の左手の甲に、肉を切り分けるナイフを思いっきり突き刺したのが、始まり。
その傷は今も残ってて、
…それは俺がどうしようも無く下劣な自分の体の中で唯一、好きな部分。
「ん…いつもよりはマシ、だね。ただれちゃった皮膚が擦れて」
「ぐぅうっ、ぅ、…ふぐっ、んンンッ、ンン!」
「あぁ…痛い?でも気持ちイイでしょ?大好きな僕に苛めてもらってるんだから」
舌と喉が酷ぇ火傷になっちまった口にモノ突っ込まれて、焼けただれた傷を抉るみてェにかき回されっと、目の前が血の色に染まる。
痛ェなんてもんじゃねぇ、酷く熱い快感に全身が引きつる。
痛くて、苦しくて、嬉しい。
「幽利、この前お前のことを武器庫で犯そうとしてた男、殺しておいたよ」
「ぁ…あ、ぁ゛、あッ…ひぐぅうゥ…ッ」
「一週間前に医局でお前を犯そうとした男も」
「あ゛、ぁッ…」
「幽利を玩具に出来るのは僕だけ。…ねぇ、幽利?」
失神から何度も叩き起こされて、びくびく痙攣してる俺を抱きしめる。こういうときの鬼利の表情は何時だって、すげェ幸せそうで。
ンな面されたら、頷かないわけにはいかない。
「き…り…」
吐息同然にかすれちまった声でなんとか名前を呼んで。
12の時、父親に殺されそうになった俺の為に一族を皆殺しにした、優しく狂った双子の兄は、俺を抱きしめて綺麗に笑った。
「鬼利…」
いくらでも殺せよ。気に食わないモンなんて全部ぶっ壊しちまえばいい。
俺にとってこの世界は鬼利が全てで。
そしてそれは、血と肉を分け合った鬼利も同じ。
元を辿れば1つの、その事実を互いの骨の髄まで刻み込む為に、鬼利の唇が俺と同時に動く。
「「…愛してる」」
Fin.