Are you happy?



 丁寧に飾られたプレゼントとか、特別なご馳走とか。
 口には出さねェけどさ、ガキの頃は憧れてたよ。

 名前しか知らない綺麗で眩いモノ。
 俺に許されてるのは見てることだけ。
 ガキの頃からずゥっとそうさ。キラキラしたモノを目の前で見せつけられて、それが自分には与えられないって事を嫌って程囁かれた。

 だから憧れてたねェ、…ガキの頃は。
 今はそんな無駄なことしねェよ、てめェの身の程くらい知ってるさ。
 甘えを許される立場に憧れるとか、無償の優しさを羨ましく思うとか。
 そんなのは、


 …昔の話しさね。










「…よ、っと」

 散々カスタムしてやたらと重くなったサブマシンガンが、脚立の上に乗ってる俺の肩にぎしりと食い込む。
 仕事柄、こんなのは慣れっこだから別にどォってことねェんだけど、やっぱ月末になってくるとこの手の力仕事は結構辛い。

「ふぅ…」

 苦労してやァっと最後の1つを棚の上に押し上げて、一息吐いた途端。ぐらァ、って体が傾ぐ慣れた感じと共に視界がどんどん横にぶれて、脚立が大きく傾いてくのを見てようやく俺は落ちてるんだってェ事に気づいた。
   落ちながら見上げた棚の上からはさっき押し上げたマシンガンが俺と同じように落っこちかけててさすがにゾっとする。この高さから落ちた上、あんなモンに体当たりかまされたら…ただじゃァ済まねェだろォな。

 肋骨はまァいいとして頭はさすがにヤべェかも、なんてやけに暢気に頭の片隅で思いながら、俺は取り敢えず体が床に叩きつけられる衝撃に備えて軽く歯を食いしばって、


「気ィ抜きすぎだバァカ」

 …あ?
 想像してたよりも全然小さい衝撃と痛みに驚きながら顔を上げてみりゃァ、そこには何故かさっきまでは影も形も無かった筈の男。

「…傑」
「ん。」

 ガシャン、て派手な音を上げながら俺の上に落ちる筈だったサブマシンガンを左手で受け止めて、抱き留めてくれてた傑は俺の背中をトンと押して立たせた。
 カスタム済みのその重さは40キロを軽く超える。しかもそれが3メートル上から落っこちてくンだから、その衝撃と腕に掛かる負荷なんざそりゃもう酷ェと思う、けど。

「どこ乗せンの」
「へ?…あ、あァ…あそこの、」

 …その酷いはずの負荷を片手で受けた傑は、1度握り直したサブマシンガンを軽々片手で持ち上げて、ダンボールの横にそれを放り上げた。

「……」
「何呆けてンだよ。落ちる前にどっか打った?」
「いや…相変わらず人間業じゃねェなァと思ってね」
「だって人間じゃねーし」
「まァそうなんだけどよ、何か…あァ、いいや。取り敢えず、ありがとさん」
「いーえ」


 2つの意味で頭下げた俺の背中を軽く叩いて、傑はワゴンに乗っかったライフルの束を持ち上げた。
 この男はいっつもこうだ。気まぐれにふらァっとやって来ては、暇潰しのついでに力仕事やら俺が苦手な仕事を何にも言わずに片付けてくれて、礼を言う暇も無く何時の間にかいなくなッちまう。

「この辺いつものトコ?」
「あァ。…悪ィね、いつもいつも」
「いいーえ。で、これの他は?」

 他?

「仕事だよ、お前の」
「今日は…カルヴァの姐サンに補充品届けンのと、発注が12件と、…後は地下で在庫の下調べってトコか」
「じゃあさっさとワゴン持って行って来いよ。そのまま帰っていいから」

 ワゴンを持って行くのはカルヴァの姐サンの所だけ。傑がここを片付けてくれるッてんなら、あとは発注と下調べだけになるけど…そのまま帰っていいってのは?

「ンだよ、後は全部任しちまっていいのかィ?」

 偶にやって貰う武器のカスタムやら整頓ならともかく、発注やら在庫の下調べってェのは結構手間がかかる。何の気まぐれか知らねェけどいくらなんでもそこまではやってくれねェだろうし、そうなると本格的に俺の仕事が無くなっちまうから、冗談交じりで聞きながら俺はガーゼの束をワゴンの中に放り込んだ。


「まさかそこまで暇じゃねェだろ?それでなくったって今日は在庫が多くて―――」
「いーよ、やる」
「…あのなァ、―――」
「発注リスト作ってあンだろ?在庫の下調べも前手伝ったから知ってる」
「そりゃァ…嬉しいけど、でも―――」
「嬉しいんならいーじゃん、さっさと行けって。帰ってきたら締め出すからな」

 いや、ここ俺の仕事場なんスけど…
 ライフルが詰まった細長いダンボールを片手で持って中身を並べながら淡々と言う傑は、さっきから1度もこっちを見やがらない。どォしたもんかと思ってその後姿を”視て”たら、傑は呆れたような顔でよーやくこっちを振り返って、


「さっさと行けって。お前に見られてると落ち着かねェから」

 間違いなくここは俺の仕事場なんだがまるで場違いみてェな調子で言われて、俺はその空気に押し流されるように武器庫を締め出された。










「おはよ」
「ン…あァ、旦那。射撃っスか?」

 ワゴン引っ張って歩きながら背後から掛けられた声に振り返ると、指先に財布でも引っ掛けるような気軽さで銃を引っ掛け、紙袋をぶら下げた悦の旦那がワゴンを押すのを手伝ってくれてた。

 それに軽く会釈しながらちょィと視線(つっても旦那から見りゃァ目隠しだが)を銃に下げると、旦那は曖昧に相槌を打って銃を持ち上げる。

「傑のなんだけどさぁ、なんかもー凄ェのコイツ。重いし反動キツいし引き金硬いし」
「あァ、確かに。俺も前に整備しましたケド、試し撃ちもろくに出来ねェ始末で」
「だろー?ったくあの馬鹿力…」

 苦い顔でそう吐き捨てながら旦那はちょっと乱暴に銃をベルトに差し込むと、ワゴンの中身を見て「医局?」と首を傾げた。

「はィな。姐サンに備品の補充頼まれてまして」
「あー、そーいや昨日爆撃されたんだっけ、参級の連中」
「らしィっスねェ。…旦那も医局っスか?」

 目隠ししてる状態じゃァ服の下の傷までは見えねぇし、旦那を含め壱級の人達は怪我を隠すのが上手いから、普通なようで内臓が1つ2つ破裂してたり肋骨が複雑骨折してたりっつゥことが結構ある。
 まさか怪我でもしてンのかと思って少し集中して見ようとしたら、旦那は首を振って廊下の端にぶら下がった医局のプレートを見た。


「いや、傑探してンの。俺の部屋にも居ないし、仕事も確か入ってねーから、またカルヴァに捕まってンのかと思って」
「え、傑っスか?」
「うん。知ってる?」

 知ってるも何も、今俺はそいつに仕事場を追い出されてきたばっかりだ。

「傑なら武器庫っスよ。俺の仕事手伝ってくれてるんです」
「武器庫かよ…解った、じゃァそっち行ってみるわ。―――あ、幽利」
「はィ?」

 どーりで見つからない、と呟きながらUターンしかけた旦那は、だが途中で何か思い出したよォに振り返ると、ワゴンの隅に持ってた紙袋を丁寧に置いた。

「幽利チョコ好きだったよな?作ってみたから半分食べて」
「へ?ぇ、ちょと…旦那?」

 ”食べて”ってことはまた何か分けて下さったンだろうけど、この前も旦那からは手作りクッキーを頂いたばっかりだ。ワゴンに乗せられた紙袋はちょっと立派な感じで、さすがに連続では貰えねェからと断ろうとしたが、振り返った時にはもう旦那は角を曲がった後だった。


「…まァ、いいか」

 …今更、追いかけて突き返すのもどォかと思うしな。
 好意はありがたく頂く事にして、ただでさえ軽くて小さい旦那の足音が聞こえなくなったのを見送ってから、俺はワゴンを引きずって医局の裏口を叩いた。










 普通、俺の仕事が終わンのは夜の8時か9時。
 …で、時計が示してる今の時間は、夕方の5時。

「どうしたの、今日は」
「え、っと…」


 まだ執務室にいると思ってた鬼利は、俺の予想を綺麗に裏切ってリビングのソファで本読んでて、時計をちらりと見上げながらのその言葉に思わず体が竦む。
 さすがにこんな早い時間に帰るわけにゃいかねェから医局に行った後でもっかい武器庫に引き返してみたら、マジで締め出されてて滅多に閉じない武器庫の扉は内側からしっかり鍵が掛かってた。

 声かけたら「邪魔すんな」って言われたから、無理に開けるわけにもいかなくて仕方なく帰って来たンだが…やっぱ、人任せにして帰って来たら怒られっかな。


「なンか、傑が手伝ってくれて…早く終わったから」
「ふーん…ちゃんと終わらせて来たの?」
「いや、それが…」

 ページを捲る鬼利の足元にぺたんと座り込みながら、俺は出来るだけ簡潔に事情を説明した。鬼利は本を見たままでちょっと黙ってたが、少ししてから俺の方を見て、

「…それは?」
「ン…あァ、来る途中で旦那がくれたンさ。鬼利と一緒に食おうと思って」
「そっか。あと5分で終わるからちょっといい子にしてて」

 何気なく差し出された鬼利の手の下に頭をもってったらそのままくしゃくしゃって撫でてくれて、触ってもらった場所からじんわり広がる暖かさに軽く目を細める。
 …仕事でなンかイイことあったのかな、今日はやけに鬼利の機嫌がイイ。

 言いつけ通りに大人しくその場に座ってソファに頭預けながら、俺はきっちり背筋が伸びた見本みてェな姿勢で本読んでる鬼利の横顔を見上げた。
 鬼利が広げてンのは見たことも無い文字で書かれた分厚いハードカバーで、今は半分くらいしか進んで無い。普通の奴ならもう半分読むのに半日掛かりそうだが、鬼利が見開きのページを読み終わってページを捲る速度は約5秒。

 俺が淡々とページを捲る指を見てオアズケに耐えてる間に、鬼利は少しも落ちないペースで最後のページを読み終わって、ハードカバーをパタンと音立てて閉じた。


「…なんて顔してるの」
「顔?」

 呆れたような顔で鬼利に笑われて、俺はソファから顔を浮かせた。
 目隠しを外して貰いながら、知り尽くしてる一番イイ角度で首を傾げてみせる。普段ならこんな計算づくの顔、鬼利にはあっさり見破られて見向きもされねェんだけど、

「…顔、って…どんな?」
「今すぐ鳴かせたくなるような顔」

 …やっぱり、今日の鬼利は相当機嫌がイイ。

 

「鞭持ってくる?」
「いらない。今日はそういう気分じゃない」
「じゃ、どォいう―――」

 どォいう意味?って続けようとした俺の言葉の後半は、柔らかく俺の髪を掴んで顔を上げさせた鬼利の唇に吸い込まれた。
 触れた場所から火傷しそうなくらいの熱が伝わって、嬲られてる舌先から一気に全身の体温が上がる。息継ぎも許さないくらい深く口ン中を犯されて、俺は久しぶりのドロドロに溶けそうに熱いキスを与えられながらぞくりと背筋を震わせた。


「は、…ぁむ…ん、んン…ぅ、ふ…」
「……淫乱」

 舌を弄るのを熱い舌先から細い指に変えながら、鬼利は呆れたように呟いて組んでた足を解いた。

「ふぐっ…は、ァ…んんぅッ…!」
「悦から貰ったそれ、開けてみようか」

 作業着ごしに俺のモノを革靴の底で緩く踏みつけながら、鬼利は引き抜いた指先を俺の頬で拭うとちらりと視線をテーブルの上の紙袋に移した。
 分厚い作業着の布と革靴が間にあンのに、その責め手はいつも通り俺の弱いトコを確実に苛めてて、いつもより少し緩い刺激に焦らされてる時みてェな電気が走る。

 緩く足を開いて正座したまま紙袋を引き寄せて中を開けると、中にはチョコレートクリームで覆われたシンプルなケーキが丁寧にラップに包まれて入ってて、その出来栄えに鬼利が感心したよォな声を出した。

「へぇ…美味しそうだね」
「はぁっ…ん、皿…っ持って、来る…?」
「いいよ、今は。そこじゃ苛めてあげられないからこっちにおいで」

 こっち、て…
 あンまりあっさり言われた言葉に半分呆然としながら、俺は鬼利が”こっち”と言いながら軽く叩いた膝の上と鬼利とを見比べた。
 俺が鬼利の上に乗れンのは騎乗位の時くらいで、しかもそォいう体位でヤって貰えンのは鬼利が飽きちまうくらいに突き上げられて意識も半分吹っ飛んだよーな時だけ。こんな序盤から、しかも膝の上にのっけて貰うのなんざ間違いなく初めてだ。


「膝の上、乗って…いいの?」
「イイよ。早く」

 無駄の無い命令口調で急かされて、そろそろ立ち上がった俺はゆっくり鬼利の足を跨いだ。躊躇いがちに腰をおろしてったら鬼利にくすくす含み笑いされて、作業着の裾を引かれて一気に座らされる。

「うァっ!ちょ、鬼利ッ…」
「何?あんまり動いたら落ちるよ」
「ぅ…重くねぇ?大丈夫?」
「平気」

 短く言いながら眼鏡を外した手がそのまンま俺の作業着に伸びて、襟から足の付け根まで続いてるチャックを一気に腰元まで下ろした。

「鬼利?…ぁっ」
「動いちゃダメだよ。傷つくから」


 だ、ダメって言われても…
 服を脱ぐのも慣らすのもいつもは俺が自分でやってンだけど、目隠しで腕縛られたってことは今日は着衣で慣らし無し?でもバイブもローターも寝室だし、鞭は持ってこなくていいって言われちまッたし…

「な、にすンの…?」
「イイコト」

 何されンのか予想がつかなくて頭は焦ってンだが、体は予想できない状況にしっかり期待しちまってて、さらされた胸元をつゥって指先で撫でられるだけで肌が泡立つ。
 おろおろしながら息を荒くする俺を見て鬼利はくすくす笑って、真っ赤な舌が舐めて濡らした唇が、触れるか触れないかのギリギリで胸元に寄せられた。

「あッ…は、ぁっ…!」
「……」
「ん、ふ…ぁ、あっ…!」

 感じる場所を掠めるみたいに吐息がかかって、そこから反らされた唇がちゅ、と小さな音を立てながら肌に押し当てられるだけで体が跳ねる。触られてすらねェってのに赤くなった乳首がじんじん痺れてきて、「触って」ってはしたなくねだっちまいそうになるのを唇を噛んで堪えた。

「はぁ、はッ…ん、んン…ッっ」
「…本当に好きだね、焦らされるの」
「ん、ン…っ!」
「悪いけど、今日はあんまり苛めて上げられないから」

 淡々とした鬼利の言葉に、俺は勝手に体温を上げてく体を無理矢理抑えこみながら頷いた。ただでさえ今日はイイことばッか続いてンだ、膝に乗せて貰った上、何の奉仕も無く気持ちよくして貰ってンだからこのくらいの裏切りは当然。

 …だからこんなに優しいのか、って頭の片隅でぼんやり考えながら、俺はそろそろ邪魔だろうと膝の上から腰を上げて、


「何してるの?」
「ひァっ!?

 呆れたように言った鬼利の、ローションでもつけたみたいにぬるぬるの指先でぷっくり膨れた乳首をくちゅ、って弄られて、強制的に体の力を抜かされた。

「ひぁぅっ…き、りっ?…ぅンんッっ…」
「苛めてあげられない、って言っただけでしょ?誰がもう終わりって言ったの」
「ふぁッ、あっ…これッ、だんな、のっ…!」

 くちゅ、ぬちゅ、っててめェの胸元から濡れた音がする度に強くなる甘ったるい匂いに、まさかと思って見てみりゃァ案の定鬼利が塗りつけてンのは旦那お手製のチョコクリームで、俺の体温で溶け始めてるそれがヤらしい音立てながら鬼利の指を濡らしてる。

「悦の作ってくれたクリーム。食べる?」
「あ、ひィ…っんぁ、んン…!」

 ソファの直ぐ傍に置かれてたケーキから掬い取られたクリームが差し出されて、確かに凄ぇ美味そうだけどそんなの喰ってる余裕なんか無い俺は、暖まったクリームを絡めた指にぐりぐり押しつぶされるみたいに乳首を嬲られる快感に喘ぎながら首を振った。
 ぬめる指が痛いくらい押しつぶしたそこを今度は優しく輪郭を辿るように撫でて、交互に与えられる正反対の刺激がモロに下半身に響く。

「いらないの?…じゃあ、僕が貰うよ」
「ぁッ?…っ…!」

 …嘘だろオイ。
 生温いクリームを柔らかいモノで掬い取られる快感よりも何よりも、その行為そのものに驚いて一瞬呼吸が止まる。どう反応したらイイもんかサッパリ解らなくッて、久しぶりにマジで戸惑いながら鬼利を見下ろしたら上目遣いに笑われた。


 そォいや、この”見下ろす”ってェのも普段じゃあんまり有り得ねぇ状態だった。慣れないことだらけじゃねェか俺。


「な、何か…変なモン喰ったりしてな…ッひぁ!」
「…お前はちっとも成長しないね。苦痛には強いのに、優しくされると酷く怯える」

 困ったように笑う鬼利の手が、いつもよりずっと優しく肌の上を這う。
 久しぶりに味わう痛み無しの快感は鮮烈で、半勃ちのモノを緩く扱かれただけで周りが見えなくなった。人工の夕陽が差しこむ部屋で水音だけがやけにデカく響いて、クリームをとっくに舐め尽くされた乳首を柔い舌先で弄ばれるのがヨくて震えてンのか、それとも慣れないことばっかりしてくる優しい指が怖くて震えてンのかも解らない。

 気持ちイイのは好きだけど、それだけは嫌だ。痛みの後の快感は大好きだけど、その逆は辛過ぎる。


「今日は気持ちイイことだけしてあげる」
「…ぅ、あっ…ンぁあ…ッ!」
「だから余計なことは考えなくていいよ、今日は」
「あ、ふぁ…っぁ、はァ…ッな、で…っ?」
「ん?…あぁ、別に理由は無いよ」

 平気な顔で言いながら、鬼利は後ろ手に俺の手首を縛ってた目隠しを解いた。驚くくらいの手際のよさで袖が抜かれて、腕を引かれて少し腰が浮いた隙に下着ごと作業着が太腿まで落ちる。

「…幽利?」
「ぁ、違…そ、じゃなくて…」

 怪訝そうに見上げてくる鬼利に首を振りながら、俺は軽く腰を浮かせて中途半端に引っかかった作業着から右足を抜いた。座りなおした俺に鬼利は薄く笑って、触れるだけのキスをくれる。


「んっ…ぅ、…ッ」
「見える?ぐしょ濡れだよ、ここ」
「あっ…!ひ…ぁ、あぁあ…ッっ」

 先走りで濡れたモノをくちゅ、て音立てながらゆっくり扱かれて体が跳ねる。てめェの膝に手ぇ突いて体支えンのもそろそろ限界で、それを察した鬼利がするりと俺の手を自分の肩に回させてくれた。

「もっと近寄って…そう。そのまま」
「はぁっ、あ…ん、ンん…!」

 言われた通りそっと抱きついたら背中をゆっくり撫でられて、思わず気ィ抜いたところで俺の先走りで濡れた鬼利の指がちゅぷ、て音立てながら入って来る。
 いつもはてめェの手で切れなきゃいい、くらいの気持ちで乱暴に解してる中をゆっくり優しく解されてく感触に背筋が震えた。ヤベ…イっちまいそ…ッ


「そんなに気持ちいい?イキたそうだけど」
「んッ…っが、ま…でき、る…っぁあぁ…!」

 ここまで良くしてもらってンのに簡単に1人でイっちまうのは嫌で、俺はカリをくすぐりながらイかせてくれようとしてる鬼利に首を横に振った。正直、感じすぎて座ってンのも辛いくらいなんだが、そんな中でもイキそうになンのを堪えてられンのは普段の鬼利の調教のお陰。
 ほらな、その時は凄ェ辛くって苦しくッても、鬼利がしてくれる事は絶対に俺をヨくしてくれる。



「そう。…じゃあ、早くシてあげようね」
「はぁ、あッ…き、り…?」

 カチャ、てバックルを外す音がして、その音と行為に驚いて目を軽く見開いた俺に鬼利は薄く笑った。

「言ったでしょ?苛めてあげられない、って」
「ほ、とに…っ?、ン…すげ、うれし…ッっ」

 指とか、バイブとかとは比べモノになんねーくらい熱ィ鬼利のが押し当てられて、俺は鬼利の肩口に縋りつきながら荒くなった呼吸を必死に整えた。
 滅多にもらえない最高のご褒美に思わず素で喜んだ俺に鬼利は少し苦笑して、押し当てられてたモノをゆっくり俺の中に埋めてくれる。

「ひ、ぁ…っ!あ、つ…ッ」
「っ……幽利のナカも熱いよ、凄く」

 溶けそうに熱い鬼利のが奥まで届いてて、もうそれだけで耐え切れずにナカのモノをぎゅうぎゅう締め付けながら俺は耳元で囁かれる掠れた鬼利の声に身震いした。慣らす為に緩くゆすってくれてンだけどそれだけじゃァもう我慢できなくッて、鬼利の肩に縋りながら自分で腰を使う。

「ひゃ、ぁあァッ…鬼利、あっぁ…きも、ち…ッ?」
「…聞かなくても解るでしょ、そのくらい」
「ッあ!ぁ、あっぁああッ!…ひ、ぁぅっ、ぅうんン…!」


 呆れたよォな声と同時に深い突き上げが来て、てめェで腰揺らすのなんかとは比べモンになんねェその快感にイクのを堪えてる体がびくびく震え出す。シャツが汚れンのも気にせずに「出してイイよ」って囁いてくれンのがただ嬉しくて、俺は泣きながら鬼利にしがみ付いた。

「ぁあッ!ひゃぅうっ…あっそこ、だめっ…出ちゃ、からぁあ…ッ!」
「…キツ…ッ」

 自嘲するように呟く声はいつもより少し低くて。いつも冷静に世界の全部を見下して観察してる眼が俺だけを映して欲にギラついてンのが、もう堪ンねぇの。
 イイところばっか容赦なく突き上げられて、目の前が真っ白になるのと同時に注がれる鬼利の精液。そりゃァ肉体的な快感なんざその辺のバイブの比じゃねェんだけど、それよりも何よりも、この、体温が。

「…幽利…」
「はぁ…はぁっ……」

 抱きしめられるだけでイク一歩手前まで煽られンのなんざ、俺は鬼利だけ。

 すっかり皺になったシャツを指先で掴みながら、俺は上目遣いに鬼利を見上げた。並んだら見分けがつかねェって人様に言われるほどよく似てるらしい双子の兄貴の顔は、俺が見る限りじゃァ俺なんかよりずっと綺麗で色っぽくて、優しい。


「鬼利…鬼利…」
「…どうしたの?」

 そォいや今日は慣れないことばっかりだった。イイことがありすぎて、不幸に慣れた俺の頭ン中は混乱しっぱなしでちっとも働きやしねェ。ガキの頃の染みついた記憶も今だけは吹っ飛んで、身の程も解ンなくなっちまったんだ。
 …だから、こんな感情はその所為。

 頭ン中で自分に言い訳しながら、俺は体を丸めて鬼利の胸元に顔を埋めた。


「ぎゅ、って…して欲しい…」
「……いいよ」


 自分でも呆れるくらいの甘ったれたお願いを鬼利はちゃんと聞き入れてくれて、背中に回された手が伝える鬼利の体温と抱きしめられる心地いい圧迫感を感じながら、

 俺はガキの頃からずっと夢見てた、愛しい人の腕の中で眼を閉じた。



 Fin.



とうとう書いてしまいました、鬼幽利の甘甘…!
幽利が一滴も血を流さず泣き叫ばない鬼幽プレイは非常に書き難かったです。

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