愛情表現



 溜息みたいな声を漏らして、俺の下にいる悦の体からくたっと力が抜ける。

「はぁ…気持ちよかった…」
「そう?そりゃ良かった」

 ふわって無防備な笑みを浮かべながら満足そうに呟いて、さっきまで背中に爪を立ててた手が俺の首を引き寄せた。
 こういう仕草全部、俺にしてみりゃ誘ってンの?って思うくらいなんだけど…気づいてないんだろーな、この天然は。
 酷ぇ奴。…そこが可愛いんだけど。


「ん…なに?」
「別にー?」

 抱き寄せてくる悦の横に寝て、首から解けたその手を片方取って軽く口付ける。くすぐったそうに手を引こうとした手首を掴んで、今度は爪を甘噛み。

 俺も指は細いし長いほうだけど、悦の指先はなんていうか華奢って感じで俺のとは少し違う。銃を使うからそりゃあ手自体は小さくねぇんだけど、痣とかタコとかも1つも無くてつるりとした手首から指先にかけては、マジで綺麗で俺のお気に入り。
 あ、もしかして俺って手フェチ?


「でも足も好きだし…」
「何ぶつぶつ言ってンだよ、さっきから…?」
「手」
「…て?」
「悦の手。俺好きだなーって思って」
「…何だよそれ」

 不機嫌そうに無理矢理眉を顰めて、拗ねたようにふいって顔を背ける。
 あ…今の顔、凄ぇツボ。

「手なら…傑の方が綺麗……、だって言ってたッ」

 急に掴んでた俺の腕を払って手を引っ込めた悦が、半ば叫ぶように言った。
 ”言ってた”、ってお前…誰の情報だよそれ。

「誰が?」
「え…カルヴァとか?」
「何で疑問系?」
「ッ…何となく」

 あぁ、はいはい。
 いつもならもうちょっと問い詰めて苛めるんだけど、なんだか顔赤くしてる悦が可愛いから今日は止めた。

「悦は?」
「ん?」
「悦は、俺の手好き?」
「……恥ずかしいこと聞くなよ…」

 やっぱり?
 そりゃな。ヤってる最中とか酔わせた時ならともかく、ただでさえ恥ずかしがりな悦が素面で俺のことを褒めてくれる筈が無い。
 何か言って貰わねぇと不安になるような体でもテクでもねぇから、何も無しならそれでも俺は別にいーんだけど。どーせノリだし。

「…え、っと」
「ん?」

 なんて考えてたら擦り寄ってきた悦が盛大にシャツを肌蹴た、っつーか邪魔だからって余裕無くした悦に引きちぎられたシャツが引っかかった、俺の胸元に顔を埋めてぽつぽつと何かを喋り始めて、聞き取りにくいその声に耳を澄ます。


「長い、所は…好き」
「…何が?アレのこと?」
「ッっ…!馬鹿ッ、ンなわけあるか!」

 マジで解ンなくて軽く首を傾げた俺の鳩尾に、顔を赤くしてそう叫んだ悦の拳が至近距離で減り込んだ。
 いってェ…今のは効いた。っつーか逃げ場ねぇんだからちょっとは手加減しろよ。

「手の話だろッ!」
「…あぁ、そーだっけ?」
「そうだよ!何でお前はそういつもいつもエロい方向にばっかり…!」
「あ、その顔」

 仄かに赤く染まった顔を背けながら俺を怒鳴りつける顔。俺以外の奴には絶対に見せない素の表情。

 手とか足もそうだけど、もしかしたら俺って悦の顔が好きなのかも。

 …いや、顔だけじゃねぇな。そんなこと言ったら声だって鎖骨だって仰け反った時に見える背骨だって好きだし、本気で怒るから悦には言えねぇけど俺が仕込んだエロい体だって好き。
 セックスはただの処理だからなんでもいいけど、昔使い捨ててたみてーなどうでもイイ奴とは一緒のベッドで寝ようなんて思ったこともねーし。

 …え、っつーことはアレか?
 部分的にじゃなくて、全体っつーか寧ろ俺は悦が、


「…うわ、変態」


 頭に浮かんだ言葉に、思わず自嘲するような言葉が漏れた。
 そりゃあ好きだけどさ、だからって悦の全部がフェチならいっそ悦フェチじゃねーか、なんてこれはねぇだろ。
 寒過ぎ。てかダセぇし。寧ろ犯罪。いや、俺はもう立派な、っつーか立派過ぎるくらいの犯罪者だけどそういうんじゃなくて。うん。

 …あー、何かもうどうでもいいや。暇つぶしに自己分析とか面倒くさくなった。


「はぁ?変態って何」
「んー…俺の頭ン中?」
「傑は頭の中だけじゃなくて全身で変態だろ?今更何言ってンだよ」
「あぁ、もういいよそれで」

 その変態にさっきまで鳴かされてたのはどこの誰だよ?とか、じゃあ悦の体はどうなるんだよ?とか、その気にさせるような言葉はいくつも浮かぶけど、もう喋るのも面倒で全部止めた。
 無反応な俺に不満そうな悦を軽く抱き寄せて、裸の肌から汗が引かないうちに華奢な体をシーツで包む。


「おい…傑?」
「何かめんどくなった。寝るわ」
「へ?…あ、うん」

 頷いた悦がシーツの中でもぞもぞと体の向きを変えて、寝るのかなと思いきや、いきなり俺の腕を引っ張ってシーツの外に放り出した。
 え…何、イジメ?


「ンだよ…?」
「何って…腕枕?」

 ……。
 ごそごそ動いてマジで俺の腕を枕に寝だした悦があまりにもナチュラルで、ついでに眠くて突っ込む気も失せる。

 取り合えず血流が止まらないように軽く位置をずらして、ぎゅっと空いた腕で悦を抱きしめた。


「お前のこと…全部好きだよ、悦」





「ん…あれ、悦?」
「……」
「目の下真っ黒じゃん、お前。隈?」
「ッ…そうだよ、誰かさんのお陰で!」
「え、何かした?」
「お前がっ…全部、好き…とか、言うから!あれから一睡も出来なかったんだよ!」
「俺が?…記憶にねぇんだけど」
「~~~ッお前、寝惚けて変なこと言う癖ホンッと止めろよ」



 Fin.



亜聖様リク、「事後の傑×悦」でございます。
素敵リクありがとうございました!

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