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 アンティークもののテーブルの上に、ばらりと音を立てて数枚のチップが投げ出される。

「レイズ。…最近どーよ、アッチは」
「何が?」

 にやり、と唇の端を歪める傑に、鬼利は手元の5枚のカードをテーブルに投げ出しながら涼しげな顔で傑を一瞥した。
 チップの脇に投げ出された手札はノーペア。

「誤魔化すなよ」
「そう言えば、この前の薬。どうだった?」
「薬?」

 慣れた手つきで傑が配った新しい手札を眺めながら、鬼利は同じく自分の手札を確認している傑に薄らと笑う。

「悦に盛られたって言うカルヴァの薬だよ。かなりの醜態を晒したと聞いてるけど」
「あぁ。…死ぬかと思った」
「そんなにキツかったの?…ベット。」
「コール。なんならお前も試してみろよ。天国までトべるぜ」
「遠慮しておくよ。話に聞く限りあそこは酷く居心地が悪そうだ」

 言いながら鬼利は手札の内、2枚をポットの脇に投げ出した。傑が代わりにストックから配った2枚の札を見て、感情の見えない橙の瞳が僅かに細まる。


「半年くらい禁欲した状態で根元縛られたままヤってる感じ」
「天国じゃなくて地獄じゃないの?お前にマゾの気質があったなんてね」
「お前の弟ほどじゃねぇよ。そーいや今日、右腕にデカいガーゼ張っつけてるの見たけど何したんだアレ」
「さぁ?僕は覚えが無いね。優しい登録者と遊んで貰ったのかな」

 眉1つ動かさず淡々と言いながら、鬼利は黒いチップを大量にポットに放った。動揺を誘う為のブラフにも全く反応しない鬼利に軽く苦笑しつつ、傑は手元のカードをテーブルの上に投げ出す。手札の役はQのツーペア。

「偶にはべたべたに甘やかしてみろよ」
「痛み無しでヨがらせるってこと?」

 登録者に陰で悪魔だ魔王だと言っている無表情のまま、鬼利は彼等が聞けば目を剥きそうな台詞を平然と吐きつつ手札を開いた。
 5枚のカードに一致した数字や柄は1つも無い。

「細めの玩具で二輪挿しとか。イケるだろ」
「多分ね。でもアレは意識が飛ぶような刺激よりも、イケない程度のを長時間の方が苦手だよ」
「じゃあそれすれば?」
「逆に危ないんだよ。あんな性癖だとね」

 配られた手札を引き寄せながら、鬼利はどこか物憂げな表情でふぅと溜息を吐いた。


「痛みを怖がらないから極限まで追い詰めると見境が無くなる。前にリングを着けて1時間放置したけど、肩の関節を壊しかけたからね」
「あー…枷無しでも動かない代わりに自分で傷つけそうだな」
「前にそれで手首の動脈を切りかけたよ。爪でね」
「その爪が伸びてたとかじゃなく、だろ。…なら一切動けなくしてやれば?」
「筋が伸びきるくらい両手足を引き延ばすってこと?」
「なんですぐ拷問方面に走るんだよお前の頭は。…放置じゃなくてつきっきりで、じっくりゆーっくりヤるってこと。レイズ」


 鬼利が賭けた倍の額のチップをポットに投げながら、傑は手札を1枚放り、ストックの中から1枚を引いて手札に加える。

「枷じゃなくてお前が押さえてたら暴れねーんだろ?緩急つけながら3回イかせて、間に5回くらい空イキさせれば指1本動かせなくなるぜ」
「毎度ながら御苦労なことだね。悦には毎回そんなことを?」
「さすがに毎回、じゃねぇけどな。あとアイツなら5回と8回までは耐える」

 淫乱だからな。小さく笑って傑はテーブルの上で揃えた手札を指先で扇状に広げた。8から始まるダイヤのストレートフラッシュ。

「統計でも取ったの?」

 呆れたような声音で言いながら、鬼利は手元に零れ落ちていたチップを赤と黒のチップが山と積まれたポットに放った。手元に広げられた手札はKのクワッド。

「今まで“お相手”して貰った連中からな」
「マンネリ化してるのは悦の方じゃない?膝下がほぼ使い物にならない状態でも走れるんだから、十分素質があると思うよ」
「怪我なら仕事で嫌ってほどしてる」
「何も鞭や火を使えって言ってるわけじゃない。蝋なら痕すら残らないし…あぁ、スパンキングでもしてみれば?」

 慣れた手つきで裏のまま配られる手札を指先で受けながら、鬼利はちらりと壁の時計に目をやる。チップが黒と赤しか無く、その上非合法カジノのディーラーが冷や汗を滲ませるようなレートのゲームを始めてからそろそろ1時間が経とうとしていた。


「僕は疲れるから嫌いだけどね。何なら貸そうか?パドル」
「“お仕置き”としては定番だな」
「近親相姦でも設定すれば完璧だよ。変態の本領発揮じゃない?」
「真性のお前に言われると萎えるぜ、それ」
「なら定番の低温蝋燭でも使えばいい。そういえばガロン社に媚薬を混ぜ込んだものがあったよ」
「あぁ…飾ってやって言葉責めしたら悦びそうだな、色んな意味で」
「色が白いから赤い方が映えはするだろうけど、見飽きた血よりは精液を連想させる方が辱めとしてはいいかもね」
「敢えて蜜蝋使ってその後べったべたに甘やかしてもイイけど」

「アレは本当に熱いから場所を選ばないと危ないよ。カリに垂らしたらあのドMでさえ泣きだしたからね」
「そりゃ泣くわ」
「乳首と、内腿もいけるかな」
「コール。ローターかバイブで気ィ散らさないとマジ泣きされるな」
「単純に苦痛への耐性で言えば炙っても問題無いんだろうけどね。…レイズ」
「…ホント好きだなそーいうの。本気で痛いだけの悲鳴なら萎えるぜ俺は」
「幽利以外なら僕だって勃たないよ。興味が無い」


 言いながら鬼利が開いた手札は3とJのフルハウス。ほぼ同時に開かれた傑の手札は7と10のツーペア。
 ポットのチップを色別に積む鬼利を横目に、傑は2人分の手札を加えたストックを手早く切って元の箱へと戻した。

 あらかじめ時間やゲーム数を決めていたわけでは無いが、傑は一時期賭博で生計を立てていた程だし、鬼利はと言えば物心ついた時から人の腹を読む英才教育を受けている。その辺りの呼吸を読んで合わせることくらいは容易かった。


「どっち?」
「見れば解るよ」

 脇に避けていたグラスの酒を含みながら勝敗を問う傑に、鬼利は退屈そうな表情で頬杖を突きながら先程のものを加えた自分の分のチップを、傑の持ち分の方へと押しやる。


「…またかよ」


 軽く舌を打ちながら、傑は段数と高さがそっくり同じに積まれた2列のチップを、空になったグラスの底で押し崩した。



 Fin.


2人で雑談してるだけ(ポーカーはおまけ)
お互いに暇だと連中はこんなことして遊んでます。

間違ってる可能性大の用語一覧
・ポット→チップ置き場。紅茶とかは入れない
・ストック→余ったカード。スキー板のお供ではない
・チップ→賭け金(現金の代わり)
・レート→チップの単位(1枚10円か100円か決める)
・ベット→賭ける
・レイズ→先に賭けた人より多い額を賭ける
・コール→先に賭けた人と同じ額を賭ける
・ブラフ→「嘘」を格好つけて言ってみた
・ノーペア→役無し。坊主。
・ツーペア→手札5枚の内同じ数字が2枚の組み合わせが2つの役
・フルハウス→5枚の内3枚が同じ数字で、しかも残り2枚の数字が同じ役(例:QQAAA)
・ストレートフラッシュ→5枚が連番で同じ柄(例:数字が8、9、10、J、Qで柄が全部エース)

出て来た中で一番強い役は傑が出したストレートフラッシュ。出る確率は約72000分の1。ポーカーの役の中では2番目に強い。
ちなみに役で1番強いのはロイヤルストレートフラッシュ(同じ柄で数字が10、J、Q、K、A)で、確立は650000分の1。
とてもどうでもいいね!

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