「…っん…?」
お互いの息遣いしか聞こえないような世界でいきなり響いた電子音に、俺はまどろみかけてた意識を戻した。
「傑…な、傑。…鳴ってる」
「…聞こえない」
「ッ…いー、の?」
「いいよ、別に」
諦めたのか、ようやく鳴り止んだ通信機を見もせずに傑は即答して、俺の顔にキスを降らせながら入りっぱなしのモノを引き抜いた。
ばさ、って体の上にシーツが被せられて、そのまま横になった傑に抱き寄せられる。
「仕事…あるって言ってなかったっけ?」
「あるよ」
「…いつ?」
「5時に空の端っこ」
そうか5時かぁ…なんて暢気なこと考えながら何気なく壁の時計を見て、俺は目を見開くとベッドから起き上がった。
「今、3時だけど」
「うん」
「2時間しかねぇのかよしかも端っこって!どこ!」
「ん…YとWの間、くらい?大丈夫だって」
YとWの真上、ってことは空に昇る垂直鉄道がある場所から大体…100キロ?
「今すぐ行かないと間に合わねーだろそれ!」
「だから大丈夫だって。俺の足なら1時間あれば着くから、あのくらい」
「…準備は?」
「ったく…この心配性」
溜息を吐きながら傑は軽く髪をかき上げて、その手を俺の首にかけるとするって感じでベッドの中に引き戻した。
相変わらず、ベッドの上の扱いはムカつくくらい上手い。
「15分でシャワー浴びて着替えて、10分で武器庫行って弾貰って5分で上には着くから。そっから移動に1時間」
「……」
「1時間で片づけて戻って来て、お前と一緒にもっかいシャワー浴びて軽く悪戯して飯食って昼過ぎまで寝る。…ほら、全然平気」
「残り30分は?」
色々と変な言葉が聞こえたけど、それはとりあえずスルー。こんなのいちいち拾って突っ込んでたら話が前に進まねぇ。
ずーっと抱かれっぱなしで暖かいから凄ぇ眠いし…絶対これわざとだ。
「残りってか、今だけど」
「休憩?」
「それもある。あと、悦のこと寝かしつけなきゃなんねーし」
「…ガキか俺は」
いい年した野郎捕まえて「寝かしつける」なんてどんな表現だよ。
「放り出してったらヤリ逃げみてぇだろ」
「誰もそんなこと思わねぇから…」
「知ってる。ただの俺のワガママ」
優しい声で囁いた傑に強く抱き寄せられて、背中に回された手と息苦しくない程度に密着した微妙な距離がただ暖かくて、どんどん意識が流れてく。
…ふわふわした心地よさを味わいながら目を閉じる寸前。
俺はこれから大量虐殺をしにいく犯罪者の、甘い声を聞いた。
「…おやすみ」
Fin.
歴代拍手御礼(5つですが)の中で最も甘ったれた作品。
