危ないことの方が、愉しい。
傑の居ない休日の昼間。
いつものよーに暇潰しに作った菓子を片手に、武器庫に遊びに来た俺を足の欠けた椅子の上で出迎えてくれた幽利は、いつもと少し様子が違った。
有り物で適当に作ったケーキを大袈裟なくらい褒めて、喜んでくれんのはいつも通りだけど、会話は続かねぇし、一緒に持ってきた紅茶とガソリン間違えそうになるし(なんとか寸前で止めた)、なんとなくそわそわしてる。
「なぁ、忙しかった?邪魔なら俺…」
「ッい…いえ、そんな!暇なくれェです」
「ならいーけど…」
「すいません…」
「なんで謝るんだよ」
「……」
笑いながら言うと、幽利は困ったような悲しいような顔で軽く俯いた。
さっきからずっとこんな調子だ。鬼利に何かあったのかと思ったけど、連絡も無いしそうじゃないらしい。機嫌がいいわけでも悪いわけでも無さそうだし、もしそうだとしても幽利がそれをあからさまに表に出す訳ねぇし、なんとなく俺に帰って欲しく無さそうだし。
性的に、ってんなら大得意っつーか寧ろ専門だけど、それ以外で慰めたりってのは俺はあんまり上手くない。どうしたもんかとケーキを食いながら考えてると、そっとフォークを置いた幽利がゆっくりと顔を上げた。
「…あの、旦那」
「ん?」
「だ、旦那は…その、職業柄、あァ元ですけど、あの…オモチャ、とかは…」
「おもちゃ?」
“元”の“職業柄”って言うんだから公園に持ってけるような玩具の話じゃねぇんだろうけど、そんなの俺は勿論、幽利だって色々と使ってる筈だ。
こんな玩具は無いか、って話題なら俺より傑とかカルヴァが詳しいからそっちに聞くだろうし、使い方なら説明書なんて無くても鬼利なら直ぐ分かりそうだから、俺に聞くって事は…使用感?
「そりゃ、まぁ…色々使われたり使ったりしたけど。どんなの?」
「バイブ、なンだと思うンですけど…その、長…くて…」
「うん」
「2つが、くっついてる…みてェな」
「あぁ、双頭?」
幽利が知らないくらいだから、と色々えげつないのを想像してた俺が軽く拍子抜けしながら聞くと、幽利は聞きなれない様子で小さく首を傾げた。小動物か。
「台座がくっついたバイブだろ?2つの頭、で双頭バイブっつーんだよ、あれ」
「あァ、成る程…」
「うん」
「だ、旦那は…使ったこと、ありますかィ?」
「あるけど、別に普通のと変わんねーよ。振動に相手の動きが加わるくらい―――」
…あれ?
暢気に説明してる途中で、気づいた。
双頭バイブはその名の通りバイブ部分が2つ台座で連結したバイブのことで、まぁ色々と種類はあるけど、そんな形してるから基本的には2人で使う為の物だ。俺も客の変態親父が子飼いにしてた性奴と一緒に使わされた。
女なら二穴責めとかで形状によっては1人で使ったりもするけど、幽利は男だからどうしたって片方しか使わないし、そうなるともう片方は……
まさか。
「え…もしかして、鬼利と?」
「はィ?」
「いや、だって……双頭バイブ使うんだろ?」
「……っあ、違ェんです!」
双子の美形がくっついていちゃいちゃしてるとか、裏モノのAVなら大ヒットするだろうけど、サドの権化だと思ってた鬼利にそんな趣味が。と勝手に冷や冷やしてた俺に、顔をボっと音がしそうなくらい真っ赤にした幽利が慌てた様子で首を横に振った。
「その、別に鬼利に使うって言われたワケじゃァなくッて」
「ゆーりが使いてぇの?…鬼利に」
「ち、違ェますって…!鬼利は…関係ねェんです」
赤くなった顔を俯かせて独り言みたいにそう言って一度口を噤んだ幽利は、「意味わかんねぇ」って面してる俺を上目遣いにちらちら見ながら、なんでこんな話になったのかをぽつりぽつりと喋り始めた。
「幽利」
「はィな」
背後からかけられた凛とした声に、幽利は空のワゴンを押す手を止めて背後を振り返った。
武器庫へと続く最地下2階の廊下。普段は武器庫の管理人である幽利と、武器を借りる一部の登録者しか通る事の無いそこに、弐級登録者担当幹部の泪が長い髪を背中に揺らしながらキリリと立っていた。
注意こそ払っていなかったが、幽利には勿論泪が幽利に続いて最地下に続くエレベーターに乗るのが“視え”ていた。てっきり1つ上階の医局≪過激派≫か、その隣の射撃場にでも向かうものと思っていたのだが、冴え冴えとした金色の瞳は射抜く様な凛々しさで幽利を真っ直ぐに見据えている。
「泪サン?どうかしましたかィ?」
「少しいいか。貴様に渡したい物がある」
「はィな…」
渡したい物?と内心首を傾げながらも頷いた幽利に、純白のパンツスーツを着た泪はカツカツと低いヒールを鳴らしながら歩み寄ると、片手に提げていたやたらと派手な色合いのバックを差し出した。
蛍光ピンクの生地の上で青色のパンダが注射器を片手にラリった笑みを浮かべているバックは、どう見ても泪の持ち物では無い。さすがのFもヤクでガンギマったパンダを「可愛い」とは言わないだろうから、恐らくゴシックの物だろう。
「世環に譲ろうかとも思ったのだが、奴は既に持っている可能性があったからな。良ければ譲り受けて欲しいのだが、貴様はこの類の物は持っているか?」
相変わらずキリリとした声で言いながら、泪が幽利の目の前で取り出したのは。
「ッる、泪サン?これ…は…」
どこからどう見てもバイブだった。
「性具の一種だ。カルヴァの“娘”から買ったのだが、あの若造には合わなくてな。…あぁ、きちんと洗ったし、コンドームを着けていたから衛生面も問題は無い」
2本を台座の部分で繋げたようなバイブを片手に、泪は恥ずかしげも無く言い切ると、驚くを通り越して呆気に取られている幽利の顔を、軽く首を傾げて覗きこむ。
「持っていたか」
「い、いえ…あの、えーッと……なンで…?」
「若造との遊びは飽きが早い。あれが拙い性戯を馬鹿なりに上達させるまで、暫くこれで遊ぼうと思ったんだ」
「はァ…」
「だが、ローションでいくら湿らせても奴には入らなくてな。痛い痛いと喚くばかりで、終いにはえづきだした。吐かれては面倒なので止めたのだが、他の男には今の所使う予定が無い。無駄にするのも勿体ないだろう」
「あァ、それで俺に…」
泪とその手に握られた玩具とを見比べながら力なく呟いた幽利に、泪は相変わらず恥じることなど何も無いと言うような態度で頷いた。
「衛生面は先程言った通りだが、カルヴァの“娘”の作だけあって機能面も優秀でな。通常、この類の性具は単に2つが結合しているだけのものが多いが、これは一方に圧力が加えられることで他方にも変化が出る。結合部が曲がるから体位も自由自在だ」
「す、凄ェんですね…」
手の中で言葉通りにぐねぐねとバイブを曲げて見せる泪に、幽利は精一杯の愛想笑いをした。こんなのもう笑うしか無い。色んな意味で。
「要らないか?」
「いや、その…俺にゃァ、それを使うような相手がいねェんで…」
「相手?」
当然の返事をした幽利に、泪は何故か訝しげな表情をした。
幹部である泪は幽利と鬼利が双子であることは勿論、2人の関係が単なる兄弟とは呼べないようなものだということも、カルヴァ経由で知っている筈だ。まさかこの麗しくストイックなビッチは、鬼利と共にこれを使えとでも言い出すのだろうか。
「…あぁ、そうだったな。貴様等兄弟は性に関しては保守的だったか」
「そ、……はィな」
それは自分達が保守的なんじゃなくて、泪が性に対して革命的すぎるだけだ、という一言を、幽利はなんとか呑み込んだ。
「私はそちらの感覚をあまり解さないが、保守派の感性ではこれを使用しても浮気になるのか?」
「え?」
「互いの動きが加味されるとはいえ、所詮は性具と戯れているだけだろう。同じ空間で自慰をしているようなものだ」
「いや、その同じ空間ってェのが…やッぱり」
「男児にとっては通過儀礼では無いのか?涅槃と柳一もよくしているとカルヴァに聞いたが……あぁ、あれは厳密には違うのか。共に居るカルヴァは自慰をしないからな」
思い出す様に目を伏せて言いながら、泪は一人でうんうんと頷いた。納得する所が違うという実にストレートなボケだったが、バイブを片手にした麗人にそれを指摘するだけの突っ込みスキルを、残念ながら幽利は持ち合わせていない。
「そうだな…司令官と使うことが出来ないのなら、悦はどうだ」
「へ?」
「お前達は仲が良いのだろう?あれならばこの程度のことは当の昔に済ませているだろうから、リードして貰うといい」
「だ、旦那と…ですか?」
…確かに、悦ならこの奇妙な形の玩具も使ったことがあるかもしれない。リードと言うなら当に最適な相手だ。
それに。
さっきは泪の手前ああ言ったが、同じ空間で自慰をするだけなら浮気には、鬼利は許してくれる…かもしれない。
「何も必ず2人で使わなければいけないという訳でも無い。1人遊びでも恐らく色々と愉しめる」
「……」
「出来るだけ無駄にはしたくないが、不要であれば捨ててくれても構わない。後のことは貴様の自由だ。幽利」
バイブをバックの中に入れながら、泪は無言のままの幽利を澄んだ金色の瞳で真っ直ぐに見据えた。
その眼光の通りに鋭い観察眼を持つ双眸が、幽利の中にある迷いと好奇心を見透かしたように微かに笑う。
「どうだ、貰ってはくれないか?」
…そういう訳で、幽利は泪からその双頭バイブを譲り受けたらしい。
「でも、泪って…意外なトコから来たな」
「はィな…俺もびッくりしました」
全部話して少しは落ちついたのか、ゆっくり紅茶を啜りながら、幽利はこくりと頷く。
同室で穴を使った自慰が男の通過儀礼とか、ゴシックが泪に掘られかけたとか、下手すりゃそのバイブが傑の手に渡りそうだったとか(幽利にしてくれてありがとう泪)、色々と突っ込みどころは満載な話だったけど、取り敢えず今はそれはどうでもいい。
なんで今日、幽利があんなにそわそわしまくってたのか。
その理由がようやく解った。
「…で、そのバイブは?」
「バックごと頂いたンで、そのまま奥の棚に…」
「ふーん」
空になった皿をフォークの先でかりかり引っ掻きながら、俺はちらりと上目遣いに正面の幽利を見上げた。全部喋って終わった気になってんのか、幽利はきょとんとした顔をしてる。
幽利は微妙だと思ってるみたいだけど、俺に言わせりゃ「同室での自慰」なんて浮気のうの字にも当て嵌まらない。
第一それが浮気なら、俺も幽利も2回は互いの恋人を裏切ってることになる。せっかく互いに気にいっててそれなりに肌も合うのに、偶のいちゃつきも出来ないなんて、そんな窮屈な性生活なんざごめんだ。
でもまぁ、幽利からはそんなこと言い出せないだろうし、こいつの場合はバレるとお仕置きって名目でちょっと苛められるくらいの俺と違って、一週間くらい監禁されかねない。
それに。
「旦那、どうか―――」
「幽利」
暢気に首を傾げる幽利の言葉を、俺は片手でシャツのボタンを外しながら遮った。
それに、俺にもプライドってもんがある。
性欲の権化みたいなどっかの純血種ならともかく、フェラもロクにされたことの無い“保守派”の幽利に、色事が専門の元男娼が誘われて堕とされるとか無しだろ、色んな意味で。
「ローションは?」
「え…?一緒に…小せェのが、確か…」
「さすが泪、解ってンな」
「っ…あの、旦那…」
恐る恐る、って感じでこっちの表情を覗って来る幽利に、俺は男娼時代、何度となく客を落として来た仕草で軽く首を傾げて見せた。
「早く持って来いよ。使うんだろ?」
「ッ……」
驚いたように肩を揺らした幽利の喉が、小さくこくりと鳴る。
そろりと俺を見上げるその顔は、でもまだ戸惑いが半分覗いていて、それをヤらしい好奇心一色に染めてやる為に、追い打ちの囁きを一言。
「…俺と一緒に」
話を聞いて予想してたのより一回りキモかったバックごとバイブを受け取って、俺はデスクに上半身を預けるような体勢にさせた幽利の背後に回り込んだ。
手間をかけさせるわけには、って幽利らしい言葉はキスで塞いで黙らせて、俺が言った通りにぺたんとデスクの上に頬をつけてる背中に覆いかぶさる。
「っだ、旦那…てめェで脱ぎ、ますから…!」
後ろから手を回してチャックを下ろしてく俺の手に、幽利が慌てて上体を起こそうとするけど、せっかくの愉しみを放棄する気なんてさらさら無い。
いいから大人しくしてろ、って意味を込めて乱暴にならない程度に片手で頭を押さえ付けてやると、幽利はぴたりと抵抗を止めて胸とデスクとの間に俺の手が通るくらいの隙間を開けてくれた。
やっぱこういう扱いの方が興奮すんのかな。幽利ドMだし。
「ほら、腕」
「は…はィな…っ」
腰までチャックを下ろした作業着の襟を軽く引いて、幽利が自分で袖から腕を抜いた作業着を上半身だけ脱がす。ベルトも通して無いから放っとくとそのまま全部脱げそうで、取り敢えず俺の腰を押し当てて腰元で止めると、生傷だらけの幽利の背中がひくんと震えた。
「やっぱ、“視え”てても実際当てられると興奮する?」
「しま、す…俺、なんか相手に興奮、してくれてンだって…ッあぁ!」
「…“なんか”?」
肌を滑らせた手に素直に震えながらの言葉は凄くクるけど、その台詞は余計だ。
低めた声で言いながら幽利の乳首に爪を立てた指に少し力を込めると、今まで何回も何回も止めろって言ってるのに、ちっとも自分を卑下するような言い方が治らない幽利がそろりと肩越しに俺を振り返る。
「そういう言い方すんな、って言ってるだろ」
「す、すいませ…でも…っ」
「……」
「ひぅ…ッごめ…ごめん、なさ…い…っ!」
「ったく…」
多分、また「俺なんかが旦那と」とか、「旦那みたいな人が俺なんかと」とか、そういう類のことを言おうとしてた幽利を爪を立てた乳首を軽く捻って黙らせながら、俺は溜息混じりに苦笑した。
確かに俺は元男娼のドがつく淫乱だけど、一銭にもならないのに気にくわねぇ奴と(本番無しでも)ヤりたいなんて思わない。こうやって前戯までする程度には幽利のことを気に入ってんだけど、それを解っててこれなんだろうな、幽利は。
「他の奴は別にいいけど、俺の前ではいい加減止めろよ。友達なんだから」
「……!」
薄く残った爪の痕を撫でながら何気なく囁いた言葉に、叱られてしゅんとしてた幽利が急にがばっと顔を上げた。
「どした?」
「旦那…」
思わず手を離してきょとんとその顔を見返した俺を、どこか呆然とした声で呼んだ幽利の唇が、俺の頬でちゅ、と小さな音を立てる。
正直、なにがなんだか頭の悪い俺にはよく解んねぇけど。
「し…したくなッちまって」
…元通りにデスクの上にぺたんとうつ伏せながらそんなことを言って、はにかむように笑われたりしたら。
「…幽利、指入れていい?」
「え?」
「俺もしたくなった」
我慢なんて効かない。
「っぁ…だ、んな…!」
「ごめん、ちょっと冷たい」
腰を離してずり落ちた作業着ごと下着も下げると、冷たい空気にか期待にか、小さく震えた幽利の背中にキスを落としながら、ローションで濡らした手を幽利の奥に滑らせる。
「旦那…ッそんくらい、なら…濡らして、くれりゃァ十分ですから…!」
泪のお下がりだけあって、それなりのゴツさがある双頭バイブを「そのくらい」って言える幽利は流石っつーか、やっぱ筋金入りのドMって感じだけど、俺に痛がってたり苦しんでる顔見て悦ぶ趣味は無い。
「だめ」
「あッ…ふ、ぁ…あ…ッっ」
わざと吐息がかかるような距離で囁きながら、追加でローションをたっぷり纏わせた指を幽利の中に埋める。ゆっくり動かしながらナカを探ってると、覚えのある感触と共に幽利の腰がびくりと跳ねた。
「…ここ?」
「あぅっ…そ、こは…ん、んぅッ…旦那…っ」
「もうちょっと緩い方がいい?」
見つけた前立腺を探る指先を撫でる程度の動きに変えながら、俺はわざとらしく首を傾げる。鬼利の相手をしてる幽利が、こんなもどかしい刺激で満足出来るわけ無いのは解ってるけど、せっかくだし幽利の口からねだって欲しい。
「このくらい?」
「ぁ、は…っも、……んン…ッ」
「はっきり言ってくれねぇと解んねぇって、幽利」
「ッ…ぅう…」
あんだけ舐めたり舐められたりしてるのにこっちは恥ずかしいのか、我ながらどっかの変態みたいに意地の悪い俺の言葉に、幽利は真っ赤になった顔を腕の合間に埋めながら小さく呻いた。
基礎の羞恥責めだけど、このくらいの方が逆に効くのを俺は身を持って知ってる。
「も…もっと、…」
「うん」
「つ…よく、して…くださ…ッ」
「…っ…」
赤くなった顔を少しだけ腕の合間から覗かせて、恥ずかしそうにか細い声で言う幽利のあまりのエロさに、思わずこくりと喉が鳴った。
…Sっ気あるのかな、俺。
「じゃあ…このくらい?」
「あぁッ…!は、はぃ…ぁっあ、あ…ッ!」
「こうやって、揺らされんの、とか…」
「ふぁ、あ…っは、ぃ…あぁあっッ」
2本の指で挟みこんだ前立腺を揺さぶるようにしながら、俺はがくがくと足を震わせてる幽利の背中に額を押し当てた。はぁ、と漏れた熱っぽい吐息に、幽利の背中が小さく跳ねる。
ヤバい。幽利にシてるだけで俺はベルトも抜いて無いのに、凄ぇ興奮して来た。
「なぁ、好き?これ…ゆーり、も」
「ひ、ぁあぁッ…す、き…好き、ですっ…は、はぁ…ッ!」
「ん…俺も、好きなんだ。こう、されるの」
幽利の背中に熱くなった額を預けながら、俺は自分のベルトに手をかけた。さすがに片手だと傑みたいにスムーズには行かずに、ちょっともたつきながらバックルを外したベルトを引き抜いて、窮屈なジーンズを膝の辺りまで引き下ろす。
「体位…何がいい?」
「え…あッ…」
「大体、何でも…んっ…でき、そうだけど」
中から抜いた手を前に回して先走りで濡れた幽利のモノを緩く扱きながら、反対の手で自分の奥にローションを垂らす俺を、両腕の間から顔を上げた幽利が肩越しに振り返った。
俺の体が邪魔で普通は見えない筈だけど、きっと幽利には全部“視”られてるんだろう。慌てたように手を伸ばそうとする幽利の、多分「俺がします」って言おうとした唇を、俺は少し乱暴にキスで塞いで自分の指先を埋めた。
別に幽利にされるのが嫌ってわけじゃない。不公平だってのは解ってるけど、 偉そうに誘っておきながらその声とか仕草に煽られて、幽利にシてもらうのを待ってる余裕が無い、なんて。
「んン、んッ…」
「ふぁ…っぁ、…!」
…カッコ悪くて言えないだろ。
残ってたローションを全部使って濡らした双頭バイブは、やたらリアルな肉の色をしてるのもあって、光の下で見るとかなりヤらしかった。
「な…ンか、凄ェですね…」
「まぁ、カルヴァの“娘”が使ったらしい、から」
床の上に寝かせた幽利がこくり、と喉を鳴らすのに小さく笑いながら、騎上位みたいにその上に覆いかぶさる格好の俺は、てらてら光る双頭バイブの片方を自分でおざなりに解した奥へと宛がった。ゆっくり根元まで埋めると、V字に曲げたバイブの台座が会陰を押し上げて来て、予想してなかった刺激に小さく喉が鳴る。
「ひっぅ…!」
「ぁ、旦那…俺、も…入れていい、ですか?」
「ぅん…っ」
幽利の下にある俺の服を握り締めて刺激に耐えながら頷くと、色っぽく唇をちろりと舐めた幽利の手が、曲がった双頭バイブのもう片方を自分の奥へと宛がった。
先っぽが入ったのを確認してぐ、と腰を動かすと、繋がったバイブの片方が幽利のナカを突き上げて、俺の下にいる幽利の体がびくりと跳ねる。
「んぁあッ!…だ、旦那…っ」
「はぁ…あ、ぁ…ッ!」
俺の悪戯に幽利が抗議するような声を上げるけど、俺にはそれに謝ってる余裕は無かった。
双頭バイブなんだから、幽利が感じて体を動かせばその動きはダイレクトに俺にも伝わる。それは覚悟してたけど、この双頭バイブにはもう1つの効果があったことを、完全に忘れてた。
「な、なか…んぅッ…うご、いて…!」
幽利の方に圧力が加わるのに連動して、蛇みたいな動きでぐねぐねとナカを抉りだしたバイブに、床に突いた両腕が震える。角度が角度だから腰が跳ねそうになるのはなんとか耐えたけど、締めつけの方は自分じゃどうしようもない。
「ひッ…ぁ、あっあぁあッ…!」
「ゆー…り、…はっぁ、んぅう…ッっ」
案の定、俺の締めつけに反応して幽利の方のバイブも動き出したみたいで、その締めつけに反応した俺の方のバイブの動きも、さっきよりも激しくなる。人間じゃ有り得ない動きでナカの性感帯を擦りあげられて、耐え切れずに俺はさっきからガン勃ちで先走りを零してた自分のモノを、幽利のに擦りつけた。
「あぁっ、だ…んなッ…はぁ、あぁあっ…!」
「っん、さわ…って…、ふぁ…ぃっしょ、に…!」
幽利の肩口に顔を埋めながら喘ぎ声の合間にねだるとまたバイブの動きが強くなって、今まではなんとか動かさないようにしてた腰が小さく跳ねる。
「んぁあ…ッ!」
「ひぅッあぁ、あ…っ!」
連動したバイブにぐち、と卑猥な水音を立てて小さく突き上げられた幽利の手が、そろそろと触れようとしてた俺と自分のモノを急にきゅっと握り締めて来て、ナカの刺激と相まってぐっと増した射精感を、奥歯を噛み締めてなんとか堪えた。
俺が感じた快感がバイブを伝わって幽利を犯して、幽利の快感が俺を犯してる。バイブを挟んで互いが互いを犯してるような、こんなの俺も初体験だ。
「だ、んな…の、すげ…あふ、れて…は、ぁ…は…!」
「ゆーり、だって…ッあ、ぁ…な、きもちい…っ?」
「っい…いい、です…ッは、はぁっ…も、イっちまい、そォな…くらい…ッっ」
「ん、…俺も…っ」
はぁはぁと息を荒くした幽利の指先に、2人分の先走りでぐっしょり濡れた先端を促すように擦られて、俺はずっと体重を支えてて震える片手を下肢に伸ばした。腕一本で体重を支えなきゃなんねぇからちょっとキツい体勢だけど、構ってられるか。
「ぁ、はっ…すげ、ゆーり…ッびくびく、して…んんッっ」
「ふぁあッ…そ、な…つよ、く…ッあ、あぁ!」
幽利の手の上に重ねてくっつけたモノをまとめて扱くと、ふるりと体を震わせた幽利のモノからこぷ、と先走りが雫になって溢れて来る。強く俺のナカを掻き乱し続けてるバイブからもイきそうなんだってのが伝わって来て、手の動きはそのままに、俺は意識してナカを強く締めつけた。
「ひぁあッぁ、イ…い、ッちま…だん、なァ…っ!」
「いーよ、おれ…も…ッ」
「あ、ぁっあ…ッあぁああ!」
「ひっあぁああ…ッ!」
縋るような幽利の声にその首筋にキスしながら頷くと、甘い悲鳴を上げた幽利の精液がどくりと俺の手を濡らして、イった瞬間の強い締めつけに反応して大きく蠢いたバイブに、俺も一拍遅れて幽利の下腹を白濁で汚した。
「あ…ッ…ぁ…」
「はぁ…は…っ」
イった後も余韻にまで律儀に反応して小さく蠢くバイブをずるりと引き抜いて、俺はどさりと幽利の体の上に倒れ込む。刺激だけならそうでも無い筈なのに、繋がってお互いに犯し合うってシチュエーションが新鮮で、なんかもう、色々と凄かった。
「なンか…凄かッたですねェ、アレ」
「…うん」
俺と同じように感じててくれたのか、照れたように笑いながらそう言う幽利に小さく頷いて、俺は気だるい体を起こした。
幽利が手渡してくれたシャツを羽織りながら、さっきまであれだけナカで暴れ回ってたのが嘘みたいに、床の上に転がってる双頭バイブをちらりと一瞥する。
今まで色んなオモチャを使ったし使われて来たけど、アレは、あんなの俺も今まで経験したこと無い。俺が無いんだから幽利は勿論で、シャツのボタンをもそもそ留めながら、俺と同じようにさり気なくバイブから視線を反らしてる幽利に脱ぎ捨ててあった作業着を渡す。
「なぁ、アレさ…また奥に、隠しておいて貰ってもいい?」
「…ッ…」
30分前、俺が武器庫に入って来た時の幽利と同じように、上目遣いにその表情を覗いながらぽつりと言った俺に、作業着のチャックを上げようとしてた幽利の手がぴたりと止まった。
「…誰にも、見つからねェようにしときます」
「…うん」
どこかそわそわとした様子で体を寄せ合っている2人を眺めていた傑は、まるで初体験を済ませたばかりの学生のようなその反応に、画面の前で小さく笑った。
「今更恥じらうような柄かよ」
「…お互い、“羞恥”という感情についてもう一度教育し直す必要がありそうだね」
手元の書類から視線は外さないまま、鬼利はつまらなさそうな口調でそう言って、傍らのキーボードに指先を滑らせる。
華奢な指がタン、とエンターキーを叩くのと同時に切り替わった画面には、先程まで傑と鬼利の可愛い可愛い恋人達が使っていた双頭バイブの画像が、商品の詳細な説明文と通販コードと共に映し出されていた。
「へぇ…同じ動きじゃねぇんだな」
「片方は蠕動運動、もう片方は振動らしいね。どちらも一方にかかる圧力に応じて強くなるみたいだよ」
「多分、悦が蠕動の方に当たったンだろうな。腰の動き的に」
「…違いがあるの?」
「見りゃ解ンだろ」
当然のように即答し、いつものように鬼利の執務卓に腰掛けていた傑は、自分の方に向けていた画面を片手でくい、と鬼利の方に戻した。カタカタと滑らかな動きで操作された画面が、再び武器庫の監視カメラの映像に切り替わる。
「そーいや、お前した?」
「何を」
「お仕置き。この前の」
「して無いよ。今度は悦の番だ、って言ったのはお前じゃなかった?」
「んー」
背中を向けたままやる気の無い声を出す傑を、鬼利は万年筆を持ち上げながらちらりと一瞥した。恋人を泣かせることに至上の悦びを見出すこの鬼畜が、まさか悦を虐める口実を得ながら何もせず、大人しくしていたのだろうか。
「どういう風の吹きまわし?」
「なーんかつまんねぇな、と思って。どうせなら最大限に利用したいだろ?」
「…成る程」
傑の言葉に主語は無かったが、それを聞いた鬼利は何もかも理解したように頷く。
互いに察しのいい2人の会話には基本的に主語は必要とされないが、この話題では尚更のことだった。鬼畜だ外道だサディストだと互いを罵りはするが、結局は恋人を悦ばせることに一生懸命なだけの、とても誠実で健気な男であるという点は同じだということを、2人はお互いによーく解っている。
「別に構わないけど」
「あぁ、勿論」
「ショックを受けるんじゃない?」
「愉しけりゃいいだろ」
「…卒倒するだろうね」
「かもな」
傍らで聞く者があっても何のことか想像もつかない、公共良俗の観点から見て何の問題も無い会話で何かしらの良からぬ計画を立てた2人は、互いに一度だけ視線を交わし、
「…よくやるよな」
「お互いにね」
「まぁな」
微かに笑った。
Fin.
受け子ズにゃんにゃん第3弾!
今回は、前々から使ってみたいなーでもどうやって使おうかなー、と考えていた双頭バイブでにゃんにゃんさせてみました。
擦りあいっこや舐めあいっこから、これでまた1つステップアップ!(悪い意味で!)
…もうここまで来たら、普通にヤっちゃっても変わらないような気もしないでも無い。
