不純交友



 汚いことの方が面白いように出来てる。
 綺麗なものが愉しいか?
 取り繕って何になる。
 お前に度胸が無いんなら

 俺が芯まで汚してやるよ。










 甘い声と卑猥な水音に麻痺しかかってた鼓膜が辛うじて捉えた微かなチャイムの音に、俺は慌てて傑の肩を押し退けた。

「…ッな、にすんだよ!」
「キス」

 ンなこと言われなくたって解ってるんだよ馬鹿野郎。
 椅子から立ち上がりながら口元を拭う俺に、ネクタイもシャツのボタンもブレザーの着方もベルトも校則に激しく違反した傑はくすりと笑う。

 そう、制服。今俺達がいるのは学校で、それも俺の教室だ。俺達以外はもう誰もいないとはいえ、そんな場所でいきなり(高校生にはまるで相応しく無いような)キスをかましてくるなんて、頭のネジが5、6本飛んでるとしか思えない。


「馬鹿、誰かに見られたら…ッ」
「開かねぇよ」
「は?」

 理科室や音楽室でもない、普通の教室に鍵なんて勿論ついちゃいない。どういうことだと眉を顰める俺に、傑は椅子から立ち上がって壁側の真中、丁度2つの扉についた窓から死角になる場所の机に腰掛けながら笑った。

「バールでも持ち出されたら終わりだけどな。ガキの力じゃ開かねぇよ」
「だからって、なんでこんな場所でだよ!家…帰ってからでも、いいだろ…っ」
「悦」

 机の上に広げてた宿題と筆箱を鞄に突っ込んで帰り支度をする俺を、傑が甘ったるい声で呼ぶ。
 俺より1つ年上ってだけなのに、どうしてコイツはこんなに男らしく色っぽい声を出せるんだろう。挨拶だけで傑と同じ3年の女が失神したなんて勿論嘘だろうけど、この声は卑怯だ。逆らえなくなる。

「…なに」
「ヤらせて」
「ッ…だから!」
「いつもみたいにアンアン鳴かなけりゃバレねぇよ。ここなら外から見えないし、誰も入って来ない」

 囁くように言いながら、傑は目の前に立った俺の髪にするりと手を差し入れた。傑に染めて貰った蜂蜜色の髪が視界の端にちらちら映って、ついでに髪染めの染料が馴染むまでの間傑に散々色んな所を弄られた記憶まで蘇る。

 
「顔真っ赤」
「…るっせぇ」
「これじゃ家までもたねぇだろ?」


 街を歩けばモデルだホストだ芸能人だってスカウトされるような面に、近場って理由だけで国立大を狙えるだけの頭。帰宅部だけど運動神経だって並みはずれてる。こんなに完璧なのに、傑の性癖は真性のド変態だ。まだ高3のガキのクセして。

 仲間内じゃ仲のいい先輩後輩で通ってるけど、愛してるって囁かれたり抱きしめられてキスされたりセックスするような先輩後輩なんていない。いて堪るか。俺達がそうだけど。
 しかも男同士、バレたら大変なことになるのに。いや多分なにがあっても傑がなんとかはしてくれるんだろうけど。でもここは学校で、俺の教室で、明日もここで授業…

 …あぁ、今日は金曜日だった。


「…停学食らったらどーすんだよ、受験生」
「推薦なんて最初っから狙ってねぇよ。それに、」

 まずバレたら停学云々じゃ済まないんだけど、傑は涼しい顔して俺のネクタイを抜き取った。


「…それに?」
「校則で禁止してンのは、不純異性間交友だけ」


 …成る程。










「あ、はぁッ…ん、…あっ」

 シャツの上から嫌ってほど擦られた乳首を直に指先に弾かれて、俺は壁に縋った体をびくりと震わせた。
 スラックスも下着も下ろされてシャツ1枚にされた俺はいつ誰が来るか気が気じゃ無いのに、傑の手つきはいつも通り、後ろから抱いた俺の首筋にキスを落としながら腰が砕けそうな愛撫をしてくる。


「も、傑…ッぁ、…は、やく…ッ」
「積極的だな」
「ちがっ…だれ、か…来たら…!」

 壁についた手を握り締めて扉を見る俺に、首元に顔を埋めた傑が下半身に響く低音でくすくす笑った。するりとシャツの下で肌を滑った手が、さっきから大変なことになってる俺のモノの先端をヤらしい手つきで握り込む。

「あぁッ…、ん…んんぅう…っ」
「…いつもより濡れてる」

 
 嫌になるくらい甘い自分の嬌声を慌てて噛み殺す俺に、傑は意地悪く囁きながらわざと大きく水音が立つように手を動かした。先端の敏感な粘膜を掌全体を使って捏ねるようにされて、背筋を突き抜ける快感とぐちゅぐちゅって水音に一気に顔が熱くなる。


「興奮してるんだろ?恥ずかしいコト大好きだもんな」
「ッちが、誰が…んンッ…!」
「違わねぇだろ、淫乱」

 多分、さっきよりも真っ赤になってる顔を傑から背けて首を振ると、傑は指先でカリを擽りながら愉しげに笑って俺の耳をかぷりと甘噛みした。
 酷い言葉の筈なのに、傑の声で言われるとそれすら睦言に聞こえるんだから最悪だ。傑に会ってから俺の色んな所が汚されていってる気がする。それも凄い勢いで。

「悦。足もっと開いて」
「って…ふ、ぅ…ッズボン、が…」
「靴脱げよ。抑えてるから」

 溢れる先走りを掬い取るようにしながら、傑は俺の足首に纏わりついたままだったスラックスを踏んで抑えた。じんじん甘い痺れの走る下半身は感覚が鈍くて、俺はもたつきながらも言われた通りに靴を脱いでスラックスから片足を抜く。
 別にシて欲しいってわけじゃない、こうしないと傑が終わらせてくれないからしょうがなく、だ。


「シャツに靴下だけってヤらしいな」
「黙ってろ変態ッ…んぁ!」

 スケベ親父みたいなことを言いだした傑を肩越しに振り返って怒鳴りつけた瞬間、完全に気を抜いてた奥に俺の先走りで濡れた傑の指がずるりと入り込む。
 不意を突かれて漏れた嬌声に片手で口を抑えながら傑を睨みつけるけど、覚えこまされた中のイイトコロを撫でられればそんな余裕も無く、震える片腕で壁に縋りついた。

「んぅ、うぅ…んっ…ふぅ、ン…ッ」

 ローションが無い所為で最初こそ少し苦しかったけど、傑に調教された体はすぐにそれにも慣れて前立腺を押し上げられる度にがくがくと足が震える。
 かなりスムーズに動くようになった最初の指に2本目が添えられて、それからすぐに3本目も。


「ふ、ふぅんん…ッ!ん、ぅっ…うぅう…ッ」
「いい?」

 いつもはそんなこと聞かずに突っ込む癖に、今日に限ってお伺いを立ててきやがる傑に俺はシャツの袖を噛みながらこくこくと頷いた。俺のイイトコロを知り尽くした傑にそこを微妙に掠めたり擽られたりしながら解されて、じれったいような甘い疼きがさっきから止まらない。

 ひたりと指を抜かれた奥に宛がわれた熱い傑のモノに、力を抜こうと深呼吸なんてしてた俺は多分、その時までここが学校だってことを完全に忘れてた。


 タン、タン、タン、


「ッ……!」

 階段を上ってくる1人分の足音に、びくりと大げさなくらいに跳ね上がった体が強張る。
 この教室は階段を上って、無駄に広い踊り場のすぐ隣だ。この階にあるどこの教室に行くにしても、必ずこの教室の前を通る。

「傑…誰か、…んぅ゛うッ!?」

 慌ててシャツの袖に噛みついたけど、いきなり奥まで突っ込まれた嬌声は完全には殺しきれなかった。足音はゆっくりだけど近付いてる。廊下と教室を隔てる壁が凄く頼りないものに見えて、俺はシャツを噛んだ上から口を手で強く押さえた。


「…静かにしてろよ」
「んんッ…!ん、ぅう…っ…ふ、…ッ!」

 ふざけンなって叫んでやりたくても、近づいて来る足音の所為で声が出せない。肩越しに振り返って止めろと視線で訴える俺に、傑は最高にヤらしくて意地悪な笑みを浮かべて見せながら、ゆっくりと引き抜いたモノを一気に奥まで叩き込んだ。

「んッ…ぅ、…っ…ん、ん…!」

 タン、タン、…タン。

 こんな所見られたら色んな意味で終わりだ。そんなのは俺だけじゃなくて傑も一緒なのに、気付かれないよう必死に声を押し殺す俺を嘲笑うように傑はカリでごりごりと俺の前立腺を押し上げる。

 そんな、そこ、そんな風に…されたら、声…ッ


「んー…っ!…ふ、…んぅ…ッ」

 嫌だ、って首を横に振るけど傑は俺を責める手を少しも緩めずに、俺が感じる所ばかりをピンポイントで抉った。腰から下の感覚が消えうせるくらい何度も前立腺を擦りあげて、苦しいくらい深くまで突き入れたモノをゆっくりと引き出しては、内壁を掻き混ぜるように腰を使う。

 タン、タン、タン…

 そのまま上の階に行ってくれればいいのに、階段を上りきった“誰か”の足音は確実にこっちに近づいて来ていた。少し声を漏らせば気付かれるような距離まで。なのに傑には相変わらず少しの容赦もせずに俺の一番の性感帯をじっくり苛められて、声を出しちゃいけないと思うほど頭を一杯にする快感に叫び出したくなる。

「ふ、ふぅ…ッ…ぅうぅ…っッ」

 声を出さずにいるのがこんなに辛いなんて思わなかった。声に出せない分だけ与えられる快感がそのまま体の中に溜まっていくようで、緊張と恐怖に強張った体が熱を持て余してびくびく震える。


 あぁあッ…イク、ッ…もう、声…我慢…できな…っ


 タン、タン、…タン。

「ッ…!」

 耐えきれないような射精感に噛んでいたシャツを離しかけた瞬間、壁一枚隔てて廊下を歩いていた足音が止まった。


 ガタ、…ガタタッ


 傑が細工をした扉をガタガタ動かす音に、今度こそ呼吸が止まる。扉についた窓から見えないよう、そろそろと壁に張り付くようにして強張った体を移動させた俺に、さすがにこの距離はヤバいと思ったのか、傑は壁に張り付いた俺を抱くようにしてその場に座り込んだ。
 そりゃそうだ、なんだかんだ言ったって傑だってバレたらタダじゃ済まない。


『…あれ?』


 開かない扉に、“誰か”が不満そうな声を出すのが聞こえる。傑に後ろから抱きしめられるような形で息を殺しながら、俺は思わず腰に回された傑の腕をぎゅっと握った。

 モノは入ったままだけど、さすがにこの状況じゃ何も出来ない、だろうと思ってたのに。

「ッ…な、…!」
「なァ悦。俺、前の扉にもちゃんと細工したっけ」

 縋りついた腕に不意に両手首を一纏めに握られて、咄嗟に抵抗しかけた俺の耳元に後ろの傑が囁いた。
 後ろの扉が開かないなら、普通は前の扉に行く。“誰か”も勿論そうで、足音がゆっくりと廊下を進んでいくのが聞こえる。

 その足音が丁度壁越しに俺達の真後ろを横切った辺りで、まさか、と体を強張らせた俺をいいことに不意に傑の手が萎えかけてた俺のモノを握り込んだ。


「んッ…!んんッ…!!」
「…静かに」

 手から逃れようともがく俺にとんでもなく理不尽なことを囁いて、傑は消化不良な俺のモノの先端をくりくりと指先で撫でる。散々熱を溜めこんだそれは的確な愛撫にあっという間に硬さを取り戻して、俺が特に弱い尿道口を爪でひっかくようにかりかりされたり、指で作った輪の中でサオの半ばからカリまでをくちゅくちゅと扱かれると、気持ちよ過ぎて頭が真っ白になった。


 ガタ、ガタタッ…ゴトッ。

『なんなんだよ…』


 廊下を横切った“誰か”が、今度は前の扉をがたがたと鳴らす。でも、イくのを堪えるので必死な俺には前の方もちゃんと開かないようにしてあった、ってことにホッとする余裕なんて無かった。

「ふ、…っッ…、…ッ…!」

 イったら絶対声を我慢できない、声出したら気付かれる、必死に足を閉じようとしても傑の足は器用にそれをこじ開けて、邪魔をしたお仕置きとばかりに濡れた手でタマをきゅっと握られた。急所を握られて暴れるのを止めれば今度は中のしこりを転がすようにそこを揉みこまれて、苦しいくらいの快感と、同級生と扉一枚隔ててこんなことしてるって状況にどうしたらいいのか解らなくなる。


「ぅ…ふ、…ッ…ぅ、…っッ…!」

 パニくった所為で涙まで溢れて来て、掌全体を使って先っぽをくちゅくちゅ撫でまわされるのにびくびく体を震わせながら、俺はひたすら“誰か”が諦めて早く帰ってくれることを願った。


 ガタタ…ドンッ。

『くっそ…』

 その俺の願いが通じたのか、“誰か”は最後に開かない扉を強く蹴りつけて、来た時よりも少し足早に階段の方まで戻って行った。
 階段を下りる音がゆっくりと遠ざかって、元通りに静かになった教室に俺の荒い息使いだけが響く。


「…根性ねぇ奴だな。もう少しで開いたのに」

 何も音が聞こえなくなってもじっと息を殺してた俺は、笑い混じりの傑の声でようやく我に返った。

「ッお前…!」
「ちゃんと声、我慢出来たな」

 もう…もう、なんだってんだこの男。
 俺がバレないようにって必死になってたってのにこの余裕。俺がちゃんと我慢できなかったらどうするつもりだったんだって問い詰めてやりたい、いやその前にどてっぱらに一発決めたい。


「も、抜け…ッ帰る…!」
「怒ンなって」

 どこの世界にあんな真似されて怒らない奴がいるんだよ。力の抜けた傑の腕を乱暴に払いのけて傑の上から立ち上がろうとした俺の体は、でもすぐに傑の長い腕に肩口を抱き込まれて強制的に引き戻された。

「あぅッ……てめっ…!」
「感じてたんだろ?」

 抜けかかってたモノにまた奥まで突かれて、咄嗟に嬌声が口をつく。いい加減にしろと拳を固めれば、それを見計らったようなタイミングの良さでまた、あの卑怯な声で傑が囁いた。

「ドアが鳴る度にきゅうきゅう締めつけてたもんな。ここもずっと漏らしっぱなしで」
「ッんん…!そ、れは…っ」
「変態はお前じゃねぇか。見られたら、って想像してたんだろ?」
「ぁッ…傑…!」


 くすくすと低い声で笑う傑にひょいと抱えられて、片足を持ち上げられた不安定な体制に傑のカタいモノがずず、と奥まで入り込んでくる。
 また壁に縋るような格好で貫かれて、ぶり返して来た熱が下腹を重く焦がした。もう2回も中途半端な所でお預けを食らって、ヤりたい盛りの俺の下半身は正直限界。爆発しそうな性欲の前に、傑への怒りも霞んでいく。


「ッぁ、あ…!すぐ、る…そこっ…ゃ、…あぁ…ッ」
「イけよ。もう俺以外聞いてない」
「ふ、ぅうっ…、って…声、…が…っ」

 散々責め立てられてじんじん疼く前立腺を容赦なく擦りあげられると堪らなくて、壁に爪を立てながら俺はがくがくと体を震わせた。イきたい。イきたいけど、イったら絶対に声を我慢出来ない。


「じゃあ俺が塞いでやるから」
「え、?…んっ!…ん、んン…っッ」

 俺の腰を支えてた腕にくいっと顎を掴まれて後ろを向かされた俺の口を、傑が言葉通りに自分の唇で塞いだ。

「んーッ…ん、んっ…んふ、ぅ…っ!」

 セックスもそうだけど傑はキスも上手い。学校で節操の欠片も無く俺を盛らせたあのキスをされて極限状態の俺が我慢できる筈も無く、舌をキツく吸い上げられながら同時に前立腺を強く抉られて、俺は堪え切れずに素早く回された傑の手の中に精液を吐き出した。


「ん、ふぁっ…ぁ…?」
「っ…ん、」

 そのまま傑もイくと思ったのに、何故か傑はいきなり中からモノを引き抜くと、俺の精液で汚れた手でガチガチに臨戦態勢の凶悪なモノを数回扱く。溢れた精液は傑の手に当たって、ぼたぼたと掃除係が磨いた教室のフローリングの上に零れた。

 赤ちゃんが出来る心配も無いから、俺は今まで傑に外出しなんてされたこと無い。なんで、って気持ちで傑を見上げると、ふぅと息を吐いた傑は汚れてない方の手で俺の髪を梳いて、少し困ったように笑った。


「帰るの大変だろ?」
「ぁ…うん…」

 …そうだ、ここ学校だった。
 確かに中に注がれたまんまでここから家に帰るなんて酷い羞恥プレイだ。プレイなんてもんじゃない、苦行って言ってもいい。

「あーあ、床…」
「服着てろ。やっとく」

 2人分の精液で酷いことになった床を見下ろして溜息を吐いた俺にそう言って、いつの間にか身なりを整えていた傑は俺の頬に触れるだけのキスを落とすと、さっき“誰か”が何をやっても開かなかった扉をあっさりと開けて出て行った。
 多分、手を洗いに行ったんだろう。傑の手、俺と傑のでめちゃくちゃに…

 …そういえば、傑が自分で扱いてる所なんて初めて見た。しかも傑の手は俺の精液でべたべたで、傑のが俺ので、


「ッ……」

 思い出しただけでぶり返しそうになる卑猥な光景を、俺は慌てて頭から追い払って床から拾い上げた下着とスラックスに脚を通した。

 もう一回、なんて洒落になんねぇ。傑相手なら尚更だ。










「…バレねぇかな、匂いとか」
「バレるだろ」

 傑が床を拭いたトイレットペーパーをトイレに流すのを横目にしながら言った俺に、傑はあっさりと即答する。
 床は傑がトイレから持ち込んだトイレットペーパーで綺麗に拭いて窓も扉も開けて来たけど、あと1時間もすれば警備員さんが見回りに来る筈だ。確かに、バレないわけない。


「なんで学校なんだよ…」
「面白そうだったから」

 傑の後についてトイレを出ながらげんなりとぼやいた俺に、またしても変態野郎はあっさりと即答しやがった。真面目な奴ばっかりで校則も厳しいこの学校では、カップルが舌入れてキスするだけで指導室行きになる。そんな学校で、よりにもよって教室で誰かがヤったなんて知れたら大騒ぎになることくらい解ってるだろうに、コイツには罪悪感ってのがまるで無いらしい。やっぱり頭がイカれてる。


「愉しめて良かったな、このド変態」
「いや、俺はあんまり」
「…あぁ?」

 こいつ俺をあんな目に合わせて置きながら何言ってやがるんだいい加減ぶん殴るぞ。…って目をして、実際に拳を固めながら睨み上げれば、傑は軽く肩を竦めて筆箱が入ってるのかも怪しいくらい薄っぺらい指定の鞄を肩にかつぎあげた。


「悦の反応見てンのは結構キたけど、いくらノっても学校じゃ発散出来ねぇだろ?後始末も面倒だし。外出しって嫌いなんだよ、俺」
「…あれで満足できねぇとかどんだけだよお前」

 最後の言葉に頷きそうになったのを辛うじて堪えて、見下したように鼻を鳴らしてみせると、傑は階段を降りながら「いや俺じゃ無くて」と首を振る。

「お前が。…あんなんじゃ満足できねーだろ?」
「…は?」
「客によさそうなトコ教えて貰ったんだけどさ。硝子張りで夜景が綺麗なトコと、スクリーンでゲーム出来るトコとどっちがいい?」


 傑がバイトしてるバーの客が教える『よさそうなトコ』は、つまりそういうホテルのことだ。しかもかなり高級で、高校生なんて滅多に行けないような。
 学校で、しかも同級生に見られるかもしれないって状況でヤられた怒りは勿論収まっちゃいない。でも、…でも確かに、最後にあんなの見せられたら。


「気が乗らねぇならいいけど」
「……」

 階段を降り切った先の玄関ホールで、2年の裏側にある3年の下駄箱に向かいながら傑がちらりと振り返った。
 最低な男だ。綺麗な顔で、声がよくて、1つ上とは思えないくらい色々と大人で、そういう自分の魅力を知り尽くしてて、それで簡単に人を掌で転がす。高校生とは思えないテクで抵抗出来ないようにさせてから、後で俺が大変な目に会うかもしれないのに学校でヤりだすような、最低な変態だ。

 でも、


「…スクリーンって、どんくらい?」


 …でも、残念ながらその最低な傑に、俺は惚れてる。



 Fin.



No.299「夜良」様リクエスト
『悦の声我慢でにゃんにゃん』
より、バカップル学生パロディです。

以前、チャットでちょろっと書いたバカップルで悦が声を我慢する小話を書いたのですが、それに派生してこのように素敵なリクエストを頂いてしまいました!
喘ぎ声が無い分、書くのは難しいのですが私自身「声を堪える」シチュが大好きなもので…
滾って書かせて頂きました。
少しでもご期待に添える仕上がりであればいいのですが。

夜良様、リクエストありがとうございました!


Anniversary