背徳グリム



 むかしむかし、あるところに悦という少年というか青年(?)がいました。
 しかし彼の名前は何と言うか聞きようによっては結構キワドい感じだったので、多感な思春期のお友達によからぬ言葉を連想させないよう、強制で被せられていた頭巾から強引に「赤頭巾ちゃん」と呼ばれていました。

 20を超えた野郎に赤頭巾ちゃんは無いだろうと悦は思っていましたが、彼の母親代わりのカルヴァさんは、真性のロリショタから成人の赤ちゃんプレイまでどんとこいなストライクゾーンの広い方でしたので、放って置かれていました。

 まァそれから何やかんやありまして、赤頭巾ちゃんはダルいことに村外れに居るおばあさんにお届けものをしなくてはいけなくなり、お母様の振るう薔薇鞭に追われて家を出たのでした。










 木漏れ日が差し込む森に、ちゅんちゅんと小鳥さん達の楽しげな鳴き声が響き渡ります。
 森の中を伸びる小道をバスケット片手にてくてく進みながら、赤頭巾ちゃんはのどかに差し込む木漏れ日や戯れる小鳥さんを横目に、心の底からダルそうな声で、

「…ウザ」


 …”世界の掃き溜め”と呼ばれる地下街で生まれ育った赤頭巾ちゃんには、天然の日光と録音でない小鳥のさえずりは少々お気に召さなかったようです。

 そんなわけで少々ガラの悪い赤頭巾ちゃんでしたが、お使いくらいはキチンとやらないとお家に帰った時にナニをナニされるか解ったものじゃないので、真っ赤なぶどう酒とふわふわの白いパンが入ったバスケット片手に、森の中の一本道を歩いて行きました。

「…っつーか病人に酒飲ませていいのかよ」





 赤頭巾ちゃんが自分のお見舞い品に冷静に突っ込みを入れている頃、狼さんはその様子をちょっと離れた所から見ていました。
 狼さんには住民登録の関係上ちゃんと傑という個体名がありましたが、狼さんは状況によって様々な意味合いで、主に下半身が狼さんでしたので、ここでは狼さんとします。

 さてその狼さんはと言いますと、その頃には森の目ぼしい生き物は種族雄雌問わず食い尽くしていたので、ここらで口直しもいいかなと赤頭巾ちゃんを眺めておりました。

「へェ…人間にしてはなかなか…」

 真っ赤な頭巾から覗く首筋は白く、太腿などもふっくらとしていていかにも美味しそう。腕や足首のあたりは少々筋張っていそうですが、よく煮込めばその辺も食えないことは無いでしょうし、なかなか抱きごこちも良さそうです。


「…今日のエサはアレにするか」

 赤頭巾ちゃんを2つの意味で美味しそうだと判断した狼さんは、そう言うとくくッと低く笑って目を細めました。





 そんなこととはつゆ知らず、こちらは赤頭巾ちゃん。
 周りは木立が開けて綺麗なお花畑が一面に広がっていましたが、コンクリートジャングルでジャックナイフ片手に育った赤頭巾ちゃんは、綺麗なお花を見ても特に何の感想を抱くことも無く、素通りしようとしていました。
 …ですが、


「…誰アンタ」
「狼サン」

 突然、目の前に狼らしき耳と尻尾を生やしたアブない趣味の男が出現したので、仕方なく立ち止まりました。

「……何の用デスカ」
「別に用って程じゃ無いんだけどさ」

 じと眼で睨みつける赤頭巾ちゃんにも素知らぬふりで笑いかけながら、軟派な狼さんは軽い足取りで近寄ると、まるで恋人に口付けするような素振りで赤頭巾ちゃんの耳元に唇を近づけて囁きます。
「こっから先、軍警が検問張っててさ?アンタのそのスカートの下…ヤバくねェかなって思って」
「…マジ?」

 耳元でこっそりと囁かれた情報に、赤頭巾ちゃんは咄嗟にスカートの上から左の腿に軽く触れました。狼さんの言うとおり、赤頭巾ちゃんのスカートからチラリズムの内腿には違法改造された銃が隠されていたのです。見つかったらただでは済みません。

 思わず狼さんに体を寄せ、自分よりちょっと高い位置にある肩口からその後ろの道を覗こうとした赤頭巾ちゃんは、そこでようやくはたと気づいて狼さんを力いっぱい蹴り飛ばしました。
 牽制とかいうレベルではなく、最早それだけで人を殺傷できそうな威力の蹴りを狼さんはモロに鳩尾に食らいましたが、相当丈夫であるらしくちょっと咳き込むだけでした。


「…てめぇ、何で知ってンだよこれのこと」
「何でって…」

 蹴られた場所についた泥を払いながら、狼さんは困ったように苦笑して赤頭巾ちゃんの足を指差します。

「歩く度に丸見えだけど?」
「…え」
「え、じゃなくて。アンタ自分がスカート履いてんだって忘れてンだろ?」

 そういえばそうでした。今日はお母様の言い付けで膝上のスカートを履いていたことを、赤頭巾ちゃんはすっかり忘れていつも通りの歩幅で歩いていたのです。丸見えで当然です。

「ごめん…痛かった、よな?」
「……。それより、アンタちゃんと抜け道知ってる?」
「抜け道?」
「1人でも見つかると範囲広げられっから面倒なんだよ。知らねぇならついて来な、教えてやるから」

 狼さんに視線で花畑の奥を示されて、赤頭巾ちゃんは少しだけ迷いました。神様より怖いお母様の「寄り道はしちゃダメよ?」という言葉を思い出したのです。

「…来ねーの?」
「あ、…いや、行く…」

 狼さんに言われて、赤頭巾ちゃんは慌てて頷きました。検問を抜けないとおばあさんの家にはたどり着けないので、これは寄り道ではないはずと自分に言い聞かせながら。

 おっかないお母様の笑顔を必死で振り払おうとする赤頭巾ちゃんに、狼さんの意味深な笑みは見えていません。










「ふーん…じゃあそのおばーさんにソレ届に行く最中なワケ」
「うん。婆さんって言っても男だけど」
「…じゃあ爺さん?」
「いや、俺とタメ」
「……じゃあなんでおばーさん?」
「知らねぇよそんなの。掟とかじゃねーの?」
「…ふーん」

 薄暗い森の中を歩きながら、狼さんは適当な赤頭巾ちゃんの話に適当に相槌を打っていました。
 赤頭巾ちゃんの話に色々と疑問は残るものの、細かいことには拘らない狼さんは、さり気なく行く先を森の深い所から赤頭巾ちゃんの目的地へと変えました。

「…ここまで来れば大丈夫だと思うけど。ソレ、今度はちゃんと隠してけよ?」
「ん。ありがと、狼サン」
「どーいたしまして」


 ちゃんとお礼を言って背中を向けた赤頭巾ちゃんに答えて、狼さんはひらひらと手を振りました。
 その背中が木々の合間に消えるまで、どこか妖しい感じのする眼で赤頭巾ちゃんを見送り、

「もう1匹がどの程度かがちょっとな…まァいいか、片方は上玉だし」

 くすくすと笑いながら、狼さんはずっとジーンズのポケットに突っ込んでいた手を出して、足元に咲き誇る綺麗な赤いお花の上で開きました。

「……ビックリするだろーな、あの人間」


 2つの意味でそう言って楽しげに笑った狼さんは、次の瞬間木の葉を巻き上げながら、手から零した弾丸だけを残して消えていました。
 あまりに速いスピードで動いた為にそう見えたのですが、残念ながらそれを見ていた人は誰もいませんでした。










 狼さんと別れて20分後。
 赤頭巾ちゃんは取り敢えず無事に、おばあさんの家の前に辿り着いていました。夕陽が、小さいですが手入れの行き届いた可愛いお家の影を長く伸ばしています。

「幽…じゃなかった、おばあさん。赤頭巾が来ましたよー」

 思いっきり棒読みで言いながらノックも無しに扉を開けた赤頭巾ちゃんは、いつも暖炉の近くでドライバー片手に重火器を弄っているおばあさんが、ベッドの中にいるのを見て首を傾げました。

「具合悪ィの?」
「少し…」
「マジかよ。平気?熱は?」

 身内に優しい赤頭巾ちゃんは、苦しそうな声で言うおばあさんに急いで近づきました。ベッドの中を覗きこむと、熱の所為でしょうか、どうもいつもと違う感じがします。


「あれ?眼ってオレンジじゃ…髪の色変わってるし…」
「……熱の所為」
「でも、手の傷もねーし…。……お前!」

 誰だ、と叫ぶより早くベッドから手がするりと伸びて、赤頭巾ちゃんの首に絡みつきました。ベッドの中に引き込まれた、と思った時にはもう組み敷かれていて、しっかりと関節を捕らえたその抑え方に、さすがの赤頭巾ちゃんもうごけません。

「てンめーさっきの狼じゃねぇか!せめて変装とかしろよ!」
「お前この時代の”おばあさん”ってどんな格好か知ってて言ってンの?尻尾と耳でもギリなのに、ネグリジェまで着たら放送できねーよ」
「知るかそんな裏事情!てか幽利!じゃねぇやおばあさんは!?」
「だからここだって」
「お前じゃねぇよこの鬼畜狼!俺が言ってんのはマゾの方!」
「あァ、それならほら、」


 叫びながらもがく赤頭巾ちゃんの顎を掴んでくいっと横に反らさせた狼さんは、妖しく笑いながら手にしていた小さなリモコンをカチカチっと操作します。
 猛烈に嫌な予感がした赤頭巾ちゃんは、次の瞬間頭を抱えたくなりました。

「こっちおいで、幽利」
「んンんッ…んふぅうぅ…!」

 カーテンの裏に立たされていたおばあさん、基、おばあさんっぽい丸眼鏡と病院の検査着のような白いパジャマを着ている幽利は、へなへなとその場に座り込んでしまいながら熱の篭った眼で赤頭巾ちゃんと狼さんを見つめています。
 一応、お洋服は着ていますがその前の部分は狼さんによって引きちぎられてしまい、公の場ではとても口に出来ないところが色々と大変になってしまっているのが、まさに一目瞭然でした。


「な、何をしてくれてんだよてめェは!」
「可愛いだろ?ほら、よく見てやれよ。アイツ見られると感じるんだってさ」
「んぅう…っ!」

 顎を捕まれて無理矢理そちらを向かされた赤頭巾ちゃんは嫌がって逃げようとしますが、完璧にアダルトモードに入ってしまった狼さんには無意味でした。びくっ、びくっと床の上で震えるおばあさん、基、幽利の様子を耳元で実況中継されてしまいます。

「見えるか?…ほら、凄ぇ紐が食い込んでンのに先っぽからダラダラ涎垂らしっぱなし。自分で出したモンに煽られてちゃ世話ねぇよなぁ?」
「う、るさ…ッ」
「アイツ相当マゾみたいだから玩具も使ってみたんだけど、当たりだなアレ。ちょっと音が煩ぇんだけど、その代わり振動凄いから奥の方までぐっちゃぐちゃにされンだよ。最初はキツイけどきっと死ぬほど気持ちイイぜ?」

 甘ったるい狼さんの声は耳元で聞くと効果覿面で、赤頭巾ちゃんが驚きと恥ずかしさで何も言えないのをいい事に、その言葉はどんどんエスカレートしていきます。セクハラなんて次元などハナっからすっ飛ばした暴挙です。
 本来ならこんな狼さんは即刻、王子様か良い魔女に煮るか焼かれるかしなければならないのですが、この物語には王子様も良い魔女もいないので好き放題です。


「も、離せッ…!」
「ヤだね。逃げてみろよ」
「このっ…」

 余裕で挑発する狼さんにカチンと来た赤頭巾ちゃんは、全力でその手を振り解くとカウボーイも真っ青な早抜きを披露しつつ、違法改造した銃を狼さんのどてっぱらに向けてズガンと、


「…え?」

 撃ちましたが、聞こえたのはカチンという寂しい音だけでした。

「何で…ッ!」
「さぁ、何ででしょう?」

 赤頭巾ちゃんの首筋にゆるく歯を立てながら、狼さんは慌てる赤頭巾ちゃんを見てくすくすと笑いました。
 何を隠そうこの狼さんは、赤頭巾ちゃんとのファーストコンタクトの際にさりげなくその銃から全て弾を抜き取っていたのです。なんという鬼畜外道。


「ひっ…や、やめッ…触んな…!」
「大丈夫だって。大人しくしてれば気持ちイイことしかしないから」

 武器の無い赤頭巾ちゃんではとても狼に太刀打ちできません。うつ伏せにされて震えながら声だけでも抵抗しますが、幽利の痴態を見てちょっとムラムラっとしてしまった赤頭巾ちゃんはあっという間に狼さんの手管に落ちてしまいました。

「あぅッ…つ、爪っ…ヤだ、そ…な、したら…取れちゃっ…!」
「しゃァねぇだろ、狼なんだから」
「んやぁあッ…ぁ、あッ…ち、くび…ダメ、だめぇえ…っ!」
「っは…淫乱」

 赤頭巾ちゃんのまな板…いえ、まな板のような胸板の小さな膨らみを舌でいたぶっていた狼さんは、んちゅう、と真っ赤になってしまったそこに吸い付きながらくすくす笑います。その振動すら赤頭巾ちゃんには立派なバイブレーションになってしまうのでもう堪りません。悲鳴はどんどん艶っぽく、言葉はどんどんはしたなくなっていきます。


 あわれ赤頭巾ちゃんはこのまま狼さんに美味しく頂かれ、幽利(おばあさん)は玩具を相手にどろどろのぐちゃぐちゃにされたまま放置され、このグッダグダの三流ポルノ的な流れを修正することが出来る者は、もはや居ないと思われました。

 ですが、その時。

 不意にドガンという轟音と共にドアの鍵の、大して丈夫でもない蝶番が景気良く鉛玉によって吹き飛ばされ、衝撃に耐え切れず半壊したドアがゆっくりと開きました。


「ふぁ、ぁ…っ?」
「んんぅうッ…!」
「……あ、ヤッベ」

 3人が各々の反応をする中、現われた狩人さんは半壊したドアの残骸を丁寧に閉めると、先ほどぶっぱなしたものと思われるライフルからガシャン、と空薬莢を排出しました。鳥打帽を脱ぎ、広くなった視界でまるで虫けらでも見下すような、背筋も凍る冷たい眼でざっとカオス化した部屋の中を見渡します。

 その眼光たるや、当に魔王です。眼光で人を石に変えてしまうメデューサでも、きっとこの狩人さんの前からは裸足で逃げ出すでしょう。

「変な音がすると思って来てみたら……何してるの、ここで」
「ご覧の通り、ナニしてます」
「無節操な狼だね、相変わらず。突っ込めれば何でもいいの?」
「そーゆーわけでもねぇよ、俺未成年には勃たねぇし。…あ、これ」
「…なに?」


 このすきに逃げようとした赤頭巾ちゃんの可憐な桃色の突起をきゅう、と捻ってか細い悲鳴を上げさせつつ、狼さんは手にしていたリモコンを狩人さんに放りました。受け取った狩人さんは一瞬不思議そうな顔をしますが、すぐに狼さんの真意に気づいたらしく薄っすらと笑います。

「よく頭の回る畜生だね、お前は」
「アンタほどじゃねェよ。それあげるから、今日のところは見逃して?」
「仕方が無いね。でも、そのベッドまでは貸せないよ」
「じゃァどうしろってんだよ。床でやれってか?」
「まさか」


 息も絶え絶えな赤頭巾ちゃんを長く伸びた爪で肌をかりかりと掻いて弄びつつ、軽く溜息を吐きながら尋ねる狼さんに、リモコンをカチカチと慣れた仕草で操作して床に這う幽利(おばあさん)にひくっ、ひくっ、と震えることしか出来ないほど強烈に快感を与えながら、狩人さんは出来の悪い生徒を見るような表情で首を振りました。

「こんな硬い板間じゃ体を痛める。畜生は畜生らしく、野外プレイでも楽しんでおいで」
「…はーい」

 口元だけはにっこりと微笑んだまま、目元を一切笑わせずに命じる狩人さんには、さしもの狼さんも敵わなかったようです。


 こうしてぺいっと赤頭巾もろとも追い出された狼さんは、「青姦ってあんま好きじゃねぇんだけどなァ…」とかぼやきつつもしっかりたっぷり赤頭巾ちゃんの味を堪能し、お家に残った狩人さんは、いつも以上に色々とぐちゃぐちゃな幽利(おばあさん)の悲鳴をたっぷり聞き、それぞれにまぁまぁ満足したそうです。



 おしまい。



頭から尻尾までグッダグダ。
失敗した感が猛烈に漂いますが、書いているのはとても楽しかったです。主に傑が本領発揮でエロいこと言いまくる辺りが。
パラレルってどうしてこんなに楽しいんだろう。


Anniversary