堕落したかつての使徒、我が主よ。
罪深きこの身を棺より救い出し、
永劫の闇へと貶めた第二の創造主よ。
御身にこの骸と鮮血の全てを捧げよう。
例えそれが海より深き罪であったとしても。
『どうぞご命令を。マスター?』
『 堕落する羊 』
「はい、お土産」
じゃらり、と音を立てて目の前にぶら下げられた、何十本もの十字架のネックレス。
しかも全て純銀製で、おまけにヴァチカンの正規十字軍の紋章まできっちり掘り込まれた、吸血鬼に手渡すお土産としては極めて不適切なそれを、俺は短剣の先で仕方なく受け取った。
「何人いた?」
「数えてねぇから解ンねぇよ、そんなの」
「お前なぁ…ちゃんと数えろって言ってンだろ、いつもいつも。何でそう無駄に反抗的なんだよ」
「だァって人間何十人殺しましたー、なんてダセぇこと報告したくねぇし」
そりゃただの人間ならな。俺だってそんなこと報告されたら失笑するけどさ。
「ヴァチカンだろ?」
「人間じゃん」
「…あのなぁ」
「いいんだって、別に。下僕がマスターを守るのは当然だろ?ンな単純なことで褒めてもらおうなんて思ってねぇし」
ひらひら手を振りながら、傑はそう言って返り血を浴びた髪を邪魔そうにかき上げた。
ヴァチカンの小隊潰しておいて単純、なんて言った隷属は俺の呆れるくらい長い生の中でもコイツだけ。ついでに言うと、隷属にしてから1週間足らずで完璧に吸血鬼の能力をモノにして、真性の吸血鬼とタメを張る戦闘能力を手に入れたのもコイツだけ。
普通は、最初の一ヶ月は「血を飲む」って行為に抵抗を示して吐いたりするんだけど、傑は初っ端から平気な顔して飲んでたし。
「にしても…」
「なぁにー?」
「凄い血の匂い。…なんか腹減って来た」
噎せ返るような血臭に軽い乾きを覚えた俺は、唇を舐めて濡らしながら腰掛けてたソファから立って、血でどす黒く染まった傑の服の襟を掴んで引き寄せる。
「”聖職者のは不味い”んじゃねぇの?マスター」
「聖職者はな。お前は美味いからいいの」
「光栄なこと言ってくれんじゃん」
無抵抗に引き寄せられながら、傑が浮かべるのは淫魔もかくやというほど色気の滲む微笑。人間をたぶらかす為にこの微笑は吸血鬼には必須なんだけど、こんなにヤらしい表情が出来る奴を俺は傑以外で見たことが無い。
土台がいいからかな、やっぱ。俺が惚れたくらいだし。
惚気たことを考えながら傑を壁に押し付けて、シャツを引き裂いて曝させた白い首筋を軽く舌で舐めて、つぷり、と肌を裂く音を立てながら牙を埋める。
どくり、と脈動と共に溢れ出てくる鮮血。舌先に絡みつくような甘さを持つそれは麻薬にも似ていて、許容量のギリギリまで飲んでようやく俺は牙を抜いた。
「っは……も、イイの?」
「バァカ。これ以上飲んだら倒れるだろ、お前」
「優しーねぇ。さすがマスター」
くすくす笑いながら壁から背中を離した傑が、からかうような口調で言いつつ俺の肩を軽く突き飛ばす。背後にあるのは、俺がさっきまで座ってた1人掛けのソファ。
「ちょっ…何する気だよお前」
「解ってる癖に」
座り込んだ俺の上に覆い被さるように手すりに両手をついた傑が、飢えた瞳で俺を見下ろしながら耳元に唇を寄せた。
「次は俺の番だろ?…悦」
あお向けにシーツに押し付けられた俺の肌を、しなやかな指先がヤらしい動きで這って行く。
「んンっ…ぁ、なに…して…あぁッっ」
「……」
十分過ぎるくらい丁寧に解してようやく突っ込んだと思ったら、今度はそのまま動きもしない。
抗議の声も乳首をカリ、て甘噛みされる痛み混じりの快感に嬌声に変えられて、ぴくんと体を跳ねさせた俺を傑がぞくっとするような目で見下ろした。
今まで男の隷属を造って、そいつに褒美代わりにこの体をくれてやったことは何度もある。でもそういう奴等は全員俺の肌に傷をつけないように、痛い思いをさせないようにって細心の注意を払って、壊れ物でも扱うように俺を抱いた。
まぁ、傷の1つでもつけようモンなら腕の2、3本は仕置きで潰してたから、無理も無いんだけど。
平気で噛み付くし焦らすし無理矢理突っ込むことだってしょっちゅう。しまいにゃ俺を上に乗せて動け、なんてことを言いやがるのは傑が初めてで。何より驚きなのは、不愉快だとしか思わなかったその行為が傑相手だと妙に気持ちいいって事。
今だってほら。中に入れられたまま、明らかに焦らされてるって解ってるのに不快感よりも快感の方が圧倒的に勝ってる。
「ひぁっ、あ…ッん、はぁあぅ…ッ!」
「…そんなに好き?ココ」
「っうる、さ…ふぁあッ、ぁ、んン…っ」
「ちょっと痛いくらいが一番気持ちイイんだろ?マゾだもんな、マスター」
舐めて濡らされた乳首を軽く爪を立てて捻られて、くちゅ、なんてヤらしい音を立てるそこに甘い痺れが走る。
じんわり背骨に広がって頭ン中を真っ白にしていく快感に、俺は情けなく喘ぎながら傑の髪を掴むとその顔を引き下ろした。
噛み付くように唇を重ねて、でもいつもならすぐにそれに応じてくるはずの傑は俺の手を振り解いて顔を上げる。
「ぁ……?」
「前みたいに舌噛み千切ンなよ、マスター。ここ、舐めてやれなくなるから」
「ひ、ぁ、あッ!はぁぅ、ぁむっ……!」
ぐりゅ、って先走りを溢れさせてるモノの先端を擦りながら耳元で言われて、がくがく頭振って頷いた俺にくすって笑った傑が何の前触れも無く乱暴に唇を合わせた。
散々放って置かれたモノを緩く握られて、親指でカリをぐりぐり押されながら裏筋を押しつぶされると、もう気持ちイイってこと以外何も解らなくなる。
いいように口腔を貪られながら舌を絡めて吸い上げられて、中が熱い傑のモノをはしたなく締め上げるのが自分でも解った。
「っは…ヤらしい体。奴隷にいいようにされて感じてンの?」
「あっぁぁ…はっぅ、ぁんんッ…!」
「淫乱だからしょーがねぇか…なぁ、このままでイイの?」
「ふ、ぁッ?」
「このまま、俺のぎゅうぎゅう締め付けてるだけでアンタは満足出来ンの?」
「ひッぃ、あぁあッ!ぁ、あぁぅ…ッ」
それまでぴくりとも動かしてなかったモノにいきなり深い所まで突き上げられて、思わず傑の首にしがみつく。でも、頭が真っ白になるような快感はその一瞬だけですぐに動きを止められて、中途半端に快感を植え付けられた体はそれまで以上に疼いて傑を締め上げる。
こんなにぎゅうぎゅうにしてるんだから、傑だって絶対に楽じゃない筈なのに。早く突っ込んでぐちゃぐちゃにしたい筈なのに、見上げる顔は嫌味なくらいいつも通りで、余裕に溢れてる。
…これじゃ、どっちが主人か解りゃしない。
「ッはぁ…な、にして…欲しい、んだ、よ…っ?」
「あ?俺がして欲しいんじゃなくて、アンタが俺に何か命令したいんだろ?」
「ッ…な、んで…っァ、お前は、そう…!」
「生意気なんだ、って?…アンタがその方が喜ぶからだよ、淫乱なご主人サマ」
俺が?
思わず怪訝そうに傑を見上げたら、信じられないくらいの美貌を持つ元・人間の隷属は楽しそうに深い藍色の瞳を軽く細めた。よく見るとその頬には透明な雫が伝っていて、俺は軽く目を見開く。
汗?…同族50人を相手に息も乱さなかった傑が?
「アンタが望むことなら何でもしてやるよ。俺はその為に居るんだから」
「そ、れとッ…これと…は、ぁッ…別…ッ」
「一緒だって。ほら、もうそろそろ我慢も限界だろ?」
「んァああッ!ぁ、す、ぐる…ッ、も…っ!」
「命令しろよ。アンタの為に、俺はどうすればいい?」
耳元で吹き込まれる甘く掠れた声。放置されたところ全部がもう我慢できないくらい熱くて、俺は傑の背中に爪を立ててしがみつきながら叫んだ。
「ッも、傑の…っ好き、にして…い、からッ…!は、やく…ッっ」
「何してもいいの?」
「ひぅッ!?」
にや、って感じで笑った傑にいきなり根本をキツく締められて、びくんと跳ね上がった体を抉るような突き上げでシーツから浮かされる。
散々焦らされた体はいつも異常に快感に従順で、熱い傑のモノに覚えこまされたイイトコロを抉られるたびに、握られたモノが射精感にびくびく震えるのが自分でも解った。でも根本を戒められていたらイケる筈も無くて、目の前が白くなるほどの快感を味わいながら熱を解放することを許してもらえない。
「ひぁ、あ、ぁッ、あぁあッっ…や、離し…ッ!」
「まだダメ。っ…もうちょい我慢して」
「やァあぁあッ、も、無理っ…ふぁ、あッおねが…!」
「…あー…それキく…っ」
吸血鬼特有の鋭い爪が深く傑の肩に食い込んで、乱暴に俺の体を揺さぶりながら傑が苦しそうな声で呟いた。涙で滲む瞳で見上げたら、毒のある俺の爪の所為で傑の白い肌は肩の部分がどす黒く染まってる。
やっば。俺、制御するの忘れた…!
「あぁあ、ぁ、あッ!も、だめっ…制御、でき、な…ッ!死、じゃぅ…ッっ」
「んッ…名前、呼んで?」
俺の爪から注がれた毒の所為で震える指先で俺の頬をゆっくり撫でながら、傑は低く掠れた声で囁いた。
ずぐッ、って奥まで突き上げられるのと同時に、戒めを解かれたモノの先端を痛いくらい爪で引っかかれて、目の前が白く弾ける。
「ひぁあぁッ!ぁ、傑ッ…すぐる…ッっ!」
白濁を自分の腹と傑の胸元にぶちまけながら叫んで。肌に食い込んだままの爪から毒が流れ込んでいくのを感じながら、俺は薄れる意識の中で優しい声を聞いた。
「…スゲー綺麗。悦」
「っとに…何であの状態で喰うんだよ。俺の半身毒回ってたンだから喰ったらヤバイ、って事くらい解んだろ?」
「だって…あのまま放っといたらお前、右半身動かなくなる…」
「だからって自分の毒自分で吸い出すバカがどこにいるんだよ」
「…煩い」
「はいはい。ったく…」
「………傑」
「ん?」
「…俺、しばらく動けないから」
「そりゃな。で?獲物ならちゃんと捕ってくるけど」
「捕って来なくていい。…お前の選んでくるの不味いし」
「酷。じゃあどうすンの」
「”束縛”緩めてやるから、お前の飲ませて」
「…えー…」
「……嫌?」
「まさか」
「…仰せのままに。マスター」
Fin.
50,000hit感謝SS!傑×悦で「吸血鬼:従者×主人」でございます!!
50,000hitありがとうございました!
