病室



 ねぇ、どうか覚えていて。

 僕が穢した純白の人。


 傲慢な漆黒が愛するのはお前だけ。










「はぁッ…はっ…はぁ…っッ」

 口を開けば濡れた声がひっきりなしに漏れて、情けねェなって思いつつもそういう状況全部に愉悦感じちまってるンだからどーしようもねぇ。


 外科病棟の外れ、個室の角部屋で防音もセキュリティも完璧。
 ついでに言やァ俺の症状は左手首の裂傷と右足首のひびで、巻き込まれた喧嘩で付けられたそれ以外は健康そのもの。

 で、そんな俺の担当医はドSで変態な俺の御主人様。


 勿論、こんな据え膳じみた状況偶然なわけもねぇ。みんなお医者サンな御主人様が裏から手ェ回して整えてくれたらしくて、お陰様で超が付く被虐趣味の俺は、鎮痛剤の変わりに媚薬を点滴されて放置プレイの真っ最中。

 何時から、なんてもう解ンねぇくらいの長時間放置で薬なんざ全身に回りきって、脊髄を這う甘い痺れに理性がドロドロにされっちまう感じ。
 触れてンのはシーツだけだってのに体中が熱くって、体の内側から火傷するんじゃねぇかって馬鹿な考えまで浮かんでくる。


「はぁっ…ぁ、…センセ…ッ」

 ベルトでベッドに固定されて動くに動けねェ俺の足元に座って、さっきからずぅーっと枕元のランプからの明かりで難しそうな医学書を読んでる「先生」―――鬼利に、俺は震える声をかけた。

「…何」
「っは…も、勘弁…して、下さ…ッ」
「まだ僕は何もしてないんだけどね」

 だから辛ェんだって。
 素っ気無い鬼利の声に腹ン中でこっそり呟きながら、俺はシーツの上で自由の利かない体を捻った。
 ここで視線も上げてくれねェって事は、今日は相当気合入れて放置されるってェ事だ。伊達に何年も玩具にされてねェから、反応見て声を聞いてりゃ大体予測はつく。

 問題は、病院生活でへバった俺の体力がこの放置プレイにどれだけ保つか。





「んンッ…ぁッ、ふあぁぁ…!」

 綺麗な指先に肌をゆっくり撫でられるとそれだけで背筋が震えて、あお向けからうつ伏せにひっくり返された体制で俺はシーツを握った。

「煩いよ。…巡回の看護婦さんに聞こえちゃうでしょ?」
「ッ…ん、んぅっ…はぅう…ッ!」

 耳元で囁かれながらガリ、って音立てて耳に歯ァ立てられてそれだけでイっちまいそうになるけど、根本にがっちりリング嵌められて締められてちゃ空イキしかできない。
 噛み付いた俺の耳を今度は優しく舌で舐め上げながら、鬼利はするりと手を滑らせた。つぷん、て音立てて中に指が埋められて、咄嗟に締め付けちまいそうになるのを堪えて上がりそうになる声を殺す。

 俺は別に誰に声聞かれよーがイイけどよ。それで鬼利に迷惑がかかンのは玩具としてご法度だろ、やっぱ。


「熱くてとろとろになってる。よっぽど気に入ったんだね、あの薬」
「ひっぁ、ッ…ぁあンんッ…!」
「これなら簡単に入るね」

 …入る?
 くすくす笑いながら意味深に呟く鬼利に、俺は何となく嫌な予感を感じて振り向いて、

「ッ…!?」

 どォせ何かの玩具だろ、って高ァくくってた俺の考えからかけ離れたシルエットに、思わず目を見開いた。
 鬼利が片手で持ってンのは銀色の医療器具。良すぎる記憶力の所為で「忘れる」って真似が出来ねェ俺には勿論、それが何でどうするモンなのかってのは百も承知だったが、咄嗟に聞かずにはいられなかった。

「そ、れ…どう、すンの?」
「ん?…あぁ、幽利はクスコ使うの初めてか。その内解るよ」

 何でもないことみてェにサラリと答えて、鬼利は鳥のくちばしみてェな形した銀色の医療器具、クスコを指を引き抜かれた俺の奥に宛がった。

「ひッぅ…!」

 そのまンま、冷たい感触に体を震わせる暇も無くずるりと中まで突っ込まれて、一番深い所まで鉄製の医療器具を咥え込まされる。思ったより苦しくはねェけど、温度差の所為で腹ン中にそれが入ってンのがモロに解るのがすげェ違和感…
 ンなこと考えたら後ろからカチリ、って何かの留め金外したよォな音が聞こえて、

「あッあぁあっ…!?」

 そう思った瞬間、急にがっぱり口開けたクスコに中を思いっきり広げられて、てめェの手で広げるくらいじゃ絶対に届かねェような奥の奥を冷たい空気に撫でられた。

「っぁあ…すごっ、ひろが…って…ッっ」
「うん。奥の方までよく見えるよ、幽利の恥ずかしい所」

 くすくす笑いながら言う鬼利の視線と吐息を感じて、間近で見られてンだって事実にかァっと顔が熱くなンのが自分でも解る。
 今まで経験したこと無ェような恥辱に、俺は荒い息を吐きながらシーツに顔を埋めた。そんなことしてる間も次にされる事に期待してモノから先走り滲ませてシーツ汚してンだから、つくづく俺は浅ましい。

「鏡も持ってくれば良かったね。そうしたら、自分がどれだけ厭らしく男を誘ってるか見えたのに」
「ッあ、ぁ…ン、ぁう…ッ」
「空気だけでも感じるんでしょ?まだ広げただけなのに、物欲しそうにヒクついてる」


 本当に感じてンのは空気なんかよりこの鬼利の声とその内容なんだが、そんなこともうどうでもいい。鬼利の言う通り、浅ましくヒクついてる中に早く何か突っ込まれてぐちゃぐちゃにして欲しくて。早く、こんな意識なんて吹っ飛ばして欲しくて。

「使ってる割には綺麗だね。ここ、も」
「ひッ!ぁ、そこ、はッ…あぁああっ!」

 空気が動く感触と共に中に差し込まれた鬼利の指先がピンポイントで前立腺を押し上げて、脊髄を駆け上がった快感にびくんて体が跳ねた。薬の所為か状況の所為かその快感はいつもの数倍で、リングが無かったらイっちまってたなって思うほど。

 何度か叩くみてェに押し上げてから、不意に鬼利は指先をずらして少し離れた所を爪で軽く引っ掻いた。柔い肉をカリカリ爪立てて引っかかれる少しの痛みと、それを遥かに上回る快感に眩暈がする。

「あ、ぁあ…ぅああぁ…ッ…ひッ、ひゃあン!」
「感じるのは前立腺だけかと思ったらそうでもないんだね。…薬の所為かな?」
「あッ、ぁ、あっ…!」
「こんなにシーツを汚して。イきたいの?」
「はッ、はひ、ィいッ…ンぁああっ、あッ!」

 糸引きそうな勢いで滴ってシーツに零れる先走りを掬われながら聞かれて、口開けた尿道口をくちくち音立てて弄られる快感と辛さにシーツに爪立てながら、ガクガク頭振って頷く。
 解ってンだけどな、どーせまだまだイかせてなんて貰えねェって。

「そう。まあ、お前の希望なんて知らないけどね」
「ひぃィいぃ…ッ!」


 …ほら、な。

 粘着質な体液を滲ませる尿道に爪立ててぐちぐち弄られながら、気持ちよすぎて真っ白ンなっちまった頭の片隅でやけに醒めた声が呟いた。
 でも、そんな余計なモンが聞こえたのもそこまでだ。先を指でぐにぐに揉まれたり爪立てられたりしながら、他ン所には目もくれずにピンポイントでひたすら前立腺だけを嬲られっと、快感なんて呼べねェような灼熱に一瞬意識が飛ぶ。


「ひィぁあッ、ぁ、あぁ゛あっ!はッ…ぁ、ひぁあッっ」
「凄い蠕動だね。節操なしに締め付けるから、クスコがギシギシ言ってるよ」
「はひッぃ、ぁ、も…抜い…て、ぇっ…はッ、中ぁ…しびれ、て…ふぁあンん…ッ!」
「やっぱり長い間広げてると痺れるんだ。粘膜だから筋がつる、って事は無いと思うんだけど」
「ひぐッ!ぁ、あぁああっ…!」

 普段、おねだりなんてはしたねェ真似しないようにって、そりゃもう厳しく躾られてる俺がこうやって何かお願いすンのはマジで極限な時だけ。
 それを知ってる鬼利は、自分も満足したのか医者らしいことを呟きながら広げっぱなしのクスコを閉じて、俺の体温に暖まった金属の塊をようやく中から引き抜いてくれた。
 薬と長時間の放置の所為で痒みとか疼きとか通り越して甘い痺れがひっきりなしに走ってる内壁を、いきなり差し込まれた2本の指でじゅぷっ、て水音を立てながら突き上げられっと、それだけでもう気が狂いそう。

 突かれるままに体ガクガク揺さぶられて、ほとんど無抵抗でひたすら喘いでた俺は、中の指が2本から3本になってそれが鬼利のモノになったのにもほとんど気づかなかった。やけに突き上げが重てェな、って霧がかかったみてぇになった頭ン中で気づいてようやくだ。

 しゃーねェだろ、気持ちよすぎてもう意識どころか鳴き声も上手く上げられねぇんだよ。


「はッ…ぁ、あ゛ぁあっ…ひ、ぁ…!」
「ん…っそろそろ、限界?」
「ッひぁあ…くぁ、ンん…!…はッぁ、も…壊れ…る、ぅ…ッっ」
「……あぁ、ホントだ」

 前髪掴んで上げさせた俺の顔を横から覗いて、目の前に鬼利がいてもろくに焦点も合わせらンねぇまま、半開きの唇から掠れた声と飲み下す余裕なんてねェ唾液を零してる俺の状態を確認して、鬼利は納得したように呟くと俺のモノに指を這わせた。
 ぎりぎりまで張り詰めたそこは触られるだけでただ辛くて、何も解ンなくなっちまった俺はただ「嫌」って途切れる声で泣きながら体を震わせる。

「暴れないの。今、外してあげるから」
「ひぅっ…ゃ、あ…ッ」
「…ほら、いいよ」
「あッ、ぁ、あー…ッ!」

 リングを外して貰って、一気に血が流れる感覚と共に勢いの無い精液がどろりと零れた。重苦しい痛みがようやく無くなって、ぎゅぅって中を締め付けるのと同時に中に注がれる熱い熱い、欲。

「ひゃ、ぁあッ…熱、ぃ…あつ…ッ」

 てめェでイく時なんかよりもよっぽど愉悦を感じられるその熱に、俺はようやく完璧に意識を吹っ飛ばした。










「クスコは達成…と」
「…何書いてるの?」
「あ、先生。ここ1人部屋だし、昼間暇だからさァ。病院ならではの特殊プレイっつったらどんなン出来っかなァ、と思って候補上げたンすよ、15くらい」
「ふーん…ちょっとペン貸して」
「?…はい」
「……」
「……」
「はい、1つだけ付け足し」
「まだあります?……手術室で麻酔無しの部分……解剖っ…て、これ!」
「冗談だよ」
「…なんだァ、冗談っスか。先生ならマジでやってくれっかなァと思ったのに」
「やって欲しかったの?」
「勿論!」
「………」



 Fin.



50,000hit感謝SS!鬼×幽で「病院:医者×患者」でございます!!
分娩台とか手術台とか拘束衣とか使いたいなぁー、と思いつつもへヴィになり過ぎたので(比較的)ノーマルなクスコで
50,000hitありがとうございました!


Anniversary