Another kitty



 四つん這いになってはしたなく広げられた両足が、シーツをくしゃくしゃにしながらびくびくと震える。

「あッ…は、ぁ…ンんッ…!」

 思ってたよりも早く仕事が終わって、部屋に帰って寝室の横の衣裳部屋で服を着替えてたトコに風呂上りらしい悦が来たのは5分ほど前。湯上りにしたって忙しない息に気付いて声をかけずにドアの隙間から様子を覗えば、案の定ここ何日か構ってやってない淫乱な恋人は、俺のベッドでオモチャ相手に1人Hの真っ最中だ。


「はぁ、あッ…ん、ぁっ…は、…あっ、ぁ…ッっ」

 シーツに胸を擦りつけるようにして腰だけ高く上げた悦の片手は、さっきから引っ切り無しに奥に埋めたピンクのバイブを出し入れしてる。ローションをたっぷり塗してぐちゃぐちゃ音を立てるそれに顔を紅潮させながら、控え目に振られる腰がシーツの皺にガン勃ちしたモノの先っぽを擦りつけて、どんどん溢れてくる先走りで白い布が濡れて行くのが俺にも解るくらいだから相当だ。

 別に自分でスるな、なんて一言も言ってねぇのに、どうして1週間かそこらご無沙汰になるだけであんなに欲求不満になンのか疑問だったが、こんなヤり方してンならそれも納得できる。
 突っ込まれてる細身のバイブは一応動いちゃいるけど、設定は多分最弱に近い。前立腺をピンポイントで狙ってるワケでもねぇし、ただ抜き差しするだけならアレはちょっと細過ぎだ。俺が普段あれだけ強烈な快感を刷り込んでやってる体が、こんな普通の気持ちよさで我慢なんて出来る筈がない。


「んんぅッ…!っは、ぁ…あッ…ぁ、ひぅッ…!」

 のろのろと出し入れを繰り返していたバイブを握る手が、不安定な体制と滴ったローションで引き抜く途中でずるりと滑った。それもどうやらイイトコロの真上で止まったらしく、一際大きく体を震わせた悦がシーツに頭を擦りつける。
 そろそろと伸ばされた指はバイブを引き抜かずにその台尻をゆっくり持ち上げて、俺が教え込んだイイトコロに先端が押し当たるようにしながらぐちゃぐちゃに濡れてるんだろうシーツごと、自分のモノを握り込む。


「ひぁッ…ぁ、あぁあっ…そ、こ…だめっ…はぁあ…っ!傑、…すぐ、る…ッ!」
「呼んだ?」

 盛り上がってるトコ悪いがこのままイかせてやるのはちょっと惜しい。切なげな声に半開きになったドアを開きながら答えてやると、咄嗟に枕の下の銃を掴もうとしていた悦の動きが俺を確認してぴたりと止まった。


「ぁっ…!」
「随分愉しそうなコトしてんな、悦」

 驚きに見開かれた瑠璃色はすぐに耐えきれないように俺から反らされ、慌てて座りなおしてシーツを抱えるその横顔がみるみる内に赤く染まる。


「い、いつから…っ」
「お前が服脱いで自分で扱きだした所から」

 つまり最初からずっと。
 近づく俺を怯えと期待が半分ずつの瞳でちらちらと覗いながら、顔どころか全身を桜色に染めた悦がじり、と後ずさった。膝でベッドに乗りあげながら体を隠すように抱え込んだシーツを掴んで引くと、ほとんど抵抗もせずにシーツを手放した悦がひくりと肩を震わせる。


「こんなに汚して。一昨日代えたばっかなんだけどな、このシーツ」
「…っごめ…」
「どんなこと想像してヤってた?」
「ッ……!」

 名前を呼んだからには俺のことだろうけどな。
 濡れたシーツに絡め取られたバイブを持ち上げて、見せつけるようにして軽く揺らしてやると頼りなく視線を彷徨わせた悦がきゅ、と唇を噛んだ。上目遣いに許しを請うような視線が向けられるが、当然そんなので許してやる気は無い。


「す、ぐるの…ことに、決まってンだろ…っ」
「俺と、どんな?」
「っ…だから、普通…に、…」
「普通、ねぇ?」

 濡れたバイブをシーツの上に落として、それだけで体を震わせた悦の顔を顎を掴んで上げさせた。
 何されんのかって怖がってるクセに、俺に苛められるのを思いっきり期待してるこの矛盾が何よりそそる。

「わざわざこんな細いバイブ使って、まともに扱きもしねぇのが普通か?」
「…っ…」
「俺には自分で焦らしてるようにしか見えなかったけどな」


 図星を突かれて恥ずかしそうに視線を反らした悦の唇を親指で拭ってやると、引き結ばれていた唇はそれだけで緩んで熱を孕んだ息を吐いた。驚きに萎えかかってたモノもすっかり勃ち上がって、シーツに擦られて充血した乳首までつんと尖ってくる。
 相変わらず素直な体でいっそ困る。躾たのは俺だけど。


「言ったよな、今日の夜中か明日には帰るって」
「…うん」
「早く逢いたかったから急いで帰って来たのに、待ってくれてるどころかオカズにされてるなんて思わなかったぜ」
「…我慢できなく、て…だって、もう1週間も…っぁ!」

 消え入るような声で弱々しい言い訳を始めた悦をシーツに押し倒してその両手を一纏めに握ると、欲に濡れた瞳が俺を見上げて僅かに細まる。
 今日は枷もベルトも要らねぇか。大人しくさせる口実が(悦のおいたのお陰で)こんなにあるんだし。


「や、すぐ…んンぅッ…!」

 形だけの拒絶をして見せる意地っ張りな唇は取り敢えず俺のそれで塞いで、素直に震える足を押し開いた。










「あッぁ、あぁあっ!はぁぅうぅっ…ひぁあ!」

 さっき自分でシてた時と同じ、四つん這いにさせて後ろから前立腺をピンポイントで押し上げてやると、尿道に細いバイブを突っ込んだ上からカリを擽ってた悦のモノがびくびくと震える。

「ひゃめッそ、こ…そこっ…はぁああぁ…ッっ」
「好きだろ?」

 前立腺を狙って突き入れる度に食い千切られそうなくらいモノを締めつけてくる内壁を揺さぶりながら、シーツに突っ伏して生理的な涙を零す悦の耳元に囁いた。
 深くまで突っ込んだバイブの所為で先走りすらまともに出せず、前後から一番感じる場所を抉られる快感に悦の瞳は虚ろで、俺が与える快感に溺れ切ったその顔にずぐりと腰が疼く。


「あぁ゛あッ!は、はぁっ…ぁあッぁ、あーッ!」
「ッ……」

 気を抜いたら持って行かれそうな締めつけに軽く息を詰めながらバイブを引き抜くと、高い嬌声を上げながらびくびくと背中を跳ねさせた悦のモノからどぷりと先走りに混じった精液がシーツに飛び散った。
 まさか射精出来るとは思ってなかったんだろう、戸惑ったように俺を振りかえった悦に薄く笑って、俺はイくのに合わせて震える内壁を奥まで突き上げるのと同時に、まだとろとろと精液を零す尿道にバイブを突っ込む。

「ひィっ!?」
「連続でイクのは嫌だって、…前、言ってただろ?」

 前後から同時に貫かれて弓なりに反った悦の背骨を唇でなぞりながらくすくすと笑うと、それにすら感じた肌がぞわっと鳥肌を立てた。相変わらずの敏感な反応が可愛くてピストンしながら中に残った残滓を掻き混ぜるようにしてバイブを捻ると、強すぎる快感に組み敷いた悦の体ががくがくと震える。


「はひっぁ、あぁッ!まっ、イった…いま、い、たからァっ!ゃああァあッ!」
「心配しなくても、こんなモン突っ込まれてたらイけねーよ」

 硬くしこった前立腺をごり、と抉るように突き上げながら、バイブを呑み込ませた尿道口を爪で緩く引っ掻く。いくらバイブが細いって言ったって、後ろ以上に何かを突っ込まれるようには出来て無いソコにはもう液体だって通るような隙間は無い。

 …まぁ、イケないって言っても射精出来ないってだけの話だけど。


「あ、ぁ゛アッ!そ、そこっ、さわ、ちゃ…ッひぃンん…ッっ!」

 ガチガチに張った会陰をびくりと震わせて、掠れた悲鳴に近い嬌声を上げた悦の体がイった時と同じように跳ねた。勿論、バイブでいっぱいになったそこから零れるのはほんの少しの濁った先走りくらいだが、射精をしないまま空イキした悦は重く体の奥で神経を焦がす愉悦に赤い舌を吐き出して、忙しなく空気を貪る。



「はッ…はぁアっ…!す、る…すぐ、る…まッ、て…まっ…んふぅう…!」
「…そりゃねーだろ。俺まだイってないんだぜ?」

 ちらちらと覗く赤い舌に誘われて貫いたままの悦の体を仰向けにひっくり返し、泣きじゃくりながら弱々しく首を振って哀願する舌を甘噛みしながら小さく笑うと、虚ろに焦点をぼやけさせた瑠璃色から溢れた涙が頬を伝った。

 そんな顔をしときながら熱く蕩けた柔肉でモノを締めつけてくるんだから、ホントにこいつは俺を煽るのが上手い。


「も、こんなっ…ふゃあぁあ!」

 連続でイった所為で限界まで敏感になった肌は足を抱えるだけでも大げさに跳ね上がって、縋るものを探してシーツから持ち上がった手を掬って首に回させると、もう加減するだけの理性も飛んだ悦の爪が肩に食い込む。
 血すら滲まない、1分と経たずに消えるような微かな痛みを俺が甘く感じるのは悦だけだ。


「はッ、ひあっ、すぐ…るッ…あ、ッ、っ…!」
「…悦」
「はぁああっ…!」

 抱き寄せられるのに逆らわずに顔を埋めた首筋に緩く歯を立てながら、しがみつく悦の中に浅くまで引いていたモノをゆっくりと埋める。鳴き過ぎて枯れかけた弱々しい嬌声が鼓膜を直に震わせて、いい加減耐えるのにも飽きて来た体が意識に逆らって下半身を重く痺れさせるのが解った。

「なぁ、悦。…俺、マゾの才能あるかも」

 爪立てられたくらいでこれだ、この手で腕でも引き千切られたらそれだけでイケるかもしれない。

「な、に…っ?…ッぁ!」
「…いや。何でもない」

 何を今更。
 あまりの馬鹿馬鹿しさに思わず自分を笑いながら、疼く体に逆らわずに深く華奢な体を突き上げた。


「あッぁあっふ、かぃい…ッひぁンんっ!」
「…は、」

 絞り取るように熱く絡みつく中に浅く息を吐きながら、白い喉を晒して喘ぐ悦の唇を塞ぐ。驚いたように跳ねた舌を絡め取ってキツく吸い上げながらスパートをかけると、膝裏に手を入れて持ち上げた悦の足が痙攣するように跳ねた。


「んふッぅ、ぅうっ!ん、んーっ…んンーッ!」
「…ん…っ」

 目の前が白く霞むような快感に軽く眉を顰めながら、かくりかくりと振られる腰に合わせて揺れる悦のモノからバイブを抜き取る。俺に一瞬遅れて下腹を汚した薄い精液に、くったりと弛緩した悦の体が一度だけ、小さく震えた。

「ッはぁ…!は、ひ…ぁ…っッ」

「悦、」
「っぁ、は…す、ぐる…傑…っ」


 力が抜けて肩から滑り落ちた手をシーツから掬い上げて、指先をぴくぴくと震わせている腕の内側にキスを落としながらしっとりと汗に濡れた柔らかな髪を掻き上げる。頭を撫でる俺の手にとろりと潤んだ瑠璃色を気持ち良さそうに細めた悦の手が、シャツの袖を弱々しく握った。


「想像の中の俺と、どっちが良かった?」
「こ、っち…」

 掠れた声で言いながら指先で握った袖をくい、と引かれて体重を掛けないように力の抜けた体を抱くと、男にしては長い睫毛を伏せた悦の唇が漏らした吐息が耳を擽る。


「…触れる方が、イイ」

 …だから、ンなこと言われたら外も中ももっと触りたくなるだろーが。
 これが計算づくでの言葉ならまだやり過ごせるってのに、袖を握ったまま静かに寝息を立て始めた悦に俺を煽ってやろうなんて考えはきっと、微塵も無い。


「……堪んねェな、ホント」


 想像だけで満足出来たら、俺も少しは楽なんだけどな。



 Fin.



No.223「はる」様より、
『悦の自慰中に傑登場(鉢合わせでも確信犯でも)』
にプラスして、何人かの方にリクエスト頂いた傑視点です。

羞恥心であたふたする悦を、とのことだったのですがご要望に沿えましたでしょうか…攻め視点は難しい。
自分では書こうとしないので勉強になりました。

はる様、リクエストありがとうございました!


Anniversary