「あー…かえっちゃったなー…」
「そーだな」
双子が帰ってしまったこたつの中で、腰までこたつ布団をかけてラグに寝転がりながらぼんやりと言う悦に、残りの熱燗を舐めながら傑が頷く。
「悦、幽利に酒飲ませたか?」
「ねーよ。鬼利が怒るから、甘酒だけー」
「お前は?」
「俺はぁ…2杯くらい?」
「あぁ、それでか」
空っぽになった、15杯分はあったであろう甘酒の鍋を一瞥して、傑は納得したように小さく笑った。いくら子供でも飲めるようなものだとはいえ、10杯以上も飲めば酔っぱらう。酒の弱い幽利なら尚更のことだ。
酔うようなものではないと幽利に言ったのは悦だし、傍で聞いていた鬼利も特にそれを訂正しなかった。部屋を出る幽利の足取りは完全に酩酊した時のそれだったが、これでは鬼利も強く出られないだろうなと予想しながら、傑は皿に数枚残った漬物に手を伸ばし、
「……」
こたつの中で胡坐をかいた足を撫でる感触に、その手を黙って下ろした。
御猪口に残った酒を干しつつ横目で覗うと、寝転がっていた筈の悦の姿は無く、布団の端が小さく膨らんでいる。布団の中で足を撫でる手は次第に上がって行き、裾を乱しながら傑の右足を軽く引いた。
されるがままに足を崩し、手がするすると焦らす様に内腿を撫でるのにされるがままになりながら、傑は軽く振って中身を確認した熱燗を、徳利に口をつけて一息に飲み干す。温燗は嫌いだ。
「…なーにしてンだよ」
口元を指先で拭いながら傑がようやくそう声をかけたのと、結んでいた帯が解かれたのはほぼ同時だった。
「えーつ」
ぽん、と傑が軽く叩いたこたつ布団がもぞもぞと動き、結局両膝を伸ばした傑の足の間から、先程よりも顔を赤くした悦が顔を出す。
もぞもぞとそのまま出てこようとする悦の後頭部に、天板の縁に打たないよう手を添えてやりながら、傑はカタツムリのようにこたつから伸び出てくる悦に合わせて上体を倒した。
「…暑ぃ」
「そりゃな」
仰向けに寝そべった傑に覆いかぶさる格好になった悦の体は、互いの着物の生地越しにもそうと解るほど熱い。原因の半分は酔いとこたつの為に、
もう半分は。
「お前…着物、にあうな」
「そりゃどうも」
しみじみと呟いた悦の手が、直後に似合うと褒めたその着物の襟を引き下ろすのに苦笑しながら、傑は悦の背中で蝶結びになった帯に手を掛けた。
「あっぁあ、は、すぐっ…すぐ、る…!」
「ん?」
肌蹴た着物が絡みつく腕で肩を引き寄せながら甘く掠れた声で名前を呼ばれ、傑は顔を埋めていた悦の胸元から顔を上げる。
「き、す…キス、して…っ」
「…舌出せ」
低く囁いてちろりと自分の唇を舐める傑に、悦は従順に開いた唇から舌先を覗かせた。普段から体は十分快楽に素直だが、酔った悦は中身まで素直になる。
「んっ…ふ、ぅ…んん…っ!」
「……」
焦らさず舌先を絡め取り、根元まで余すところなく薄い肉を愛撫してやりながら、傑は最奥まで入れて止めていたモノをゆっくりと引き抜いた。絡んだ悦の舌が快感に震えるのを感じながら、角度を変えて口腔を嬲るのは止めずに、抜けるギリギリまで引き抜いたモノで軽く前立腺を突き上げる。
「んぅっ!ん、ふっ…は、ぁむ…っんんぅっ…は、ぁあぁっ!」
「っ…他に、御注文は?」
唇を離すのと同時に深く突き上げ、キツい締めつけに軽く息を詰めながら傑は冗談めかして軽く首を傾げて見せた。いつもより熱く絡みつく内壁に肌蹴た着物、甘い嬌声の度にちらちらと覗く赤い舌が非常に目に毒で、さしもの“純血種”もそろそろ限界だったが、そんなことはどうでもいい。
「はぁあっ、あっ、こ…っち…も、…んぅうっ…!」
「こっち、を?」
震える腕で傑の手を自分の下肢へと導き、少し恥ずかしそうに目を反らしながら“おねだり”をする、愛しい愛しい恋人を前にしては。
「さ、…っさき、っぽ…いじ、って…あッ、あぁっ…!」
…自分の快感など、二の次だ。
こたつに片足を入れたまま正常位で3度イき、背中が痛いと訴えた悦を、傑は約束通りお姫様抱っこでベッドまで輸送してくれた。
リビングでは散々悦の我が儘に付き合い、甘やかしてくれたが、終始そんな調子では飽きがくることを傑はよく知っている。
シーツの上で少し強引に組み敷かれた悦は、辛うじて足に引っ掛かっていた帯で両腕を一纏めに縛りあげられ、それに抵抗した“お仕置き”として、意地悪な恋人に嬲られていた。
「あぁ、あっ、そ…な、おく…っひぁ、ぁ、あぁぁッ!」
リビングで傑にねだり、散々指先に苛めて貰った先端に、凹凸のついた細い細いバイブがゆっくりと埋められていく。
先端が前立腺の位置に達しても傑は手を止めてくれず、狭い尿道越しに一番感じる場所をバイブにごつごつと擦られて、悦は思わず縛られた手を伸ばした。
「邪魔」
「ぁあ…だ、って…ぇ…ッ」
ただでさえ酔いの所為で感じやすくなっているのに、こんなの耐えられない、と悦は震える手で傑の腕を掴んだまま哀願するが、耐えられない事など初めから百も承知の傑は、勿論手を止めてはくれなかった。
両手首を縛る紺色の帯を頭上のシーツに縫い止められ、期待と怯えの両方からひくりと喉を鳴らした悦を真上から見下ろす美貌が、くすりと優しく笑う。
「そんなに気持ちイイ?」
「んんっ…あたま、…はぁっ…おかしく…なり、そ…ッ」
「ふーん…それじゃあ、」
こくこくと必死に頷く悦に、傑は思案するような表情で一度言葉を区切り、
「…邪魔したお仕置きに、動けなくなるまで苛めてやるよ」
「ひ…っ!」
耳元で甘く囁かれた残酷な言葉と共に、奥の奥まで埋められた尿道バイブをずるりと引き出され、悦の喉が引き攣った悲鳴を上げた。
咄嗟に嫌だと首を振る暇も無く、抜ける寸前まで引き抜かれたバイブが再びじゅぷりと沈められ、敏感な尿道口を小さな凹凸で擦りながら奥へ奥へと、小刻みに上下しながら埋められていく。
「や、あぁああッ…ひゃ、めっ…あーっ!あぁぁあ…ッ!」
「悦がイイ子になったらな」
「ひっ、ひぃあぁあッ!」
前立腺まで届いたバイブが敏感な箇所を擦りあげながら大きく出し入れされ、それだけでも気を失いそうに気持ちイイのに、更にナカを傑のモノに突き上げられて、気絶も出来ないほどの快感に悦は喉を反らして泣きじゃくった。
「は、ひっぃ、いぃいいっ…!」
尿道をバイブに、熱く蕩けた内壁を傑のモノにかき乱され、強すぎる刺激に潤んだ視界がちかちかと明滅する。どちらか片方を動かされる度にイってしまいそうなのにバイブが邪魔で射精は出来ず、ドライで達した悦の腰がびくりと跳ねるが、当然のように前後から前立腺を嬲る責め手は止まらない。
「や、とめっ…い、た…イった、から、ぁあぁ…ッ!」
「あぁ、イった後こーやって弄られると辛いんだっけ?」
「そ、…おね…が…っあぁあああ!」
言い終わらない内にイったばかりで特別敏感になった箇所を後ろから傑のモノに、前からバイブの凹凸に抉られ、悦は目を見開きながら乱れたシーツを足で引っ掻いた。
目の前が真っ白になるような愉悦に意識を飛ばし、また直ぐに強過ぎる刺激によって現実に引き戻される、という快楽の折檻を受けて跳ねる悦の足を容易く膝で抑え込みながら、傑は薄く笑う。
「じゃあ、お仕置きには最適だな」
「ひっ…ひぃぁあぁ…ッ、ぁあ、あっ…あー…っ!」
縛られた両手を背中に回され、うつ伏せになって腰だけを上げた体勢で犯されながら、悦は首筋に寄せられた傑の唇に、すっかり涙の跡がついた頬を新しい雫で濡らした。
気絶も許されずに一番気持ちイイことばかりを繰り返されて、悦にはもう抵抗はおろか、指先一つ満足に動かす気力も無い。
あまりに深い愉悦に溺れ、朦朧とした頭ではもう時計すら読めないが、傑が2、3度イったくらいだから、それなりに長い時間が経っている筈だ。もう日付も変わっているかもしれない。
少なくとも、体位を代えてからのこの数十分の悦は間違いなく“イイ子”だった筈だが、傑はまだ許してくれず、悦のモノには奥の奥まで尿道バイブが差し込まれたままだった。スイッチを入れられた細いバイブは、傑の手で出し入れされる代わりに小刻みに震えて痺れるような愉悦でそこを溶かし、背後から貫く傑の律動に合わせて不安定に揺れて、悦に掠れた悲鳴を上げさせる。
「ぁ、あぁぁ…っも、もぉ…いき、た、ぁ…あっ…!」
「イってるだろーが、さっきから何回も」
「ち、ちがっ…ひぅううッ!」
呆れたような声と共にかぷりと耳朶を甘噛みされて、強い快楽に慣らされた体には却って新鮮なその刺激に、悦はぎゅっと目を瞑った。もう何度目か知れない、体を芯から溶かしてじっとりと下半身にくすぶるドライでの絶頂に、自然と体は射精を求めて腰を揺らすが、膀胱の寸前までバイブを詰め込まれていては出来る筈もない。
震えるモノからは濁った先走りが数滴、バイブを伝ってシーツに落ちる程度で、出口を塞がれて渦を巻く熱に、悦は切なげに浅い呼吸を繰り返す。
「ふっ、ふぁっ…ぁ、あっ…ぁあぁぁ…っッ」
「イきたい?」
「き、たぃ…っひ、…だした…ぁ…っ!」
「じゃあ、これ抜かないとな」
言いながら腰を滑った傑の手が震えたままのバイブに触れ、ずる、と僅かに引き出されたそれに声も無く腰を跳ねさせながら、悦はシーツに頬を擦りつけて頷いた。
「抜いて欲しい?」
「っほし…ぬ、いて…っおねが…!」
「何で今まで抜いて貰えなかったんだっけ?」
「は、ぇ…?」
していることとは正反対に、子供をあやす様に優しく問われて、悦は小さく目を見開いた。
抜いて貰えなかったのはお仕置きだからで、お仕置きされたのは、その理由、は。
「ゆー、りと…キス、した…から?」
「ンなこと気にしてねーよ」
「…ひとり、で…じゅんび、させた…?」
「あぁ、晩飯?そんなのでグダグダ言うほど小せぇわけねーだろ」
答える傑の口調は相変わらず優しかったが、それ以外にお仕置きをされるようなことを思い出せない悦は、様々な意味で追い詰められているのもあって泣き出してしまった。
「も、わかんなっ…ぅ、…ひぅ…ッ」
「あー…まぁ、酔ってたしな」
体を丸めるようにしてしゃくりあげる悦に、傑は苦笑しつつ繋がったままの体を膝の上に抱き上げた。
「元々こじつけみてーなもんだし、イイよ。ちょっと意地悪だったな」
悦の背中をあやす様に撫でながら甘い声で耳元に「ごめん」と囁き、傑はそっと震えたままのバイブに手を掛けた。
「あ、ぁッぁああぁ…あーっ…ッ!」
ゆっくりと引き抜かれたバイブを追うようにして、勢いを無くした白濁色の熱がどろりと傑と悦の下腹を汚し、待ち望んだ愉悦に強張っていた悦の体から、くったりと力が抜ける。
射精に合わせて強く締めつけるナカに軽く目を細めながら、腕の拘束を解いた悦の体をそっとシーツに横たえ、余計な刺激をしないようそっとモノを抜こうとした傑の袖を、手首に赤く跡を残した手が掴んだ。
「寝てろよ、今日は無茶させた」
一瞬驚いたように動きを止めたが、優しい声でそう言いながら尚も腰を引こうとする傑の袖を、悦は震える手に精一杯の力を入れて引き寄せる。
傑の言う通り、今日は久しぶりに無茶をさせられた。倦怠感と疲労感で指一本動かすのも億劫なくらいだし、酒も抜けてきている。ベッドは柔らかいし頬を撫でる傑の手は暖かいし、このまま眠ってしまいそうだ。
でも。
「…だめ」
「なにが?」
「まだ…イってない、だろ」
眠そうに瞬きを繰り返しながらも真っ直ぐに傑を見上げて、悦は普段より大分苦労してナカに半ば入ったままの傑のモノを、誘うようにキツく締めつけた。
「っ、…悦」
「いい、から…」
悦の為には自分の欲望などあっさり無視してしまう傑が、少し辛そうに息を詰まらせながら咎めるように名前を呼ぶが、ナカで質量を増したモノに疲労した体の芯が軋んでも、そんなことはどうでも良かった。
「すぐる…」
「…っ…」
促す様に腰に足を絡める悦から顔を反らした傑が、忌々しそうに小さく舌を打つ。
悦の体を気遣って、強引にでも腰を引けない自分自身に向けられたその舌打ちに、悦は袖から傑の手に指を絡めながら小さく笑った。
「いいから…ナカ、で」
傑の腰を引き寄せる力も無いくらい疲れていたが、自分だってイク寸前の癖に、平気な顔でそれを我慢しようとする優しい優しい恋人の、この瞳を見る為なら。
「…出来るだけ優しくする」
「ん、ぅんっ…!」
…欲に濡れた淫靡な藍色を見る為なら、自分の体など。
Fin.
バカップルは何時だって平常運転。
今年もどうぞ宜しくお願い致します。
